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評価とインセンティブ - 森宏一郎

今、アメリカからの留学生を主な対象として「日本企業と日本経済」をテーマに講義をするという貴重な体験をしている。主な受講者がアメリカ人学生であることを踏まえ、筆者が英国ヨーク大学で体験した授業方式と評価の考え方と、一橋大学で竹内弘高氏(現・ハーバード大学教授)から受けた授業を参考にして授業を行っている。

その方法と評価はどういうものか?講義は対話式を意識しているが、基本的な知識を伝えるという部分は普遍である。本コラムでは、タイトルのとおり、評価に焦点を当てて議論したい。

評価対象は、クイズ、チーム・プレゼンテーション、小論文の3つで構成されている。これら3つの評価対象に関する評価のスタイルとその考え方は共通しているので、以下、クイズについて話をしよう。

クイズは、毎回の授業の最初に行われ、その回の授業テーマに関連する問題が出題される。例えば、こんな問題である。「あるハンバーガー工場では、8人の従業員が以下のそれぞれ5つの製造プロセス(内容は省略)全てに従事している。あなたが生産マネジャーなら、どのように生産を効率化させるか?また、同時に高度に品質管理をやるためにはどのような方法が考えるか? 議論の上で必要な仮定があれば、明確に仮定も書くこと。」

その回の授業テーマに関連する問題が出されるという点で違和感があるかもしれない。これには2つの意味がある。1つは、その日の授業に興味を持ってもらうという意図。もう1つは、答えのない問題が出題されており、自分の頭で考え、これまでに持っている知識・知恵・経験を総動員して、複数の側面を整理して議論する作業をしてもらいたいということである。

クイズの評価については、A4用紙の表面ぐらいが埋まる程度に、理解可能な議論が書かれていれば、2点がもらえる。これが基準点であり、合格点でもある。カバーされている論点が非常に充実していたり、なかなか思いつかないようなことや論理が書かれていたり、答えが創造的だったりすると、加点され、最大4点までが与えられる。

この評価の背後には次のような考えがある。我々は、答えのない非決定論的世界に生きていて、自分自身で学び、自分の頭で考えて何らかの答えを整理して出さなければならない注1。その方法を体得してもらいたいという考えである。

筆者が留学していた英国ヨーク大学では、講師が授業で教えたことを100%再現しても50点(合格最低点)しか与えられない。良い評価を得るためには、自分自身で考えて勉強し、付加価値をつけなければならない。留学当初、この評価の考え方に衝撃を受けたのを覚えている。

各講義のシラバスには、勉強量という項目があり、授業時間などのほかに、1セメスター1コマの授業でおおよそ100時間の個人勉強が示されていた。これは、上述の評価の考え方と整合的である。私のこれまでの経験で、日本の大学で「個人勉強」が、授業で単位を取得するための中心になると明確に示されたことはなかった。

試験問題も整合的になっていて、次のようなスタイルの問題が多い。「持続可能性について議論せよ。」自分で勉強して、議論を整理し、自分なりの答えを作らなければ、まともな答案を書けるはずがない。1問当たり1時間で、最低限でもA4用紙3~4ページぐらいは書けないとダメである。筆者も留学するまでの感覚なら、こんな問題は手抜き問題だと断罪しただろう。

こういう具合なので、授業期間では、図書館だけではなく外の芝生などキャンパス内の到るところで、本や論文を読む学生の姿を目撃することになる。というのも、講師の授業内容を100%再現することは事実上不可能なので、各授業で合格するためには個人で勉強に励まざるを得ないからである。これは全体的に学生がまじめだからということではなく、必要にかられてのことである。

日本の大学で、なかなかこのような風景は見られないが、それは学生がまじめかどうかという問題ではなく、どのような勉強が求められているかが明確に評価から示されていないだけというように見える。どのような勉強をするかに関するインセンティブが明確に与えられていないのである。

さて、上のようなスタイルでクイズを行っているが、アメリカ人学生と日本人学生で反応が大きく異なっているのが興味深い。まず、クイズそのものに関するアメリカ人学生からのクレームは皆無であり、クイズの答えを得る方法を質問したアメリカ人学生はいない。

他方、日本人学生は、授業を履修するかどうかを決めるために相談に来た学生を含めて、多かった質問は「クイズの答えは事前にどのように得るのか?事前に答えが分かる読み物が与えられるのか?」というものだった。私の回答は「そういうものはない。いわゆる解答のようなものはなく、私自身が答えを書くのも難しい問題が出題されている。答えはたくさんあり、自分の頭で考えて十分に書いてもらえればそれでいい。」である。

このやり取りで、概ね日本人学生の表情は厳しいものになる。思い返してみれば、冒頭の竹内弘高氏の講義では答えらしきものが見つからず、筆者はいつも不可思議な気持ちでいっぱいで、「何かを学んだ」というような感覚はなかった。これは何を学ぶかということの認識がずれていたからだろう。

どのような行動を取ろうとするかのインセンティブは、与えられる評価基準とその考え方と密接に結びついている。どのようなことを学んでもらうかは大学や講義ごとに異なるだろうが、評価基準とその考え方を明確に示すことで、どのような内容の勉強をするかのインセンティブを学生に与えることができるだろう。

今のところ、クイズに関して、日本人学生の取り組み方に大きな変化は出てきていないが、少なくとも教室で毎回奮闘努力をしてきている。今後のクイズ、プレゼンテーション、小論文で何らかの成果が見えれば、それは筆者の喜びでもある。

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(注1):この考え方について、非常に面白い論文がある。沼上幹(1994)「卒業式を「自由な人生」の葬式だと思っている学生諸君へ」『創造するミドル―生き方とキャリアを考えつづけるために』金井壽宏・沼上幹・米倉誠一郎(編集),有斐閣. --- 森宏一郎(滋賀大学国際センター 准教授)

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