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緊縮財政への復帰はあり得ない――『99%のための経済学 コービンが率いた英国労働党の戦略』(堀之内出版) - ジョン・マクドネル

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本書が出版されてから、ながい時間が流れました〔原著の出版は2018年〕。多くの人々にとってショッキングなことに、労働党は2019年の英国総選挙で敗北し、本書で示されたアイデアを練り上げ、直ちに政策として実行に移す機会を失いました。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(コロナ危機)が襲いかかり、計り知れない犠牲と苦難をもたらしています。

ずばり、問題は次の点です。本書が提起した分析やアイデア、そして政策は、はたして現時点においても重要なものと言えるのか。

これに対する私の答えはこうです。コロナ危機によって、本書の分析やアイデア、政策はむしろ、これまで以上に有効で緊要なものとなったということです。

コロナ危機は、私たちの政治・経済体制に対する耐圧試験でした。このパンデミックは、ながらく新自由主義に支配されてきた体制の欠陥と弱点を、白日の下に晒しました。2008年の金融危機の後、10年以上にわたって緊縮財政が続けられてきたせいで、私たちの社会は、パンデミックに対する準備が全くできていませんでした。10年ものあいだ、主に社会的ケアや医療サービスなど、重要な公共サービスに対する投資が削られてきたせいで、救命と治療に不可欠な、基本的なサービスを提供する能力が損なわれていました。その結果は、とりわけ高齢者の衝撃的な死亡者数に表れています。

賃金の凍結や、社会保障給付の削減、そして公共部門の仕事のアウトソーシングと私有化(民営化)により、英国がパンデミックに襲われる数ヶ月前においても、人々の週給は、2007年から2008年の金融危機以前の水準に追いついていませんでした。そこに、感染のリスクを減らすためのロックダウンが加わり、人々は収入の途絶に直面しましたが、それを乗り切るための経済力はほとんど残っていませんでした。醜悪なまでの社会的不平等のせいで、貧困層はコロナ危機にきわめて脆弱でした。劣悪な住居に住む人々や、少数民族や黒人のコミュニティに属する人々も同様でした。感染リスクにもかかわらず、仕事に戻ることを余儀なくされた労働者たちの姿を見れば、生死に関わる健康や安全の問題についても、彼らが労働現場での発言権を失ってきたことが、はっきりと窺えます。

とはいえ、パンデミックから数多くの教訓も得られました。それによって、本書の各章で述べたような、抜本的な変革が必要なことも明らかとなりました。価値観の見直しが始まったのです。人々は、お互いをどれほど気遣ってきたのかということだけでなく、お互いがこれほどまでに不可欠な存在だったということについても、再認識を迫られました。パンデミックは、本書の各論文を貫いているテーマを浮かび上がらせました。それは、連帯意識や社会正義の重要性、そして集団的な取り決めと行動の必要性です。

地域や地方、そして全国のレベルで政府の役割が欠かせないことは、40年にわたってそれとは真逆の主張を続けてきた「小さな政府の狂信者たち」でさえも、認めざるを得なくなっています。急速で劇的な変革を実施するには財源がないという議論は、すでに反駁されており、もはや通用しないものです。パンデミックに対処しながら、経済のルールを書き換え、新たな経済を構築していくことができれば、いったいどんな社会が実現できるのでしょうか。それを思い描く機会が訪れたと言えます。

一部の人たちは、「より良く復旧しよう(Build Back Better)」というスローガンを掲げています。コロナ危機のような苦難の後には多くの人が、「正常な」状態に戻りたいと思うのは当然のことですから、これは魅力的なスローガンだと言えます。しかし、「より良く」は結構ですが、「復旧」は拒否せねばなりません。私たちは、もといた場所に戻ることには心の底から反対しなければなりません。過去の「正常な」状態は、多くの人にとっては、不安や圧迫感、そしてストレスに満ちた生活でした。そして一部の人々にとっては、耐えがたい苦難や搾取、貧困、絶望の生活でした。このような貧困の生活、希望なき世界に戻ることは断固、拒否せねばなりません。

私たちは過去に、支配層(エスタブリッシュメント)が危機というチャンスを決して無駄にせず、富と権力をがっちり掌握すべく、社会と経済を作り変えるのを見てきました。企業は、労働者の賃金を削減し、雇用条件を悪化させ、長期的な利益を最大化させるために、長年あたためてきた戦略を、このコロナ危機に乗じて実行に移しています。また一部の政治家たちは、この危機をチャンスとして、コロナ関連の有利な契約案件で、政党に献金してくれる人たちに利益供与をしています。それだけでなく、過去の民主主義闘争の結果として導入されてきた、公共サービスに関する基準や義務の多くを撤廃し、市民の自由を再び制限し、市民社会に対する統制を強化しようとしているのです。

革新派(プログレッシブズ)の役割は、コロナ危機で再認識された前述の価値観に基づいて、新たな社会を構築するチャンスを、この悲劇の中から掴み取ることです。この新たな社会の建設に向けた実践的な道筋を描くうえで、緊縮財政への復帰はあり得ないということを、まずは明確にせねばなりません。心配なことに、すでに一部の政治家たちは、給与の凍結や公共支出の削減を伴う新たな緊縮財政を提示して、人々の反応を窺っています。

パンデミックは多くの人々が、職に就いているか、社会保障を受けているかにかかわらず、深刻な経済的不安を抱えていることを明らかにしました。この不安を解消しうる方法が二つあります。

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