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上野千鶴子「忖度も根回しもしてきた」組織で活躍する女性と孤立する女性の決定的な違い

今よりもずっと女性が生きにくかった時代を駆け抜け、いまや誰もが認める女性学のパイオニアである上野千鶴子さん。組織の中で前例のないことを通すために、空気を読んで、忖度も根回しもして、味方をつくってきたと言います。そんな上野さんが語る女性が「組織」で働くために身に着けるべきこととは——。

※本稿は、上野千鶴子、出口治明『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

会議
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/itakayuki

世の中は正しいだけでは動かない

女性には根回しをしたことがない人が多いのかしら。

でもこれまで正しいことを言ったら通ったという経験はほとんどないはずです。世の中って正しいだけでは動きません。

もしかすると、男性が論理的な生き物だと思っている人は多いのかもしれない。けれど、そんなことないでしょう。男は論理では動かない。利害で動きます。

だから彼らを動かそうと思ったら、「こういうことをすれば、あなたにいいことがありますよ」と誘導するのが一番です。

自分の思いを実現するための空気を読むスキル

私はエサをちらつかせられるほど高いポジションにはいなかったけど、たとえば、貸しをつくるとか、「今回は私に協力してよ」くらいのことは言います。だってそれはお互い様ですから。

「空気を読む」のは、その目的は何か、ということです。飲み屋のおネエさんは、財布と面(つら)の皮の厚いおじさんの懐から、その分け前を引き出すために空気を読んで、いい気分にさせています。

私たちが空気を読むのは自分の思いを実現するためです。女性の中には、そんな根回しや忖度を快く思わない人もいますが、女性ももっとそういう配慮やスキルを身につけたほうがよいと思います。

だって男性たちは、お互いの間でそういう助け合いをやってきたのですから。義理と人情で、恩を売ったり買ったりしています。大学という大きな組織の中でも、そういう光景をずいぶんと見てきました。

教師の仕事は給料分しっかりやってきた

働き方改革で、労働時間を減らそうという話もありますが、そもそも自分で仕事に意味を持たせることができれば、どんなに長時間労働でもストレスにはならないと思います。幸い研究者という仕事は趣味と職業が一致しているので、ありがたいですね。その代わり、ワーカホリックになりがちです。

アドバイザー
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seb_ra

教育と研究の一致、と言いますが、現実には簡単ではありません。給料が支払われるのは教育サービス業に対してであって、研究成果がどれだけ多くても給料には反映しません。ですから教師の仕事は給料分だけしっかりやりました。他のところでどんなに忙しくても、そこがホームグラウンドであることはずっと自覚していました。

組織で働く恐ろしさ

ある官庁を解雇された方がお書きになった本を読んでいて、背筋が寒くなったことがあります。何故かといったら、解雇に至るまでの服務規程違反のリストがずらっと何十も書き出されていたからです。

一つひとつは、出張届を出さずに出張したとか、外部講師の講演料を事前に申請しなかったとか、とても小さな違反です。それも全部守っていたら仕事なんてできなくなるような微罪の集合でした。それでもそういう微罪が数十も並ぶと言い逃れできなくなります。

それを見た時ぞっとしました。どんな人でも、これをやられたらアウトです。それが表面化したのは、内部告発があったからでしょう。身近な関係者しか知らないことばかりでした。ということは、その人は職場に味方がいなかったということです。そうやって職場で孤立したら生き延びられません。

組織にはそういう怖いところがあります。誰かがこいつを突き落としてやろうと思ったら誰でもやられます。日産自動車のカルロス・ゴーンさんだって側近によって追い出されましたから。だから私はいつも周囲に味方をつくるように努力してきました。

下位の人を味方につける

味方につけるのは、上位の人じゃなくて、下位の人。まずは学生。学生の信頼を絶対に獲得する。それと教員よりも職員。そうやって味方を増やしていきました。

上野千鶴子、出口治明『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)
上野千鶴子、出口治明『あなたの会社、その働き方は幸せですか?』(祥伝社)

学生の信頼を獲得するためには、授業を面白くすること。クレームがくるようなことは絶対にしない。女子短大に長くいましたが、彼女たちには学問の言葉が通じません。できるだけ専門用語を使わずに説明するとか、身近な話題につなげるとか、そういう工夫をいちいち丁寧にやりました。今日、私の話がわかりやすいと言ってもらえるのは、彼女たちに鍛えられたおかげです。

職員にはよく差し入れをしました。たとえば電話交換手の人たち。東大に異動した初期は、携帯電話どころか研究室直通の電話がなくて代表電話にかかってきた電話を交換手が取り次いでいたんです。顔の見える関係をつくると、対応が変わりました。

事務方の職員もそうです。遅くまで研究室にいることも多かったから、警備員さんの休憩室にも挨拶に行っていました。そういうことはマメにやりました。

女性は上目遣いを求められてきた

ヒラメみたいに上を見て高い地位の人たちだけを見ていてはダメ。繰り返しますが、何のために空気を読むのか、ということです。

これまで女性たちは、知恵や権力を持つ人たちのおこぼれにあずかるために、上目遣いが求められてきたんです。女房役や秘書役と呼ばれるように、いつも脇役だからです。私はそうじゃなくて、やりたいことがある時に、自分が孤立しないためにどうすればいいかを考えました。理解者がいない苦労を散々味わったし、ずっと札つきでバッシングを受けて、風当たりも強く、自分が孤立しやすい立場にいるという自覚がありましたから、味方をつくる努力をしました。

上司とは利害、部下とは信頼でつながる

最後に自分を守ってくれるのはどういう人たちか。少なくともこの人は教師としてはいい人だって、そういうことをちゃんと証明してくれる学生がいることは、とても大事です。

会社でも上司を見るのか、部下を見るのかで違うでしょう。上司とは利害でつながる。でも部下とは信頼でつながります。

本当に周囲に恵まれてここまで来ました。そのためには相手の信頼を裏切らないように、丁寧に仕事をしてきました。

仕事をしている人は、覚えておいてください。信頼は蓄積します。だから、信頼が蓄積できるような仕事の仕方をしてください。

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上野 千鶴子(うえの・ちづこ)
社会学者
1948年富山県生まれ。京都大学大学院修了、社会学博士。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。女性学・ジェンダー研究のパイオニア。
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(社会学者 上野 千鶴子)

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