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2021 北東アジアの平和を脅かす10のリスク 日本、米国、中国、韓国の安全保障と外交の専門家195氏が採点

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第1位
北朝鮮が核保有国として存在すること  4.17点


2020年9月に国連安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁の履行状況を調べる専門家パネルが公表した報告書では、制裁に反して核や弾道ミサイルの開発を続け、弾道ミサイルに搭載可能な小型化した核兵器を開発した可能性が高いことが指摘されている。実際、2020年も3月にミサイル発射実験を繰り返し、10月の朝鮮労働党創建75周年の軍事パレードでは、 新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)を公開している。そして、2021年1月の第8回朝鮮労働党大会では、金正恩氏は核抑止力をさらに強化する意向を表明しつつ、米国に対する対決姿勢を明確にしている。

もっとも、トランプ前大統領のようなトップダウンの取り組みよりも、こうした同盟国と意見をすり合わせる取り組みの方が時間はかかるため、新戦略の方向性は現段階では判断できない。

そもそも、バイデン政権は核問題に関しては、ロシアとの新START延長交渉や、イランの包括的共同作業計画(JCPOA)を優先されると見られ、対北朝鮮にどこまで本腰を入れて取り組むかは不透明である。さらに言えば、日米韓の連携が不可欠である中、そのうちの日韓間に関係改善の兆しは見られない。

こうしたことから2021年も「核廃棄」には向かわず、北東アジアは北朝鮮による核の脅威と共存せざるを得ない状況である。

第2位
米中対立や、デジタル分野における覇権争い  3.88点


2020年の米中関係は、依然として通商や技術、安全保障面の対立が続いた。また、新疆ウイグル自治区における人権状況、香港に対する国家安全法の適用などをめぐって、米国は批判を強め、経済制裁を実行。新型コロナウイルス対応をめぐる対立も加わり、"戦線"はさらに拡大している。7月には、マイク・ポンペオ米国務長官などトランプ政権の4人の閣僚級の政府高官が相次いで中国について対決姿勢を鮮明にする演説を行い、中国への批判のトーンは一段と高まっている。

11月の米大統領選の結果、バイデン新政権が発足したが、こうした厳しい対中観はもはや超党派的なものであり、基本的な対中政策は前政権時代から変わらないとみられる。中国が実際に行動を変容しない限り、バイデン政権が掲げる感染症や気候変動分野での協力さえ難しい状況である。二国間の経済・貿易面での相互依存の深さから「中国封じ込め」まで行かないとみられるが、2021年も米中対立が世界にとってのリスクであり続けることはほぼ確実である。

第3位
南シナ海における領土・領海をめぐる対立  3.70点


中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、南シナ海における紛争防止に向けた「行動規範(COC)」の策定を進めており、2019年7月にはCOCの策定作業の第1段階が予定より早く終わったとし、2021年末までの妥結を目指す考えを示していたが、新型コロナウイルスの影響もあり協議は遅れている。

一方、20年11月にはフィリピンのロクシン外相が「行動規範では域外国は排除しない」とSNSに書き込み、同年12月末にはベトナム海軍とインド海軍が合同訓練を実施されるなど、中国と領有権を争わない域外国と連携を強め始めた。

こうした動きに対して、中国は南シナ海に軍の艦船を派遣して関与を強める米国を指して「行動規範の策定作業を邪魔している。すべての域内国は警戒し、対抗すべきだ」とするなど、域外国との排除を訴えており、COCの策定作業が難航している。

さらに、21年2月には中国で海警法が成立し、今後の運用によっては、南シナ海でのさらなる火種となり得る。

第4位
アジアにおける中国の影響力がさらに拡大すること  3.53点


中国はこれまで南シナ海への海洋進出や「一帯一路」構想などを通じて、軍事・経済両面でASEANをはじめとするアジアの新興国への関与を強めてきた。援助を武器にした「南進政策」でラオスやカンボジアは事実上、中国に支配されているかのような状況になっている。そうした中、「中国・ミャンマー経済回廊」の建設を進めるなど中国が影響力の拡大を狙うミャンマーで、2021年2月1日に同国国軍によるクーデターが勃発した。

ミャンマーは中国南部からインド洋に抜ける位置にあることから地政学上の要衝である。台湾有事などの際に米国第7艦隊がマラッカ海峡を封鎖すれば、エネルギー資源の入手経路が直ちに遮断され、死活問題となる。インド洋に出られるルートを確保して米国の勢力圏にない拠点をインド洋沿岸に設けることは、中国にとって安全保障上不可欠といえる。

