不動産マーケットは安倍政権が始動した2013年以降、アベノミクスと呼ばれる経済政策などの恩恵を受けて上昇速度を速め、2020年の東京五輪に向けて最高潮となる予定だった。
ところが20年初めから猛威を奮い始めた新型コロナウイルス感染症が、人々の移動や接触を止め、経済活動の多くにプレッシャーをかけ続けた結果、生活の基盤を構成する不動産にも甚大な影響を及ぼすことになった。
本稿ではこうした状況をふまえ、21年の不動産マーケットがどのようなものになるかを予測してみよう。
コロナ禍で大打撃を受けた宿泊業界
コロナ禍の波を最初に被ったのは、ホテルや旅館などの宿泊業界だった。
19年には年間で3188万人にも及んだ訪日外国人客(インバウンド)需要が消え去ったばかりでなく、国内旅行も出張もなくなったことから多くの宿泊施設が苦境に立たされた。
政府によるGo To トラベルキャンペーンなどの支援策も、結果として一部の高級ホテルやリゾート、旅館が恩恵を受けただけで、大阪や京都などただでさえ供給過剰気味となっていたエリアを中心に、ホテルや旅館の倒産、廃業が相次いだ。
©iStock.com
21年は、この業界内の優勝劣敗がさらに進んでいくだろう。そもそもコロナ禍は一過性のものにすぎない。100年前に世界中で大流行したスペイン風邪の例を見るまでもなく、SARSやMERS、新型インフルエンザなども流行は1年を境にほぼ収まっていく。
人々の移動したいという欲求がなくならない限り、宿泊の需要もあり続ける。したがってこの業界はあと半年の「我慢の季節」である。
資本力の強いところは生き残り、一方で中小資本は淘汰されていく。大手資本のホテルや旅館からすれば、21年は市場が“整理”され、国内外の旅行やビジネス需要が戻る中、回復を模索する年になると言えそうだ。
ただし気を付けなければならないのは一気に回復するのではない点だ。インバウンド需要が19年並みになるのは22年から23年頃になる。また国内外のビジネス需要の一部はZoomなどの会議ツールで済ませる動きも顕著になる。ビジネスホテルにとっては厳しい時代がしばらく続きそうだ。
商業施設に迫る「スタイル」の変化
商業施設に関しては、都心に集中していた飲食店や物販店が分散する動きが顕著になりそうだ。
コロナ禍が終息したあとにも、テレワークの普及によって都心部の昼間人口はコロナ前には戻らないと見込まれる。都心部の接待を伴うような飲食店や百貨店、アパレルなどの物販店にとっては引き続き厳しい年となるだろう。
多くの商業店舗は人が居るところに拠点を移すようになると考えられ、郊外衛星都市に移転する動きは加速することが予想される。
人々の飲食の形態も変わり、社内の飲み会や接待中心から、住んでいる家に近い衛星都市などで、家族や近隣の友人、知人などと食事を楽しむようなスタイルに変わってくるだろう。
また、簡単に店舗を移せない百貨店は、戦略の転換が迫られる。つまりこれまでのような万人向けの“百貨”を扱うのをやめ、富裕層のみに的を絞り、密にならない少人数の空間での徹底した提案コンサルティング型営業に切り替わるだろう。
いっぽうで日常品の商取引はほとんどがEC(電子商取引)によって行われるようになり、生鮮食料品の購入もネットスーパー中心に変わるだろう。
終息しても変化は避けられない
実は21年以降にコロナ禍の影響を大きく受けると思われるのがオフィスマーケットである。
今は宿泊や商業施設の苦境ばかりに目が向けられているが、オフィスマーケットに対する影響が最も深刻と思われる。というのも今回のコロナ禍は人々の、「通勤」という基本的な生活様式に根本的な変化をもたらしたからだ。