記事

これでも「侵害」になってしまうのだとしたら、それをリスクと言わずして何と言おう・・・。

2/2
「取引の実情を踏まえて検討するに,需要者である求人企業においては,前記認定のとおり,本件商標に係る役務についても,被告役務についても,役務利用に当たっては文書による申込みを要し,役務のプランを選択し,相応の料金を支払うものであり,新規に正社員を採用するという企業にとって日常の営業活動とは異なる重要な活動の一環として行われる取引であるから,求人に係る媒体の事業者が多数ある中で(略),どの程度の経費を投じていかなる媒体でいかなる広告や勧誘を行うかは,各事業者の役務内容等を考慮して慎重に検討するものと考えられ,外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1について,需要者である求人企業が,称呼の類似性により誤認混同するおそれがあるとは認め難い。」

「しかしながら,求職者についてみると,前記認定のとおり,本件商標に係る役務も被告役務も,利用のための会員登録は簡易であり,無料で利用できる上,証拠(略)によれば,多数の他の求人情報ウェブサイトでも会員登録無料をうたっており,気軽に利用できるように簡単に会員登録ができることを宣伝しているところ,情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機がある一方で,複数のサイトに会員登録することに何らの制約もなく,現実に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められる。そうすると,求職者については,必ずしも役務内容を事前に精査して比較検討するのではなく,会員登録が無料で簡易であるため,役務の名称を見てとりあえず会員登録してみることがあるものと考えられる。」

「そして,本件商標も被告標章1も短く平易な文字列であり,発音も容易であること,本件商標に係る役務や被告役務はインターネット上で提供されているところ,インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては,検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり,正確な表記ではなく,称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており,ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られていることからすれば,需要者である求職者は,外観よりも称呼をより強く記憶し,称呼によって役務の利用に至ることが多いものというべきである。そうすると,求職者が需要者に含まれるという取引の実情にかんがみれば,需要者に与える印象や記憶においては,本件商標と被告標章1とでは,前記外観の差異よりも,称呼の類似性の影響が大きく,被告標章1は特定の観念を生じず,観念の点から称呼の類似性の影響を覆すほどの印象を受けるものではないから,前述のとおり必ずしも事前に精査の上会員登録するわけではない学生等の求職者において,被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり,本件商標に係る役務と被告役務とが,同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがあると認められる。」
(26~28頁)

この判断に関しては、称呼以外の要素の相違点があまりに軽視されているように思われるし、「取引の実情」を踏まえたとしても、既に友利氏がブログで書かれているように、「需要者の通常有する注意力」のレベルを明らかに見誤っている、という指摘をせざるを得ないように思われる。

仮にこれが査定系の事件で、特許庁が称呼類似を理由に被告が出願した「リシュ活」商標の登録をなかなか認めてくれない、という話であればまだ分かるのだが*6

本件は侵害訴訟

である。

実際に商標、標章が使われる場面では、自社サービスを需要者に認知させ、識別させるための要素として、対象となる商標、標章以外の要素も加えていくことになるし、特に似たようなサービスが多くあふれているウェブ上の求職情報提供サービスのようなものであれば、なおさらそうしなければ、他の事業者と差別化することができず、下手をするとクレームの原因にすらなってしまう*7

だから、登録査定場面より侵害場面の方が、商標・標章間の「差異」がより需要者側の誤認混同の恐れを低下させる方向に機能することは自明の理なのであって、それがひっくり返されるとしたら、標章使用者側が悪意をもって第三者の商標への擦り寄りを狙ってきたような場合くらいだろう。

本件では、原告側のクレームを受けて被告が出願した「リシュ活」商標が登録され、原告の登録異議すら切り抜けた、という実績もある。

「だからどうした、それはあくまで特許庁の判断。裁判所はまた別の論理で判断するだけだ。」と言われてしまえばそれまでの話ではあるが、本件で侵害を肯定する、しかも「検索エンジン云々」という謎の法理(?)まで使ってそういった判断を導いたことに関しては、おそらく商標に携わる多くの実務者が違和感を抱くはずだ、ということは申し上げておきたい。

結論として、損害論の場面では、原告の「1億円」という無体な請求が退けられ、弁護士費用を含めても認容額は44万3919円に留まっているとはいえ、侵害が肯定されたことの帰結として、標章使用の差止め、標章を付した広告・取引書類等の廃棄、ドメイン名の抹消登録等といったものが認められてしまったことで被告が受けたダメージは極めて大きい。

