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「漢族の歴史的体質」から読み解く「ミャンマー・クーデター」この先のシナリオ - 樋泉克夫

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デモ隊の中にはバツ印をつけた習近平国家主席の写真を掲げる人も(C)EPA=時事

 2月1日にミャンマーで国軍によるクーデターが発生してから1カ月が経つ。伝えられる限りでは、「この道はいつか来た道」の感が強い。つまり、かつてのタン・シュエ軍事独裁政権(1992~2011年)が歩んだ親中路線だ。

 欧米諸国が「軍事独裁反対」「アウン・サン・スー・チー解放」「民主勢力支持」を掲げ国際的な制裁強化を呼び掛けながらも、実態的には“口先介入”のレベルに止まっている限り、ミャンマーを中国の側に追いやってしまいかねないのである。

本質を矮小化する「民主派VS.国軍」の図式

 今次クーデターの背後に中国の存在を指摘し、習近平政権の対外膨張路線を非難する声が度々聞かれる。クーデターで国政の全権を掌握したミン・アウン・フライン国軍司令官、あるいはタン・シュエ将軍の最側近として知られたミン・スウェ暫定大統領と中国との間に“連携”があったのか確かめる術はない。

 だが、軍事独裁政権が継続したとしても、あるいは総選挙で文民政権が選出され、国軍の政治的影響力を排除した民主的で公正な政治が行われたとしても、ミャンマーが中国の影響力を払拭することは至難と言わざるを得ない。

 文民政権であれ軍事政権であれ、欧米の支援を背景にした反中姿勢の政権がネピドーに誕生することは、中国にとって断固として避けなければならないことだからである。

 中国の長期的な東南アジア政策はもちろんのこと、習政権が推し進める「一帯一路」にとっても、ミャンマーは中国の勢力圏内に何としても押しとどめておかなければならない地政学的位置を占めている。

 ミャンマーの動向が習政権の死命を制するといっても過言ではない以上、敢えて誤解を恐れずに表現するなら、ミャンマー問題はミャンマーの国内事情だけからは捉えられないのである。「民主派VS.国軍」の政治図式で捉えることは単純に過ぎるばかりか、問題の本質を矮小化してしまう。

中国の“出入口”としてのミャンマー

 改めて中国の側から見たミャンマーの地政学的位置付けを見ておこう。

 ミャンマーと国境を接する雲南省は中国西南の「深奥部」である。だが視点を変えれば、ミャンマーの先に広がる世界に対する「最前線」でもある。

 10年ほど前、雲南省西南端に位置する芒市をミャンマー国境沿いに歩いた際、街中で「中国離印度洋最近的城市(中国でインド洋に最も近い都市)」という標識を目にした。街行く人に尋ねると、同市の特徴を捉えたキャッチコピーとのこと。

 ミャンマーを制すれば、中国は雲南省を橋頭堡にインド洋に直接アクセスできるようになる。その先のインド、中東、アフリカ、さらにはヨーロッパにも近距離で繋がれる。

 この地域の歴史を振り返ると、17世紀半ばの明朝から清朝へと交代する混乱期、多くの中国人がミャンマー東北部で難民化した。現地社会に同化・融合することなく現在に続く彼らの末裔たちは、少数民族として中央政府からの自主・独立を求め、ミャンマー国軍との間で長年に亘って戦闘を繰り返している。これがミャンマーの国論統一を阻む要因の1つである。

 少数民族問題はロヒンギャ問題だけではない。もっとも、その淵源が少数民族を分断することで自らに有利な統治を進めたイギリスの殖民地政策にあることも忘れてはならない。

 19世紀後半、イギリスは殖民地化したミャンマー(当時はビルマ。以下、ミャンマーで統一)の東北部を経由して雲南省から中国中央部への侵攻を画策した。茶葉からアヘンまで、雲南省の物産はミャンマーからインド洋を経由してインド・中東、それから西欧世界にまで販路を広げた。

 第2次大戦期、連合国は重慶に逃げ込んだ蔣介石政権へのテコ入れのため、インド東部とミャンマーを経由した支援ルート(「援蔣ルート」)を構築した。

 同ルートを遮断することで蔣介石政権の孤立・弱体化を企図した日本軍は、ミャンマーを経由して雲南省西南端まで兵力を送り込んだ。

 そして毛沢東は中国系の緬共(「ビルマ共産党」)を動員し、武装闘争によってミャンマー東北部の動揺を画策し、東南アジアにおける「解放闘争」の一環としてミャンマーへの影響力浸透を謀った。

 いわばミャンマーは中国のインド洋への“出口”であると同時に、西南方面からの中国への“入口”でもあるのだ。

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