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  • ロイター
  • 2021年03月01日 11:35 (配信日時 03月01日 11:27)

焦点:株主総会を仕切る証券代行、寡占の裏に高額解約料


山崎牧子

[東京 1日 ロイター] - 昨年の東芝株主総会でにわかに注目を集めた証券代行は、大手信託銀行3行が97%のシェアを握る寡占状態にある。ロイターは企業の株式担当者や証券代行の関係者など9人に取材。高額の解約手数料が新規参入を阻んでいる可能性が浮かび上がってきた。

証券代行業者は株主名簿の作成管理、総会の招集通知の発送、議決権行使書の集計などの事務を行う専門機関で、上場会社は取引所規則で株式事務の委託を義務付けられている。表舞台に登場するのはまれだが、企業統治(コーポレートガバナンス)の根幹を成す業務だ。昨夏の東芝株主総会を機に、証券代行による株主議決権の誤集計が相次ぎ発覚した。

日本国内では三菱UFJ信託銀行と三井住友信託銀行、みずほ信託銀行が受託社数で97%のシェアを握る。三井住友信託の子会社2社を含めれば99%に達する。投資家向け広報活動(IR)のコンサルティングなど株主関連サービスを手掛けるアイ・アールジャパンは2012年に約40年ぶりの新規参入を果たしたが、そのシェアは1%にすぎない。

証券代行世界最大手の豪コンピュータシェアが2005年、UFJ信託銀行との提携を通じて日本の証券代行事業に参入しようとしたが、UFJ信託と三菱信託銀行の合併で計画は立ち消えになった。コンピュータシェアは当時の経緯についてコメントを控えた。

複数の企業・業界関係者によると、企業が証券代行の委託先を変える場合、業界の慣習として株主1人当たり2000円の解約手数料が請求される。また、この費用は、新しい委託先が肩代わりすることも慣習となっている。5万人超の株主を持つ顧客の解約料を肩代わりする場合、費用は1億円を超え、新規参入者には大きな負担となる。

証券代行を委託する企業からは、高額な解約料がある限り「他社への乗り換えは現実的に難しい」(メーカーの株式担当者)との声が聞かれる。

三菱UFJ、三井住友、みずほの大手信託銀行3行はロイターの問い合わせに対し、解約手数料は事務作業の対価として請求していると回答。金額については、個別顧客との取引内容としてコメントを控えた。アイ・アールジャパンは請求していないとした。

昨年は音楽大手のエイベックスなど数十社が証券代行の委託先を変えた。関係者2人によると、三井住友信託から三菱UFJ信託に変更したホンダの場合、株主約21万人分に当たる4億円超の解約手数料が発生し、実際には三菱UFJ信託がこの費用を肩代わりした。

ホンダは「当事者間での合意契約内容に関わること」なので答えられないとした。エイベックスは証券代行を変更したことは事実としたものの、契約の詳細は明らかにしなかった。

ロイターが取材した企業側の担当者の話を総合すると、証券代行業者に支払う株式事務委託料金は1株主当たり年間1000─1500円程度。物理的に株券を管理していた時代は、株主名簿のデータ打ち込みなど労働集約的な薄利事業だった。しかし、現在は証券保管振替機構への株券集中預託や電子化によって効率化され、高収益事業に転換している。

有価証券報告書によると、三菱UFJ信託と三井住友信託(子会社の日本証券代行と東京証券代行含む)の証券代行の利益率はそれぞれ6割、5割。委託先が変わる場合の引き継ぎは、機構のデータベースから定期的に受け取っていた過去の株主名簿などを渡すのが主な作業で、1株主当たり2000円の費用を正当化するのは難しいと、複数の関係者は指摘する。

そのうちの1人によると、解約手数料として2000円が定着したのは1990年代後半で、それまではもっと安く、なおかつ信託各行ごとに料金が異なっていた。2000円の解約料は必ずしも契約書に明記されておらず、ある企業の担当者は、解約を通知した後に「業界の慣習」として銀行から解約料を請求されたと話す。「過去の株主名簿を渡すだけでなぜそんなにかかるのか」と思い、「意味が分からない」と主張したところ、支払わずに済んだという。

三菱UFJ信託は、解約料が明記されているかどうかは個別の契約によるため回答できないとする一方、一般論では証券代行が引き継ぎ事務をすることが契約書に定められており、その「対価は両社(従来の代行業者と顧客企業)で協議の上、決定する」と回答。みずほ信託は「解約に伴う引き継ぎ業務にかかる手数料を明記しているケースもある」とした。

解約料の水準の妥当性については、「配当金支払い、(郵便物などの)返戻、(議決権の)行使データ、過去の異動データなど、当社の事務処理のデータを作成し、引き渡す必要がある」(三菱UFJ信託)、「新規受託行にしっかり引き継ぎができるように適切な水準の手数料を請求している」(みずほ信託)と説明した。

また、株主1人当たりの解約金が一律2000円かどうかについては、「信託間で合意した事実はなく、個社についての回答は差し控える」(三菱UFJ信託)、「契約内容はすべてが同一ではなく、一概に定まったものではない」(みずほ信託)としている。両行とも、法令を順守しているという。

金融庁は「民と民の契約は各社の経営判断」とコメントした。

海外に目を転じると、米国でもかつては主に銀行が証券代行を担っていた。しかし、株主データや株券の電子化に伴い、ITを駆使して効率的に名簿管理する専門会社が2000年前後に台頭。銀行のシェアはごくわずかとなった。この分野の専門家によると、米国では「委託替え作業のコストは事実上ほとんどない」というが、解約手数料は社ごと、契約ごとにまちまちで、請求しない社もあるという。

独占禁止法に詳しい大東泰雄弁護士は、もし解約手数料についての合理的な説明が困難で、証券代行ビジネスへの新規参入を妨げる要因になっているとすれば、「そのような解約手数料を請求する行為は、排除型私的独占又は競争者に対する取引妨害として、独占禁止法に違反するおそれがある」と指摘する。

一方、「大手信託銀が有する様々な知識、ノウハウに基づくアドバイスなど、付随的なサービスの質が重要だとすれば、解約料手数料が新規参入を妨げているとは言えず、独禁法違反とは言い切れないのではないか」としている。

公正取引委員会の広報担当者は、「個別の案件についてのコメントは控える」と回答した。

(山崎牧子 取材協力:白木真紀、梅川崇、平田紀之、新田裕貴 編集:久保信博、石田仁志)

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