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脱炭素がもたらす投資機会とリスク - 原田 哲志

世界各国で二酸化炭素排出量を実質ゼロに削減する「脱炭素」に向けた取り組みが加速している。米国のバイデン大統領はトランプ政権時に脱退したパリ協定に復帰する方針を表明した。

また、中国は国内総生産(GDP)当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2005年比で65%以上削減すると表明、削減目標を引き上げた。主要国が相次いで脱炭素に積極的な方針を表明している。日本でも、昨年10月の菅首相の所信表明演説で、はじめて「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが表明された(図表1)。

世界では、既に123カ国が2050年までに二酸化炭素の排出量から吸収量を差し引いたネット排出量をゼロにする方針を表明している(2020年12月12日時点)。この目標の実現に向けて、各国は再生可能エネルギーや電気自動車(Electric Vehicle:EV)、水素利用などクリーンエネルギーの普及を後押しする政策を発表している。脱炭素は新技術の発展や競争力向上につながるとされ、各国政府はその推進を競っている。

脱炭素に向けた取り組みは資産運用にも大きな影響を与えている。各国の方針には、二酸化炭素排出量の多い石炭発電や石油発電を削減することが盛り込まれている。こうした環境規制の強化によって、化石燃料関連資産への投資資金が回収できなくなるリスクがある。投資家の中には、こうしたリスクを想定し、石炭関連事業への投融資から撤退する動きも見られる。

2015年、ノルウェー政府年金基金は、収入の30%以上を石炭関連の事業から得ている企業を投資対象から除外する方針を決定した。この他、公的年金基金としては、カリフォルニア州職員退職年金基金、スウェーデン第二公的年金基金などが石炭関連事業を投資対象から除外している。こうした動きが加速した場合、石炭関連事業への資金の出し手が限定される可能性もある。

脱炭素に向けた取り組みは、エネルギー産業だけでなく様々な業種に影響している。生産されたエネルギーの消費を通じて、多くの業種が二酸化炭素の排出と結びついているためだ。発電、鉄鋼、航空といった直接的に二酸化炭素を排出する業種以外でも、エネルギー消費削減などの対策のためのコストが必要となるリスクがある。投資家にとっては、投資先企業のコストの増加により収益が減少するリスクがある。

その一方で、脱炭素は単にリスクというわけではなく、投資機会にもなり得る。脱炭素によってEV、再生可能エネルギーといった新たな産業が急速に成長しているためだ。環境投資を通じて、コロナ禍によって停滞した経済を復興しようとする政策は「グリーンリカバリー」と呼ばれている。

2020年6月、国際エネルギー機関(IEA)は「Sustainable Recovery:持続可能なリカバリー(経済復興)」を発表した。この中で、持続可能性を重視した施策に3年間で3兆ドルを投資することにより、世界のGDP成長率を1.1%増加させることが可能と指摘している。株式市場においても、脱炭素に関連する企業の株価が大きく上昇している。EVメーカーのテスラの株価が急上昇したのは代表的な例だ。

その時価総額は代表的なガソリン車メーカーであるトヨタ自動車を上回る水準にまで成長している。各国政府が脱炭素を推進していくことで、従来の化石燃料に依存した産業がクリーンエネルギーに急速に置き換わる可能性がある。

こうした脱炭素など持続可能な社会の構築が求められる中、世界の機関投資家の間では、運用にESGを取り入れる動きが広がっている。2020年3月末時点でPRI1に署名している運用機関は3,038にまで増加しており、その運用資金残高の合計は103.4兆米ドルに達している(図表2)。

日本においても、2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が署名したことをきっかけにESG投資が拡大している。ESGに基づいて、企業の将来的なリスクや持続性などを分析・評価した上で、投資先を選別することで、長期的に安定した運用を行える可能性がある。脱炭素など持続可能な社会の実現に向けて産業構造の転換が進む現在では、資産運用におけるESGの考慮が重要性を増していくと考えられる。

1 国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)とは、2006年当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが提唱したESGに基づいた投資の原則である。この原則を遵守し投資を行うことに合意する署名が行われている。

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