「ドムドムハンバーガー」といえば、40代以降のミドルエイジにとって懐かしいブランドなのではないだろうか。
1号店が東京都町田市にオープンしたのは1970年のこと。マクドナルドの日本初上陸(1971年)よりも1年早く登場したドムドムは、まさしく国内ハンバーガー市場の草分け的存在だ。
東京都町田市のドムドムバーガー
最盛期には全国に400店舗超を出店。ところが2000年代に入ると、当時の運営母体であったダイエーグループの不調によって多くの店舗が閉鎖に追い込まれ、今では全国に26店舗を展開するのみとなっている(※2021年2月現在)。――いや、もしかするとドムドムがまだ現役を張っていることを知らない人も多いかもしれない。
一時代を築きながら、懐かしのブランドとなってしまったドムドム。しかし、令和を迎えた今、にわかに勢いを取り戻しつつあるのをご存知だろうか? ドムドムの近況を追ってみよう。
古参ファンが大勢集まったポップアップイベント
「実家の近所に店舗があったので、子供の頃よく食べていたんです。こうして再びドムドムのハンバーガーが味わえるのは、なんだか感慨深いですね」(都内在住・40代男性)
そんな喜びの声が聞かれたのは、昨年2月に東京・世田谷区内で開催された、1日限定ポップアップイベントでのこと。
田園都市線・池尻大橋駅前のイベントスペースに突如出現したドムドムは、開店直後から雨足をものともせず大行列ができる盛況を見せた。
ファンにはおなじみの「どむぞうくん」(象をモチーフにしたロゴ)が店頭を彩ったほか、店内にはかつての期間限定メニューのポスターが展示されたことから、これが往年のファンの視線を強く意識したイベントであったのは明白。提供メニューは3種に絞られたが、その中に盛り込まれた「お好み焼きバーガー」は、90年代半ばに人気を博した商品であり、この日も真っ先に売り切れていたのが印象的だ。
現在、ドムドムを運営しているのは、2017年に事業を引き継いだ株式会社レンブラントホールディングス(神奈川県厚木市)。広報担当の近藤彰氏は次のように語る。
「こうしたポップアップも含め、イベントへの出店は機会があれば積極的に行なっています。店舗数が限られてしまっている現在も、出店のご要望は各地から多くいただいていますので、我々としてはお客様の反応を測るいい機会と捉えています」
つまり、“ドムドムここにあり”と健在をアピールする意味だけでなく、今後の事業計画に生かすマーケティングの意味合いが大きいわけだ。実際、そうした取り組みの賜物か、ここ最近のドムドムは実に話題性豊かなのである。
バンズからハサミがはみ出す、「カニバーガー」の衝撃
ホテル事業などをメインに手掛けるレンブラントホールディングスが、事業を継承するやいなや古参ファンに届けた朗報が、前述の「お好み焼きバーガー」の復活だった。
1996年に終売となった同商品は、その名の通りお好み焼きに目玉焼きとキャベツを合わせてサンドした、いかにも和製ハンバーガーチェーンらしい一品だ。ソースとバンズの絶妙な相性を記憶しているファンも決して少なくないに違いない。
さらに昨年12月にリリースされた「チーズタッカルビバーガー」や、今年1月にリリースされた「明太厚焼きたまごバーガー」など、既成概念に囚われない独特の商品展開で、ドムドムはじわじわと話題を集め続ける。
その特異な企画力を端的に示すのは、なんと言っても2019年秋に期間限定で登場した「丸ごと!!カニバーガー」だろう。
脱皮したての軟らかいカニ(ソフトシェルクラブ)を丸ごとサンドした、インパクト抜群のハンバーガーである。バンズから2つのハサミが覗くエキセントリックなルックスは、世間に大きな衝撃を与えた。
販売終了後も強い要望が相次ぎ、ドムドムはこの「丸ごと!!カニバーガー」を昨年9月、今年2月と再販を決定。殻からみそまで、カニの旨味をまるっといただく醍醐味もさることながら、今の時代、その豪快なビジュアルがSNS上を席巻したのも当然だろう。
このほかレギュラー扱いのサイドメニューにも、「かりんとう饅頭」や「ごぼうスティック」など、他のチェーンではお目にかかれない商品が並ぶ。こうした「他社にはない、尖った商品で勝負していこうという方針は、今後も続けていくつもりです」(前出・近藤氏)というから、今後の展開も楽しみにウォッチしたいところである。
再び一大チェーンを築くのか!? ドムドムが見据える今後
同社が送り出したヒット商品はハンバーガーだけではない。折しものコロナ禍を受け、ドムドムは昨年5月にオリジナルのマスクもリリースしているのだが、これも飛ぶように売れた。
もともとは従業員用に作製したものだったそうだが、世間のマスク不足に応じ、自社サイトで一般販売をスタート。すると、「どむぞうくん」をワンポイントにあしらったデザインが受け、なんと開始1分で完売する大反響を呼んだのだ。
こうして近年の動きを追っていると、ドムドムがいかに熱狂的なファンに支持されているかがよくわかる。近藤氏はその理由を「何かと不器用なところが受けているのではないでしょうか(笑)」と冗談めかして分析するが、これは言い得て妙かもしれない。
夏以降にドムドムとは異なる新業態の展開も!?
歴史をひもとけば、本来はダイエーと米マクドナルドの合弁事業として華々しく出帆するはずだったドムドム。だが、結局は出資比率で折り合わず、純国産ブランドとして出発することになったのがケチの始まりだった。日本初のハンバーガーチェーンとして気を吐きながら、その後、ダイエーグループの浮き沈みに翻弄されるように運営体制は目まぐるしく変わり、レンブラントホールディングスに事業が譲渡されたことで、ドムドムはようやく腰を落ち着けた感がある。
徐々に店舗数を減らしていく過程で置き去りにされたファンたちが、ドムドムの復活を渇望するあまり、ネット上で応援キャンペーンを張ったこともあった。そして今、新体制下での取り組みが物を言い、ドムドムは着実に業績を上げている。
「しかし、これからまた100店舗、200店舗と大きく展開していくプランはありません。それよりも、ひとつひとつの店舗を大切にしながら、堅実な事業を心掛けていかなければならないと考えています。この春以降も、ドムドムらしくオリジナリティあふれた期間限定商品を用意しているので楽しみにしていただきたいですね」(近藤氏)
なお、その一方で同社では、今夏以降にドムドムとは異なる新業態の展開も予定しているという。ドムドム再生の原動力となった独特の発想力が、今度はどのような形で発揮されるのか興味は尽きない。続報を待とう。
(友清 哲)