職場のフロアで平然とタバコの煙が立ち込め、女性社員は当たり前のようにお茶菓子の準備を命じられる。画面上には、今では考えにくい光景が当たり前のように広がる。それもそのはず、このドラマの舞台はバブル経済が崩壊した直後の日本社会だ。
1996年、住宅金融債権管理機構(住管機構)は国策会社として設立された。多くの人が狂喜乱舞したバブル経済は瞬く間に崩壊し、経営破綻した住宅金融専門会社(住宅など不動産購入のための資金を融資する会社。以下、住専)の不良債権は6兆7800億円にも及んだ。その全額回収こそが、住管機構に与えられた無謀とも言える使命だった。
WOWOWの開局30周年を記念した本格社会派大作『連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~』は、住管機構(のちの整理回収機構)の中でも特に金額の大きな取り立てを担当した通称・トッカイ(不良債権特別回収部)の姿を描いている。
第一話では、東京・四谷に立つ古めかしいビルの一角に、スーツ姿の男女が集まるシーンが印象的だ。
住管機構の社長に就任した東坊平蔵(橋爪功)の訓示を受けるため、トッカイの面々もビルを訪れた。班長の柴崎朗(伊藤英明)、副班長の塚野智彦(萩原聖人)はともに銀行から出向し、不良債権回収に取り組むことになる。

不良債権回収に臨むトッカイを待ち受ける数々の難題
「私も回収組送りです」
名刺交換を終え、塚野が呟いた言葉だ。実直な性格の柴崎は、不服そうな塚野の発言の真意を理解しきれていない様子だが、住管機構への出向は銀行での出世が遠のいたことを意味するのだろう。塚野は「とんだ貧乏くじを引かされた」などと不平不満ばかりを続ける。
トッカイのメンバーは銀行員だけではない。
「潰れた住専社員の見本市ですね」。岩永寿志(矢島健一)のそんな自嘲気味の自己紹介に、戸惑いを隠せない様子なのが葉山将人(中山優馬)だ。班長の柴崎を支えることになる多村玲(広末涼子)も含めていずれも元住専社員が顔を揃える。彼らは住専が破綻したことで職を失いながらも、「奪り駒」(※)として住管機構に採用された。
※=住管機構では、破綻した住専の社員を採用して債権回収に充てる人材活用手法が採られた。取られた将棋の“駒”に見立て、住専の元社員を「奪り駒」と表現する人もいた。
エリート街道から外れた銀行からの出向組に、経営破綻という苦汁をなめながら拾われた身の旧住専組。バックグラウンドが異なるメンバーの寄せ集めだったトッカイだが、何か共通するものを感じる。誤解を恐れずに言えば、取り立てという汚れ仕事を自ら引き受けた「意地」がその正体かもしれない。
「まっとうに生きたい」信念の価値を問いかけているドラマ
トッカイの面々は出身が様々だ。決して結束は堅くない。塚野は副班長ながら、どこか仕事に身が入らない様子で、旧住専組との言い争いも絶えない。そんなグループの中で、伊藤英明演じる班長・柴崎のリーダーシップにメンバーも心を惹かれていく。
早速、トッカイに大きな試練、いや危険が襲いかかる。暴力団が不法占拠する雑居ビルを差し押さえることにしたのだ。メンバーは連日ビル近くに張り込んで、各階の部屋ごとに居住者の暴力団員を割り出す危険な作業を続け、地元の警察署幹部が舌を巻くほどの成果を得る。
債権回収に臨む彼らを支えたものはなんだったのか。それは今回のドラマが私たちに問いかけているもの、すなわち「信念」だろう。
「まっとうに生きたいという堅い芯。それがトッカイのメンバーの心にあった」
そう語るのは、元読売新聞記者のノンフィクション作家・清武英利氏だ。バブル崩壊から時が過ぎ、住専問題も忘れ去られる中でトッカイに注目し、3年半の取材の成果を『トッカイ 不良債権特別回収部』(講談社文庫)にまとめた。ドラマの原作だ。

自分がトッカイだったら・・・?正しさは貫けるのか
劇中、金融マンとしての使命を常に自問自答し続け、不良債権回収という「正義」を果たそうとする柴崎の姿は爽快だ。
柴崎だけではない。葉山も債務者に自ら巨額を融資してきた責任を感じ、自分が担当した融資先から回収する覚悟を誓う。周囲の熱意にほだされ、自らの知見を役立ててもらおうと少しずつ心を開き始めた塚野の動向も気に掛かる。
清武氏はトッカイの姿に触れ、「大変な戦場、金融の戦場を前にして『あなただったらどうしますか』」と問いかける。住専問題を巡っては巨額の税金が投入され、国民の怒りが巻き起こった。トッカイも自らの業務が国民のため、公のためになることを信じて業務に勤しむ複雑な立場だった。
解決の難しい課題に直面して、私たちは自らが信じる正しさを貫くことができるのだろうか。
最も気になるのは、正義を貫こうとしてもがくことで、人はどう変わっていくのかという点だ。ドラマの初回、トッカイのメンバーに感じてしまった「意地」。それは形を変えて何か輝くものになっているかもしれない。

バブル崩壊した社会から学ぶべきものとは ドラマにヒントが
新型コロナウイルスが猛威を振るい世の中の先行きが不透明なままの今は、もしかすると、バブルが崩壊して経済不安が蔓延した当時と社会の温度感はどこか似ているのかもしれない。
「経済事案は何事も過去のことではなく、今日的な課題——」
清武氏の言葉を借りるならば、今を生きるためのヒントをドラマに見つけることができるはずだ。
『連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~』毎週日曜夜10時よりWOWOWプライムにて放送中(全12話)
3月4日午後1時より第1話~第7話一挙リピート放送(WOWOWへの新規ご加入はこちら)