象徴天皇制を研究する名古屋大学大学院人文学研究科准教授の河西秀哉氏は、令和の天皇制がいくつかの「危機」に直面しているという。
眞子さまのご結婚をめぐる問題には依然として世間からの反対の声が大きく、コロナ禍におけるオンライン行幸啓があらたな可能性に見える反面、平成から支持を集めていた天皇皇后両陛下による地方や被災地への訪問はできなくなってしまった。そして皇位継承の問題は残されたままだ。
そのような状況の中、天皇陛下は61歳の誕生日を前にした記者会見で、「家庭的な姿」を見せられたと河西氏は分析する。
2月19日、記者会見をなさる天皇陛下 宮内庁提供
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眞子さまのご結婚をめぐる問題について、ボールを投げ返された
徳仁天皇は2月23日、61歳の誕生日を迎えた。それに先だって行われた記者会見は、いくつかの注目すべきポイントがあった。
おそらく、もっとも世間で話題となったのが、眞子内親王の結婚をめぐる問題だろう。昨年11月、眞子内親王は「天皇皇后両陛下と上皇上皇后両陛下が私の気持ちを尊重して静かにお見守りくださっていることに、深く感謝申し上げております」と結んだ「お気持ち」を公表、彼女の結婚の意思を天皇が認めているかのような文言であったことから、今回、誕生日の会見にそれに関する問いが投げかけられたのである。
象徴天皇制は国民の支持なくしては存立しえない
天皇はその質問に対して、「眞子内親王の結婚については、国民の間で様々な意見があることは私も承知しております」とまず答えた。小室圭さんの家族の金銭問題に端を発して、世間では眞子内親王の結婚に対する反対の声が大きくなっていることを理解しているのだろう。そして、「このことについては、眞子内親王が、ご両親とよく話し合い、秋篠宮が言ったように、多くの人が納得し喜んでくれる状況になることを願っております」と言及した。これは、やはり昨年11月、誕生日に際して秋篠宮が記者会見で述べた、「感じとしては決して多くの人が納得し喜んでくれている状況ではないというふうに思っています」という状況を踏まえてのものだろう。
天皇自身も、「多くの人が納得し喜んでくれる状況」にするよう、眞子内親王や小室圭さんに投げかけたとも言える。「お見守りくださっている」と眞子内親王が述べたことに対して、天皇は直接的にはそれに言及せず、むしろ人々に結婚を祝してもらえるよう努力するよう、ボールを投げ返したのではないだろうか。象徴天皇制が国民の支持なくしては存立しえないことを天皇は意識しているからこそ、眞子内親王の結婚にも「多くの人が納得し喜んでくれる状況」を求めたのである。一方で、秋篠宮にも「ご両親とよく話し合い」という表現が示すように、解決に向け、眞子内親王と密に話し合うことを求めたとも言える。
地方や被災地への訪問を継続できないことは「大きな危機」
ところで、私がこの誕生日の記者会見のなかで注目したのは、オンライン行幸啓の部分である。新型コロナウイルスの流行によって、平成の天皇・皇后が積極的に行った地方や被災地への訪問はできなくなってしまった。いわゆる「平成流」が人々の大きな支持を得ていたなかで、それを継続できないことは天皇制にとっても大きな危機であると思われる。
天皇はすでにこの新型コロナウイルスが流行のきざしを見せ始めていたころからこの問題に関心を寄せており、昨年の誕生日の記者会見でも「現在、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されていますが、罹患した方々と御家族にお見舞いを申し上げます」と言及したり、愛子内親王の学習院女子高等科を卒業する際にも卒業式を欠席し、その時の「ご感想」でも新型コロナウイルスの感染拡大について述べたりするなど、強い意識を有していたことがうかがえる。
