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拡大が期待される国内年金基金 による不動産、インフラ投資 - 増宮守

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要旨

・ 日本の年金基金は、長らく続くデフレへの対応などから債券比率の高いポートフォリを構築してきたが、欧米豪の年金基金に比べ、不動産、PE(プライベートエクイティ)、インフラ、ヘッジファンドなどの「その他資産」比率の低さが目立つ。市場のグローバル化により、伝統的資産におけるグローバル分散投資効果が薄れた上、インフレーションが構造的リスクとなるなか、ポートフォリオ構築において「その他資産」への注目が高まっている。

・ 国内年金基金の「その他資産」比率が特に低い理由のひとつは、不動産投資比率の低さであるが、最近は、市場関係者の努力により投資環境の整備が進んでおり、年金基金による不動産投資拡大の兆しもみえつつある。

・ 不動産投資以外では、国内年金基金の「その他資産」比率が低い原因として、インフラ投資を挙げることができる。たとえば、インフラ投資先進国であるカナダでは、大手年金基金が自社チームによる直接投資を積極的に進めており、インフラ資産だけで2桁の資産比率を占める年金基金も珍しくない。

・ 今後、先進国での既存インフラの更新や新興国での新規開発には巨額の資金が必要といえ、各国政府の財源不足を背景に、民間資金によるインフラ投資機会の拡大が予想される。さらに、これまでインフラにプロジェクトファイナンスローンを提供してきた銀行の与信力が低下する中、ローンや債券形態でのインフラ投資機会も拡大するとみられる。

・ 国内年金基金も、退職後の生活資金を提供するという本来の役割に立ち返れば、将来のインフレーションリスクに備えることは有意義であり、また、長期負債とのマッチングのために長期投資対象の確保が求められる。このように考えれば、投資環境の整備が進む不動産や、投資機会の拡大が期待されるインフラ資産は、国内でも、大規模な年金基金にとって重要な投資対象となる可能性がある。

1――「その他資産」比率の低い国内年金基金

日本の年金基金は、長らく続くデフレへの対応もあり、債券中心の資産ポートフォリオを構築してきた。その結果、欧米豪の年金基金の資産配分に比べ、国内年金基金の資産配分では債券比率の高さが際立っているが、株式比率が特に低いということはなく、「その他資産」比率の低さが顕著となっている(図表-1)。

「その他資産」には、主に不動産、PE(プライベートエクイティ)、インフラ、ヘッジファンドなどがあり、国内の年金基金は、ヘッジファンド投資は実施しているものの、その他には消極的である。一方、欧米豪の各国をみると、「その他資産」がかなりの比率を占めている。2001 年時点と比べると、全ての国で株式比率が大きく下がったが、債券比率のみを大幅に引き上げた日本とは対照的に、欧米豪では「その他資産」比率が大幅に拡大した(図表-1、2)。

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欧米豪で「その他資産」比率の拡大が進んだ背景には、年金基金による新たな長期投資対象の追求に加え、「その他資産」の分散投資効果やインフレーションヘッジ機能への期待がある。
近年、市場のグローバル化の進展に伴い、世界的に伝統的資産の各市場がリスクオン、リスクオフのタイミングで同時一定方向に動く傾向が強まり、伝統的資産に限ったポートフォリオでは、グローバル分散投資効果を得ることが難しくなりつつある。

また、世界的な景気減速にもかかわらず、新興国の経済成長や人口増加を背景に、天然資源や食糧需要の拡大が続き、インフレーションが構造的リスクとなってきている。安全資産への逃避だけでは十分な資産防衛とはいえず、インフレーションヘッジ機能も備えたポートフォリオの構築が求められており、欧米豪では分散投資効果やインフレーションヘッジに配慮するなかで「その他資産」比率が拡大してきた。

一方、国内年金基金は、景気低迷による長期のデフレが継続するなか、債券比率の高いポートフォリオによって、最善のパフォーマンスを残してきたといえる。ただし、このような長期に及ぶデフレは世界的に珍しい現象であり、今後の経済環境の変化を視野に入れたポートフォリオの再構築が有効と考えられる。また、多くの国内年金基金は、債券比率の高い保守的なポートフォリを構築しているものの、長期負債と資産の期間マッチングが不十分であり、より長期の資産を組み入れる必要があるといえる。

2――拡大の兆しがみえる不動産投資

国内年金基金の資産ポートフォリオにおいて「その他資産」比率が低い原因のひとつは、不動産投資比率の低さである。欧米豪の年金基金では、ポートフォリオの10%程度を不動産に投資することも珍しくないが、国内年金基金による不動産投資は非常に限定的である(図表-3)。

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不動産は元来、長期の現物資産であり、安定的な賃料収入を見込める性質から、長期負債を持つ年金基金などに適した長期資産と考えられる。また、インフレーション時には、賃料の引き上げとそれを期待した物件価格の上昇が見込めることから、一般にインフレーションヘッジ機能も期待できる。このような認識から、欧米豪では、年金基金が積極的に不動産投資に取り組んでいる。

一方、日本では、人口動態から長期的に不動産市場を楽観視できない面もあるが、実務的には、流動性の欠如や大規模な必要投資額、さらには、過去の土地バブル崩壊の記憶から依然として不動産投資はハイリスクとの見方が強いこと、また、J-REIT 市場創設以前について不動産キャピタルリターンのトラックレコードがないため長期の投資リスクリターン分析ができないこと、などが障壁となっている。また、流動性や必要投資額などの課題を解決するはずのJ-REIT についても、投資口価格の値動きが株式と類似して激しく、市場規模が小さく流動性も不十分として、年金基金などは一般的な投資対象に含めていない。

このように、長期安定的な投資対象を求める年金基金は、投資環境が整っていないとの認識から不動産投資に慎重な姿勢であり、国内不動産市場や証券化市場の成長にとって、年金基金の取り込みは積年の課題となっている。しかし、最近、市場関係者の努力により投資環境整備に進展がみられ、年金基金による不動産投資拡大の兆しが表れている。不動産投資インデックスの整備が進んでいる他、新しい投資対象である私募REIT(非上場オープンエンド型不動産投資法人)の増加などがみられる(図表-4)。私募REIT は、上場されたJ-REIT と異なり価格の短期的変動が小さく、また、一般的な私募ファンドと異なり無期限の長期投資を可能とする。年金基金も私募REIT 投資に関心を示しており、不動産市場に年金資金を取り込む有効な手段として期待を集めている。

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