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「尖閣の主権は日本」直後に訂正、米報道官の発言、計算づくか - 樫山幸夫 (元産經新聞論説委員長)

アメリカは、尖閣諸島を「日本の主権が及ぶ領土」と認めるのか。国防総省(ペンタゴン)の報道官は2月、主権問題で「日本を支持する」と明言した。米国の従来方針からの転換と受け止めらたが、直後に、「誤りだった」と軌道修正した。

言葉通り単なるミスなのか。

発足から1カ月余り、予想に反して中国に強い姿勢で臨んでいるバイデン政権が、尖閣の領有問題をめぐって日本支持への転換を考慮し、中国をけん制、反応を探ったのではないかとの憶測もなされている。

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中国海警の侵犯非難

2月23日、米国防総省ジョン・カービー報道官の定例記者会見で、中国海警の船舶が尖閣周辺で日本領海への侵犯を繰り返し、漁船に接近したことへの質問が出た。

報道官は、「中国は国際的なルール無視を続けている。われわれは尖閣について国際社会とともに見守っており、尖閣の主権については日本を明確に支持する」と言明、尖閣は主権が及ぶ日本の領土との認識を示した。

「特定の立場とらず」が従来見解

アメリカ政府はこれまで、尖閣を日本の施政権が及ぶ範囲と認め、日本への防衛義務を定めた日米安保条約第5条が適用されるとの立場をとってきた。

しかし、日本の主権が及ぶ日本の領土かどうかについては、「特定の立場をとらない」との姿勢を貫いてきた。

こういう経緯があるため、23日のカービー報道官の発言は、大きな政策転換とみられた。しかし、国防総省は、その直後にウェブサイトで公表した速記録の末尾に、「尖閣の主権について、米国の政策に変更はない」と断り書きの注釈を付した。速記録に注釈をつけるなどは極めて異例であるため、この経緯はア日本のメディアでも報じられた。

カービー報道官はこれに続く2月26日の会見で、23日の発言について、「私のミスで混乱を引き起こした。お詫びしたい」と陳謝、「米国の従来の政策に変更はない」と、重ねて公式見解を繰り返した。

1月の日米首脳、外相、防衛相による電話協議に言及したうえで、尖閣を含む日本の防衛に対する米国のコミットメントは不動と強調した。

さりげなく徐々に軌道修正

一連の訂正をめぐる動きをどうみるべきか。

アメリカはこれまで一貫して、尖閣について、日本の主権を認めることは避け続けてきたてきた。

防衛対象であると明言するのはやむを得ないとしても、日中間のトゲである微妙な問題で、ことさら日本に肩入れして中国の反発を招き、情勢がさらに不安定化することを避けたいとの思惑からだった。

一方で、目立たない形で、その方針を変化させてきた事実も指摘されるべきだろう。

それほど知られていないが、アメリカ政府は4半世紀前の1996年、日本政府に対し、外交ルートを通じて「尖閣諸島の主権がどの国にあるかは、微妙な問題であり、いずれの立場をも支持するのは避けたい」という公式見解を伝えたこと。

米政府は同時に中国政府、台湾にも同様の説明をおこなった。アメリカはこの時、「当事者同士が話し合いによって、平和的に解決することを望む」と強調した。

しかし、日米安保条約第5条が、同諸島に適用されるかどうかについては、この時、明確な態度を示さなかった。

同じ年に、当時のモンデール駐日米大使が、「尖閣の紛争に米軍が介入する安保条約上の責務はない」と発言して物議をかもしたが、当時の尖閣防衛に対する米国の方針はまだ、この程度だった。

そういうアメリカも、今世紀に入ってからは積極姿勢に転じ、尖閣への5条適用に言及し始めた。

2004年3月、当時ワシントン勤務中の筆者は国務省の記者会見で当時の副報道官にこの問題について質問したことがある。

「尖閣諸島は沖縄返還以来、日本の施政管理下にある。日米安保条約第5条は日本の施政のもとにある領域が対象だから、尖閣諸島にも当然適用される」と述べ、今度は、はっきりと米国による防衛対象であることを認めた。その一方で、「米国は最終的な主権に関する問題については、いかなる立場をもとらない」として、主権がどこにあるのか、どこの国の領土かについては、ここでも立ち入ることは慎重に避けた。

