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改めて自民党の憲法改正草案をみてみる

 ブロゴスに掲載されたブログ記事で、片山さつき氏が憲法18条について論じていることを知りました。
芦部教授の生命・自由・および幸福追求権の判例(最大昭和44年・12・24)への解説。自民党の18条改正条文、身体拘束からの自由を明記してますご心配なく!」
 自民党の憲法改憲草案18条への釈明です。
 草案自体は、こちら(自民党ホームページ)。2012年4月27日に決定されたものです。

 もともとの憲法18条の条文は、こうです。
 「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」

 自民党の改憲案は、このようなものです。
何人も、その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない。
2 何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない
。」

 徴兵制は念頭にありませんよというものですが、その言い草がすごい。
この方が、借金のかたに無理やり身柄を取られて拘束される場合に、それが「奴隷的かどうか」などという抽象的基準で悩む必要がない、使える条文であると思いますが。しかも、意に反しても反してなくても、身体の拘束はすべてだめ、といっているわけで、むしろ強まったとも言えます。」
 基本的人権の保障として、奴隷的苦役を禁止するとことに意味があり、それは社会的、経済的関係と限定されるべきものではありません。
 だいたい現代社会において、片山氏が指摘するような「借金のかたに」などというものを想定していること自体がおかしい。現代社会においては、そのようなことがあってはならないということは常識レベルの話です。

 そして、続く文章が滑稽です。
 「だいたい、9条2項が現状なれば、「兵」自体が存在しないことになっていますから、徴兵はありません。
 安全保障論としても、今の部隊で志願兵でない、徴兵の方々をどうやって組みこんでいくのでしょうか?
 石破幹事長などは、前から否定的ですし、党内でもまじめに議論されたことすら、ないと思います
。」

 いやはや、この主張は一体…、自民党は、憲法9条2項についての「改正」も同時にこの草案の中に入れているではありませんか。その大前提をすっ飛ばして、「9条2項が現状なれば」とは、ひどいレベルです。
 どう考えても、憲法18条の改正案は、徴兵制度が念頭にあるというべきでしょう。

 ところで、この片山さつき氏に対する批判として、やまもといちろう氏が批判を展開していました(これもブロゴスで知りました。)。
自民党安倍晋三総裁、維新の会の梯子を容赦なく外す
 片山氏への批判では、
どうしてこんなに馬鹿なのでしょう。天賦人権論とは何であるのか以前に、現代国家における憲法の役割に対する理解が及んでいないようであります。」と評しています。
 批判の対象となった片山氏のツイッターは、次のとおりです。
国民が権利は天から付与される、義務は果たさなくていいと思ってしまうような天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です。国があなたに何をしてくれるか、ではなくて国を維持するには自分に何ができるか、を皆が考えるような前文にしました!」
 片山氏は、まぎれもなく天賦人権思想を否定していますが、決して片山氏の独自の見解ではありません。自民党憲法改正草案自体がこの天賦人権思想を否定しているのです。
 憲法の果たす役割が分かっていないというより、憲法の果たす役割である国家による人権侵害を防ぐことという根本を変更しようというのが、自民党の憲法改正草案であり、自民党という政党そのものだということです。
 その意味では片山氏は、自民党の憲法改正草案に忠実に弁明しているといえます。

 このことは、自民党が発表したQ&A(14ページ)にもはっきりと、書かれています。
権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。」

 そして、国民の義務規定のオンパレードです(一部、省略しています。)。
第3条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
   2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない
。」

第9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。」

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。」

憲法99条3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。(略)」

 そして極めつけが、これです。
第102条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」

 これがすべてを物語っています。本来、憲法は、国民が国家の権力の濫用から人権侵害を防ぐために、国家に守らせるべきものであり、だからこそ、現行憲法は憲法尊重義務は、内閣総理大臣などに課すだけで、国民をその対象としては規定していないのです。
 これを国民の義務として規定するとは、その目的は国民を国家に対する義務主体としてしか位置づけていないということです。
 それは、天皇を元首化するということに如実に表れています。日の丸・君が代を憲法に規定してしまうという思想は、明らかに国民は「臣民」としての位置づけです。
 このような国民へ義務を課しているのでは、有事の際、あるいは有事を想定しての徴兵制度、あるいは国民徴用(国家総動員法)が念頭にあります。

 ところで、このような国民の義務という発想は、突如として出てきたものでもありません。
 既に司法「改革」の中で、司法審意見書(2001年6月)には、次のような提言がなされています(PDF版101ページ)。
21世紀の我が国社会において、国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存体質から脱却し、自らのうちに公共意識を醸成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。国民主権に基づく統治構造の一翼を担う司法の分野においても、国民が、自律性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般について、多様な形で参加することが期待される。」

 これは偶然ではなく、新自由主義改革(構造改革)の中で、階層分化しようとする国民を統合するための手段が必要となっているからです。
 階層分化により格差社会が生じ、その結果、社会はバラバラにならざるを得ませんが、その統合のために、国民に対し、国家、公共に対する義務を醸成していく必要があるからです。
 これは、人らしく生きることへの否定であり、国民が支配の客体でしかないことの表明でもあります。
悪政競い合う民自公 国民を切り捨てる財界 日本全体がタコ部屋だ

 それにしても、自民党憲法改正草案を読んでいて思うことは、これは明らかに大日本帝国憲法の現代版だということです。
 読んでいて、戦争に駆り立てていこうとするこの内容に身の毛がよだつような恐ろしさを感じました。
 自衛隊の観閲式では、何と「陸軍分列行進曲」が使われています。
自衛隊って帝国軍隊なの?」
 それから自民党は、2011年3月に国旗損壊罪法案を提出していたこともお忘れなく。
「「国旗損壊罪」刑法改正を提案へ

 最近、安倍自民党総裁のカラーが出すぎて、タカ派色が強くなり、そのため、トーンダウンさせ、しかも谷垣前総裁のときからの既定路線ということで誤魔化そうとしていますが、それはとりもなおさず、自民党がこのような軍国主義路線を邁進しているということの裏返しでもあるということです。

 この道はいつか来た道。
 このような自民党の憲法改正草案が現実のものとなったら、ものも言えない時代に逆戻りです
 知らないまに暗黒政治が復活していたということにならないよう歴史の教訓は学びたいものです。

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