一方、ミャンマーは日米豪印などによるインド太平洋構想上も重要な国である。特に、インドにとっては、ASEAN諸国の中で唯一国境を共有する国であるミャンマーは戦略的な重要性が高い。

ミャンマーには根深い反中感情があるため、すぐに「中国化」するとは限らない。しかし、国際社会が経済制裁などで軍事政権を追い詰めることになれば、対中傾斜が強まるとともに中国の影響力が強まる可能性はある。そうなると、2021年内にただちに顕在化するような高いリスクではないとしても、ミャンマーが日米豪印、とりわけインドとの対立の火種となる可能性はあるといえる。

第5位
台湾海峡での衝突や偶発的事故の発生  3.30点


米国のトランプ前政権は、2017年1月の発足から2020年10月までに総額174億ドルの武器を台湾に売却するとともに、軍艦を2020年だけで13回、台湾海峡を通過させるなど台湾への関与を強めてきた。

バイデン新政権下でも、2月4日に駆逐艦に台湾海峡を通過させるなど、台湾政策に関しては基本的に前政権を踏襲していくとみられる。

こうした米国の姿勢に対して中国は猛反発している。2020年から中国軍機による台湾の防空識別圏での活動が活発化しており、しかも台湾海峡南端とバシー海峡西端との双方の近くに位置し、軍事的価値が高い東沙島周辺まで侵入する事態が増えている。そこでは、これまでは単機、あるいは二機程度による単純な往復飛行だったものが、機種を多様化させつつ大きな編隊を組んで飛行するなど、米台に対して明確な対抗意思を示していると言える。

台湾の蔡英文総統は2020年5月、「1つの中国」は受け入れられないと改めて明言し、平和的統一がますます困難になる中、2022年の第20回党大会で国家主席3選を目論み、目に見える成果を挙げたい習近平氏の動向次第では、2021年にこの海峡をめぐる情勢が一気に緊迫化するリスクは高まってくる。

第6位
中国の海警法の適用の在り方と、現状変更に向けた行動  3.23点


2021年2月1日から、中国で「海警法」が施行された。同法は、国際法上のいかなる海域に当たるのか明確ではない「管轄海域」を中国が一方的に定めることができるものとしたり、「航行の自由」原則に依拠して作られている国連海洋法条約とは異なり、軍艦、公船の航行に様々な制約を課す規定が見られる。

また海警法第22条では、中国の主権や管轄権が外国の組織・個人によって「不法に侵害された、または不法に侵害される緊迫した危険がある時」には、武器使用を含む一切の措置がとれるとしているが、これも武器使用について詳細な規定を設けている国際法に合致しないなど、海警法には既存の国際法や国際慣行と相容れない要素が少なくない。

さらに、海警法では接続水域で「安全」に関する措置をとることを認めている。これも国際法上は認められていないが、この規定が特に問題になるのは、接続水域を設定済みの尖閣諸島周辺である。海上保安庁の巡視船が尖閣周辺の接続水域から排除されていけば、その内側の領海にも近づけなくなり、なし崩し的に現状変更につながっていくおそれがある。

武器使用を厳しく制限されている海保では対応できない事態となるが、海上自衛隊が出動するとなると、軍の最高指導機関である中央軍事委員会の指揮下に入り、実質的に「第二海軍」ともいうべき海警局との間で事態がエスカレートしかねない。こうしたことから、海警法とその適用のあり方は、2021年におけるリスクとなる可能性があるといえる。

サイバーや宇宙等の新領域における大国間対立  3.19点


宇宙領域での台頭著しい中国は2020年6月、「中国版GPS」とも呼ばれる、独自の位置情報システム「北斗」を完成させた。この「中国版GPS」は、安全保障面で米国を念頭に、太平洋上を中国に向かって進む米艦隊や空母の位置を正確に把握することを可能にするとみられる。一方の米国も5月、9年ぶりとなる有人宇宙船の打ち上げを成功させるとともに、19年末には72年ぶりに創設される軍として宇宙軍を発足させるなど、やはり宇宙戦略に力を入れている。