国防次官補をつとめ、その後国務副長官に就任した知日派、リチャード・アーミテージ氏が同様の発言をしたのもこの時期だった。

オバマ氏は主権問題を口にせず

オバマ政権になってからは、米国はさらに積極さを見せるようになった。

2014年4月にオバマ大統領が来日、安倍首相(当時)との共同記者会見した際、尖閣への安保5条適用を米大統領として初めて、明言した。

しかし、主権問題についは、この時も「特定の立場をとらない」と従来通りの立場を堅持、喜ぶ日本側に冷水を浴びせた。

そのちょうど1年後、オバマ氏が再び来日。安倍首相との共同会見で、尖閣への5条適用を明言したのは前年同様だったが、違ったのは、「主権について特定の立場をとらない」という発言がこの時は一切なかったことだ。

わずかな相違ではあったが、読売新聞は2015年5月5日付の1面で、大統領発言から「主権」が消えたことを報じ、その背景として、「日本政府から事前に要請を受けて、米国は従来の見解をあえて述べなかった」と伝えた。

真相はともかく、日本政府が粘り強く働きかけた続けた結果であることは明らかだろう。

尖閣への5条適用はトランプ政権にも引き継がれ、日米間の公然の了解事項となっていくが、米国は、主権、領土で特定の立場をとらないという方針をなお捨てようとはしなかった。

速記録に〝実績〟残す?

こういう状況のなかで、2021年1月にバイデン大統領が就任した当初、日本国内でも対中強硬派を中心に、新政権が中国へ柔軟な態度をとるのではないかと危惧する向きがあったが、それは杞憂に終わった。

1月28日の大統領と菅首相との電話協議では、日本側からの言及をまたずに先方から、尖閣へ安保条約5条が適用されるという表明がなされたのも、その表れで、日本側が歓迎したのは当然だった。

カービー報道官の〝失言〟があったのは、それから時を置かずしてのタイミングだった。

この時、報道官は尖閣問題についてかなりの時間費やして発言している。

日本の主権を認めたくだりの前段では、「すべての国家は、大小を問わず、その主権を保障され、強制力から解放されて規制と規範に基づいた経済活動が保障されるべきだ」「自由で開かれた国際的秩序による利益は、米国とその同盟国、そして中国も享受しているが、中国は自らの行動でそれをダメにしている」、「われわれは中国による戦略的な挑戦に対して、軍備の近代化、同盟国との連携強化で対抗する」などだ。

これだけ詳細かつ丁寧に尖閣について語っていながら、「主権」の部分についてだけ、とってつけたようにミスだったと説明するのは、いかにも不自然というべきだろう。

「誤り」のくだりを、速記録から削除せずに放置しているのも不可解だ。

それやこれや考えると、近い将来、実際に方針転換をすることを念頭に、それに向けての〝環境整備〟、つまり事前の予告と中国の反応を探るための〝瀬踏み〟ではなかったか。

「ミス」の部分を速記録に残しておくのも、国防総省報道官発言としての〝実績〟を作る意図と思えなくもない。

近く、正式に日本の主権認める?

そもそも、尖閣を安保条約5条の適用範囲といいながら、「主権」「領土」として認めないということ自体、無理のあることというべきだろう。

日米安保条約5条はたしかに、適用範囲を「日本の領土」ではなく、「日本国の施政の下にある領域」としている。

それにどれほどの意味があるのだろう。ナンセンスであることは、当のアメリカがよくしっているだろう。

バイデン大統領は就任直後の2月に行った外交演説で、中国について「米国の繁栄と安全、民主的な価値観が挑戦を受けている」「攻撃的、強圧的な行動には対抗する」などと強い調子で中国を非難した。

対抗するなら、もはや配慮など必要はない。

米国が、尖閣における日本の主権、日本の領土と正式に認めるのは遠くないだろう。 

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