認容された一連の差止・廃棄請求に仮執行宣言が付されていないことからすれば裁判所にも迷いがあったのかもしれないし、幸いにも被告側は戦意喪失することなく高裁で引き続き争うことを表明しているから、この地裁判決がこのまま確定することはなさそうだが、なぜ大阪地裁はここまで必要以上に話を”面白く”してしまったのか。

本件が様々なメディアで報じられたタイミングと、「日本の知財訴訟をもっと活性化させよ!」と叫ばれていた時期は結構重なっていたから、よもやそれに刺激を受けて・・・ということではないとは信じたいが、いずれにせよ、「訴訟の場で派手な侵害認容判決が出ることによって世の中にもたらされるメリット」よりも、「想定し難い場面で侵害を認定されて実務が混乱に陥るデメリット」の方がずっと大きいと自分は思っているので*8、次のステップで今回の結論が美しくひっくり返ることを願うのみである。

*1:余談だが、一時期、かなり経過報道がなされていた割には今回の判決自体の報道は少なかった気がする。

*2:「リシュ活」の商標権侵害訴訟に関するお知らせ | 履修履歴活用コンソーシアム この判決文だけでなく、これまでの経緯が詳細に記載されている。

*3:特に恩田弁護士の記事は、この判決だけでなく商標を巡るリスク全般にも言及されていて、実務者にとっては参考とすべき内容が多いのではないかと思う。商標使用の「たかが」「されど」Vol.1~「Re就活」 ⇔ 「リシュ活」前編~|Toshiaki Onda|noteなど。

*4:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/994/089994_hanrei.pdf

*5:もっとも、判決が、被告自身の商標登録出願において第35類、第41類が指定されていたことも被告の主張を退ける理由の一つに挙げているのは、被告の出願が原告のクレームに対する防御的なものだと思われる(被告自身による「リシュ活」の商標出願は2018年10月27日に行われており、同年10月3日の原告からのアプローチを受けてなされたことは明らかである)ことを考えると、いささか酷な説示といえなくもない。

*6:実際、特許庁の審査段階では「取引の実情」が出願人が考えているほどには考慮してもらえないことが多い上に、未だに”称呼第一主義”が徹底されていることもあって、登録に至るまでの間に難儀することも多い。

*7:そして、製造者の手を離れた後は流通に委ねるしかない「商品」とは異なり、需要者の手に届くまできめ細やかにフォローできるのが「サービス(役務)」の特性でもある。こういうことを言い過ぎると、「そもそもサービス(役務)の世界で商標取っても意味ないのでは?」という話にもなりかねないのだが、それはさておき。

*8:これは商標の話に限らず、ではあるのだが・・・。

あわせて読みたい

「商標」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    ついに訪れた「PayPay手数料有料化」の激震!コンビニのサバイバル戦略

    文春オンライン

    05月12日 08:27

  2. 2

    【読書感想】禍いの科学 正義が愚行に変わるとき

    fujipon

    05月12日 10:15

  3. 3

    私がオリンピックを開催するためには、緊急事態宣言を7月上旬まで延長すべきと思う理由

    宇佐美典也

    05月12日 12:00

  4. 4

    ソフトバンクG孫正義さん、AI革命に熱意「10兆円でも満足しない」

    Ledge.ai

    05月12日 21:37

  5. 5

    コロナおさまらない日本 風邪でも休まないビジネスマンとザルの水際対策

    中村ゆきつぐ

    05月12日 08:30

  6. 6

    「従軍慰安婦」というフェイク用語をばら撒いた朝日新聞の罪は重い

    PRESIDENT Online

    05月12日 11:30

  7. 7

    「人と違うことは個性だ」差別と戦い続けたプロサッカー選手・鈴木武蔵が見る日本

    清水駿貴

    05月11日 08:06

  8. 8

    かって1000万部の読売がNYタイムズに抜かれた!

    島田範正

    05月12日 16:30

  9. 9

    茨城県境町の殺人事件 デマ情報に基づく誹謗中傷が被疑者の同姓男性のもとへ

    岸慶太

    05月12日 14:46

  10. 10

    現時点での民間企業テレワーク状況公表に反対。まず官公庁・大臣、そして国会議員の実情を公表すべき

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    05月12日 08:13

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。