しかし、宇宙空間でも米中覇権争いが進む中、宇宙を規律する国際ルールの整備は進んでいない。宇宙条約が地球軌道・天体・宇宙空間に核兵器を含む大量破壊兵器は配備してはならない旨を規定しているが、通常兵器の配備は違法としていない。宇宙空間における軍縮条約案も提案されてはいるが、実際の交渉まで進んでいない。こうした背景には、中国やロシアは米国を、米国や日欧は中国を牽制したいという相互の思惑がある。10月に日英豪など8カ国が署名した、米国提案の月面開発に関する「アルテミス合意」も対中牽制の狙いがあるとみられる。このように政治的な信頼醸成が進まない中では、2021年もルール作りは進んでいかないとみられる。

サイバー空間についても同様で、国連に設置されたサイバーセキュリティに関する政府専門家グループ(GGE)や有志国グループ、民間など様々な議論の舞台はあるが、国際規範が認められ、国際条約が成立するまでにはまだまだ時間がかかる見通しである。

海洋法が数百年をかけて国際規範を形成していったように、宇宙やサイバーでも同様に長期のプロセスが必要になるとみられるが、未整備の間隙を突くような不測の事態が生じるリスクは当面の間あるとみられる。

第8位
新型コロナウイルスが、アジア各国の経済や財政に大きなダメージを与えること  3.16点


新型コロナの感染拡大で、世界経済は異次元の経済危機に陥った。IMFによると2020年の世界経済の見通しはマイナス4.4%で、巨額の財政対策などで悪化幅は縮小したが、悪化幅はリーマンショック時を上回り、今後6年間の経済損失も約3000兆円と見込まれている。この間、新型コロナに関連した世界の経済対策は2020年末で1445兆円に達し、急拡大する財政債務が各国経済の深刻な重荷になっている。また海外渡航などの停止で、20年の国際観光収入は135兆円も減少し、関係の失業者は1億人に及ぶと予想されている。

21年の世界経済は当初、感染拡大の影響が続く中での財政、金融政策に支えられた経済回復を見込んだが、20年後半のコロナ感染の再拡大に伴い、回復ペースが落ち込んでいる。その中でも中国は2020年、主要国で唯一プラス成長を維持し、新型コロナの経済後退を乗り越えている。

ワクチン普及に伴い経済正常化への動きが先進国を中心に始まる可能性はあるが、強力な経済活動の抑制はまだ続いており、また、国内や世界での格差や分断も進んでおり、先行きのリスクは楽観できない。

第9位
インド太平洋における日米豪印などの連携と中国の対立  3.07点


クワッド(QUAD: Quadrilateral Security Dialogue)とは、インド太平洋における民主主義国である日本、米国、豪州、インドの4カ国による安全保障協力の枠組みであり、2017年以降、4カ国の外交当局や国防当局による協議が行われてきた。

クワッドは、2016年に安倍前首相が提唱した「自由で開かれた太平洋構想」(FOIP)の具体化としても議論されることがある一方で、中国政府は中国封じ込めのための枠組みとして警戒し、「インド太平洋版の新たなNATO」とも批判している。

インド太平洋構想は、元々は成長著しいアジアと潜在的な成長力を持つアフリカ、さらには南米を繋ぐインド洋と太平洋でルールに基づく秩序の形成であり、法の支配や航行の自由、さらには自由貿易の普及などがその発想になったが、最近では安全保障面での連携強化を意識した動きとなっている。ただ、現状では中国に対する対包囲網の戦略的な連携というより、中国の強硬的な行動がそうした関係国の反中感情を惹起したという側面もあり、今後の展開はまだ不透明である、

英国がクワッドへの参加に意欲を示しているとされるほか、ASEAN諸国や欧州諸国の一部にも参加を期待する動きもあり、中国はその動向に神経質になっている。

第10位
新型コロナウイルスのパンデミックが終息しないこと  2.94点

言論NPO

新型コロナウイルスの感染は、2020年に1月に中国の武漢で確認され、30日にWHOが非常事態を宣言した後も、世界に急速に広がり、2021年2月中旬で、世界全体で感染者は1億1136万5522人、死亡者は246万6241人となった。

その中で最も感染者が多いのは米国の2813万3699人で、世界の感染者の25%が集中している。死者は50万人を超え、米国とっては第一次、第二次、ベトナム戦争の死亡者を超える水準になっている。一日当たりの世界の新規感染者は2月に入り、ペースダウンはしているが、それでも一日当たり30万から40万人となっている。20年後半には感染が再拡大した他、ウイルスの変異株の流行もあり、感染封じ込めの目途は立っていない。

またワクチンは、2020年12月にファイザー、ビオンテック社の接種開始後、すでに50カ国で接種が始まっているが、ワクチンが世界にいきわたり、また集団免疫が形成されるには相当の年数を要するとみられている。

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