気が付けばもう2月も残すところあと僅かになってしまいました。もう年始とも呼べないタイミングですが、遅まきながら毎年恒例?のスポーツビジネストレンド予測です。今年は以下の8つの流れが来るのではないかと思います。
■施設衛生認証ビジネスの流行
米国では、ようやく無観客フェーズが終わりつつあり、条件付きで観客を入れたフェーズに入っていきます。例えば、NY州はちょうど昨日から収容人数1万人以上のエンタメ施設は、キャパシティ10%を上限に観客を入れることができるようになりました。ただ、ワクチンも出来て接種が開始されたとはいえ、一般国民に普及するにはあと数か月はかかるでしょうから、依然として感染対策はスポーツ観戦での大きな課題です。
特に米国は死者の数が50万人を超え、第一次大戦+第二次大戦+ベトナム戦争の戦死者数を超えてしまいました。世界の人口の5%に過ぎない米国における死者数が全世界の20%を占めるのは異常事態で、先進国とは思えませんが、これはトランプ政権が感染症対策を政争の具にしてしまった責任が大きいと思います。
まあそれはそれとして、仮に万全の感染対策を行っても、相手が目に見えないウイルスだけに、安心して試合会場に来場してもらうためには、認知的な(ある意味PRも兼ねた)感染対策が不可欠です。
こうした中、昨年の夏ごろから注目されているのが、施設衛生に関する認証制度です。GBAC STARやWELL Health-Safetyなどの業界団体によるものから、大手施設運営者によるもの、ヘルステック企業によるものなど、雨後のタケノコのようにいろいろな制度ができています。このあたり、米国企業のコロナにもめげずに商魂たくましい様子は、「転んでもタダでは起きない」という気概を感じさせ、大変心強いですw。
個人的に、ワクチンの効果があることが前提ですが、コロナは一過性の騒ぎで終わると思っていますので(最終的にはインフルエンザと同じような扱いになる)、恐らく米国では経営者もファンも今年を過渡期のシーズンとして様子を見たあと、2022年のシーズンからは以前の様に何事もなかったかのようにフルキャパでの試合実施に戻っていくものと思っています。その意味では、認証ビジネスも盛り上がるのは2~3年程度でしょう。
日本では清水建設さんがオフィスビルを対象に似たような取り組みを始めたことがニュースになってましたね。キーワード文化の日本では認証は重宝されると思うので、ビジネスチャンスの匂いを感じます。
米国のスポーツ施設では、既に昨年からGBACやWELLのような施設衛生に関する認証の取得ラッシュが始まっています。感染に対する不安を払拭する意味で、認知的な対策を講じるのは急務です。こういう動きが日本のスポーツ施設にも広がっていくことを期待したいです。https://t.co/XFpP3nh2mZ
— Tomoya Suzuki / 鈴木友也 (@tomoyasuzuki) January 8, 2021
■衛生カテゴリ協賛の伸び
これは施設衛生の認証と同じ背景ですが、昨年半ばからスポンサーシップでは衛生カテゴリがホットです。除菌グッズメーカーやヘルスケア企業とパートナーシップ契約を結んで消毒・除菌プロトコルを作成したり、新たに建設される施設の共同設立パートナーに医療機関を迎え、感染対策に万全を期すなど、今までに見られなかった取り組みが生まれています。この流れは、少なくとも今年いっぱいは続きそうです。
■ファンエンゲージメントの見直し
Withコロナの現フェーズで、日米ともに大きな課題になっているのがこれです。無観客の試合開催により、来場消費が消失してしまったわけですが、当初はそれがメディア消費に転換されてテレビ視聴者数はむしろ伸びるだろうと予想されていました。しかし、ふたを開けてみたら、シーズン再開後のプロスポーツのテレビ中継の視聴者数は、ほとんど例外なく減少してしまいました。
米国の主要スポーツイベントの視聴率は軒並み大幅ダウン。いろいろ要因は考えられるが、3月のスポーツ中断後、7月に一斉に再開したことで同時並行開催になりこれまでの住み分け環境が壊れ、視聴者の取り合いになってしまった点が大きいのでは? https://t.co/8Lq6nIpPk5
— Tomoya Suzuki / 鈴木友也 (@tomoyasuzuki) October 16, 2020
当初は、僕もツイートの中で言っているように、7月から一斉にプロスポーツがシーズンを再開したことが視聴者の奪い合いにつながったことが大きいのではと見ていたのですが、その後、ワールドシリーズもスーパーボウルも近年稀にみる視聴者数の減少を経験することになります。
ドジャースの32年ぶりの優勝で幕を閉じた今年のWSですが、視聴率・視聴者数は歴史的な低さに終わったようです。グラフはちょっと見づらいのですが、薄い青が今年のドジャースのものです。コロナ禍の影響か、スポーツの試合中継は全般的に低調な傾向が続いています。 https://t.co/NntiSAyto0
— Tomoya Suzuki / 鈴木友也 (@tomoyasuzuki) October 29, 2020
SBの視聴率が1969年以来初めて40%を下回る(38.2%)。視聴者数は9640万人で、うち570万人がデジタル視聴。ちなみに、デジタル視聴者数は過去最高で、前年比68%増。SBですらシーズン無観客開催によるファンエンゲージメント低下の例外にならず。 https://t.co/Ksb9Ynhn7q
— Tomoya Suzuki / 鈴木友也 (@tomoyasuzuki) February 10, 2021
ここまで来ると、スポーツ間のカニバリだけでは説明がつきません。今、仮説としてファンの熱狂を生み出すエンジンとしての(観客を入れての)試合開催が行えなくなってしまった結果、応援対象へのエンゲージメント(興味・関心)が全体に低下したために、全般的な消費意欲の低下を招いたのではないかと考えています。イメージ的にはこんな感じでしょうか。
ですから、まずは低下したエンゲージメントを高めるステップを踏まなければなりません。一足飛びに来場消費に代わる新しい収益源(キャッシュポイント)を作ろうとする話も聞こえてくるのですが、消費意欲が衰えている今、いくらキャッシュポイントを増やしても砂漠に水を撒くような結果になってしまいかねません。
今、米国では、どのスポーツリーグも来るべき観客を入れた試合開催に備えて、エンゲージメントを高める場を作ろうと必死ですが、B2Cで無理にマネタイズする動きは少ない印象です。あっても、B2Bで既存のスポンサーシップに価値を乗せる形とかですね。ここは「Replace」ではなく「Enhance」という視点が重要になってくるのではないかと思います。今年1年は、2022年からの通常開催に向けてファンエンゲージメントを再構築する年になりそうです。