- 2021年02月25日 19:10 (配信日時 02月25日 18:15)
「過去最大の赤字よりマズい」電通が五輪中止より恐れている"最悪のシナリオ"
1/2広告業界最大手・電通が過去最大の赤字を記録した。最終損益の赤字は2期連続だ。なぜ業績が悪化しているのか。経済評論家の加谷珪一氏は「赤字額は過去最大だが、見かけほど業績は悪くない。むしろ問題なのは、デジタル化の流れに取り残されつつあることだ」という――。

電通 本社ビル(東京都港区)=2018年2月5日 - 写真=時事通信フォト
コロナ危機で「広告出稿」が大幅に減っている
新型コロナウイルスの感染拡大に、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言が重なり、オリンピック開催がますます危うくなっている。そのような中、オリンピックと一心同体の関係にあるとされる電通グループの業績が急激に悪化している。
万が一、オリンピックが中止となった場合、さらに大きな打撃を受けることが懸念される。広告業界のガリバーと呼ばれ、日本社会に絶大な影響力を及ぼしてきた同社に一体何が起こっているのだろうか。
電通グループは2021年2月15日、2020年12月期決算を発表した。収益は前年比10.4%減の9392億円、営業損益は1406億円の赤字、最終損益も1595億円の赤字だった。最終損益の赤字は2期連続(前期は808億円の赤字)で、今回の赤字額は過去最大である。
同社はエージェンシーとメディアレップを組み合わせた業態であり、顧客企業から広告料金を受け取り、一定のマージンを差し引いた金額をメディアに支払っている。決算短信ではメディアへの支払い控除後の実質的な売上高である「収益」が計上されているが、グロスでの売上高は約4.5兆円で、前年比マイナス12.6%だった。
2020年以降、コロナ危機によって多くの企業が業績を悪化させており広告出稿が大幅に減っている。電通もそのあおりを受けていることに加え、テレビや新聞など従来メディアの視聴者や読者が減っていることから、オールドメディアに強い電通には大きな逆風が吹いている。
こうした中、期待を集めていたオリンピック開催が危ぶまれていることから、電通の今後について悲観視する声も聞かれる状況だ。
見かけほど悪化していない電通の業績
確かに今期の赤字は過去最大であり、電通にはかつてない逆風が吹いているが、同社の業績は見かけほど悪くない。
コロナ危機による広告出稿の低下を受けて売上高は減ったが、同時に人件費の削減も進めており、海外を中心に6000人を削減する計画だ。また、過去に高い価格で買収した海外事業について再評価を行っており、事業価値が毀損した分については減損として費用に計上している。
同社は国内広告市場の縮小が予想されることから、過去10年間にわたってひたすら海外事業を強化してきた。2013年には英国の広告大手イージスを4000億円で買収するなど、事業のグローバル化を進めている。グループ全体に占める国内売上高の比率は42%となっており、北米が26%、欧州が22%、アジアが10%と、すでに収益の半分以上を海外部門が稼ぎ出している。
今期決算で計上された損失の多くが、リストラなど構造改革費用と資産価値見直しによる減損である。特に減損については見かけ上の損失であり、同額のキャッシュが流出したわけではない。一連の費用を除外すると同社の営業利益は1239億円の黒字なので、本業そのものは何とか利益を出している。
経営の見通しは立っているが…
つまり、一連の巨額赤字は、過去のM&A(合併・買収)における投資金額の見極めが甘く、会計上の「のれん(買収先企業の純資産額と買収金額の差額)」が過大だったことが要因であり、同社の事業が根本的に揺ぐほどの状況とは言えない。
今回の赤字転落を受けて、財務体質を強化するため本社ビルの売却を決定しており、売却金額は3000億円にもなると言われる。売却後も引き続きビルを使用する予定だが、コロナ危機をきっかけにテレワーク化が進んでおり、実質的な出社率は2割程度とされる。
売却後に従来と同じスペースを確保する必要はないので、この部分については大きなコスト削減要因となるだろう。今期(2021年12月期)についても560億円の構造改革費用を計上する予定となっており、2022年以降についても700~800億円程度のコスト削減効果を見込んでいる。
一連の状況から総合的に判断すると、同社が厳しい状況にあるのは間違いないが、一方でコスト削減も進んでおり、リストラとバランスシート調整が一段落すれば、収益は徐々に改善すると予想される。
しかしながら、それはかつての電通の復活を意味することにはならないと筆者は見ている。その理由は、コロナ危機をきっかけに電通を取り巻く市場環境がさらに変化する可能性が高まっているからである。
電通が圧倒的な影響力を持っていた背景
電通という企業は一般にはあまり馴染みがなく、社員の過労自殺や持続化給付金の再委託問題、あるいはオリンピックを通じた政治との密接な関係が取り沙汰される前は、業務内容を詳しく知らない人も多かったはずだ。
だがメディア業界や政官界においてその存在や影響力を知らない人はおらず、同社は広告・メディア業界のガリバーとして戦後社会に君臨してきた。電通がメディア業界や政官界に極めて大きな影響力を行使できた最大の理由は、発足の経緯にある。
太平洋戦争開戦直後の1941年12月、政府は報道統制を実施するため国家総動員法に基づく新聞事業令を施行。全国に100以上あった日刊紙は55に統廃合された。新聞社にニュースを配信する役割を果たしていた通信社も、国策通信社である同盟通信に一本化されたが、その際、広告部門として独立したのが現在の電通である。
つまり電通という企業は国家総動員体制をきっかけに、(電通自身は消極的だったとはいえ)メディア広告を一手に引き受ける企業として人為的に作られたものであり、発足当初から政治色が強かった。戦後もこうした寡占状態が継続したので、電通は圧倒的な競争力を維持することになった。
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