それは、おそらく今回の誕生日の記者会見の冒頭で述べられた、過去の天皇の「ご事績」とも関係するだろう。天変地異や疫病が蔓延するなかで、過去の天皇は様々な祈りの行為を行ってきた。それこそが「象徴」という立場にふさわしいと、平成の天皇も皇太子時代に言及しており、また徳仁天皇も同じように皇太子時代に述べていた。日本中世史を専攻し、若い頃から過去の天皇の「ご事績」を学んでいた天皇らしい言及でもある。「その精神は現代にも通じる」と強調した天皇は、昨年4月より関係者からの「ご進講」や「ご接見」のなかで、新型コロナウイルスに関する様々な状況を聞くようになった。それは、感染状況など直接的な問題に留まらない。介護現場や障害者施設、生活困窮者や子どもの貧困など、新型コロナウイルスの流行によって様々に影響を受けた場所や人々の状況を知ろうとしたのである。その数は昨年だけで十数回に及ぶ。
オンライン行幸啓で、回復途上の雅子さまも一緒に人々とご交流を
そして重要なのは、天皇と皇后が一緒に並んで説明を受けている点であろう。同じ机に座り、マスクをして説明を聞いている天皇と皇后の姿が公開された。未だ病気の回復途上にある雅子皇后が公務を万全にこなすのは難しい。しかし、この新型コロナウイルスをめぐる対応では、基本的には天皇と皇后が並んで、一緒に行っている。
天皇はその後も、8月15日の戦没者追悼式での「おことば」でも新型コロナウイルスの問題に触れ、その後、11月18日からはオンライン行幸啓を行っていく。東京の日本赤十字社医療センターほか、北海道・福島・沖縄の地域拠点病院を視察した。オンラインだからこそ、遠く離れた地域を1日でめぐることができたのである。このオンライン行幸啓でも、天皇と皇后は同じ机に座り、同じ画面を見ながら、人々と交流をした。
「私と雅子二人」「私たち二人」という言葉を使われた天皇陛下
今回の誕生日の記者会見で、昨年8月のオンライン国際会議に出席して、天皇は「オンラインでお話ししてみたところ、臨場感があり、人と人とのつながりを肌で感じることができました」と述べている。そして検討を重ね、オンライン行幸啓を実施したという。つまり、これが実現した背景には、天皇の意思が大きくあり、それを受けて宮内庁が実施に向けて対応したことがわかる。そして、天皇・皇后が並んで行っていることも、おそらく天皇の意思があったからだろう。
1月1日には「新年ビデオメッセージ」が公表されたが、そこでも天皇と皇后が同じ画面に並んで人々に語りかけた。ここでも二人はペアであった。今回の記者会見で、天皇は「私と雅子二人」「私たち二人」「私たち」という言葉を使い、「新年のビデオメッセージでは、一緒に国民の皆さんにご挨拶ができたことを良かったと思っております」とも述べている。天皇は、皇后と一緒にオンライン行幸啓に取り組むことをどこかで喜んでいるようにも見える。体調が万全ではない皇后と共に公務に取り組むことは、天皇と皇后が共にある、もしくは天皇が皇后を支えながらある、という令和の天皇と皇后の二人のあり方なのかもしれない。
愛子さまのご結婚についても…家庭的な姿を見せられた天皇陛下
そして、今回の誕生日の記者会見では、成人を迎える愛子内親王についても質問がなされた。「私たちも、愛子がオンラインで授業を受けているのをそばで見る機会もありましたが、私たち自身も、新たな知見を得ることができたり、何か学生時代に戻ったような気持ちになりました」との言及は、子どもの大学のオンラインでの授業を一緒に見ている一般的な家庭と変わらない像と言えるかもしれない。
また、結婚のことを聞かれ、「結婚のことも含めて、いろいろ将来のことも話し合う機会というものがあるかと思います」とも答えている。皇位継承という公的な問題への質問については答えを避けつつ、プライベートな部分については若干でも言及する天皇。そこに家庭的な姿が見えるかもしれない。
(河西 秀哉/文藝春秋 digital)