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日銀は日本をデフレから救えるのか

 「我が党は3%を目指す。」

 「うちは2%が目標だ。」

 「いや、うちは1%が適正水準だと考える。」

 総選挙まで残すところ1週間あまりとなったが、11月30日の主要11政党の党首による討論会では、原発、消費増税の是非などとともに、「インフレターゲット」と呼ばれる政策が論争のテーマとなっていた。

 インフレターゲット(通称インタゲ)とは経済政策の一種で、一定の物価上昇(インフレ)率を目標(ターゲット)に据えた上で、その目標を達成するまで中央銀行が金利を下げるなどして金融を緩和するというもの。日銀がインフレターゲット政策を採用すれば、日本経済は今日のデフレ状態から抜け出すことができるとして、自民党やみんなの党などが今回の選挙で公約に掲げたことで注目されるようになった。専門性が高い金融政策が総選挙の一つの争点になるのは、おそらくこれが初めてのことだろう。

 確かに、金利を操作することで物価を安定させるという日銀の中央銀行本来の機能は、ゼロ金利が常態化した今、効力を失っている。それでもインタゲ派は日本がデフレから脱却できないのは日銀が十分な資金を供給していないからだとして、これ以上金利を下げられないのなら、国債を買うなどしてもっと市場に資金を供給せよと、日銀に対して一層の金融緩和を求めている。そこには日銀が資金を供給し続けていけば、いずれ必ず目標とするインフレターゲットに到達することが可能になり、日本はデフレから抜け出すことができるとの前提がある。

 普段はあまり注目されない金融政策が選挙の争点になること自体は悪いことではない。しかし、インタゲ派の批判の矛先が、安易なインフレターゲットを受け入れようとしない日銀叩きに向かっている点は、やや注意が必要だ。特に自民党やみんなの党は、政府の言うことを聞こうとしない日銀総裁の人事への介入を示唆したり、日銀の独立性を担保している日銀法の改正にまで言及し始めている。中央銀行が政治にコントロールされ、金融政策が政治権力の具となることが必ずしも好ましい結果を生まないことは、多くの歴史が証明している。

 それに、そもそも日本がデフレから抜け出せないのは、本当に日銀のせいなのだろうか。かつて、日銀が市場に資金を供給すれば物価は上がり、経済を安定的な成長軌道に乗せることができた時代はあった。しかし、今や日銀は当時の3倍もの資金を市場に供給している。にもかかわらず、モノの値段は下がり続け、我々の暮らしぶりは悪くなる一方だ。単に資金供給量を増やすだけで、この問題が本当に解決に向かうのか。

 JPモルガン証券チーフストラテジストの北野一氏は、日銀は既に相当の資金供給を行っており、これ以上金融緩和をして市中に資金を供給しても、それだけでは物価上昇にはつながらない可能性が高いと主張する。実際にデータを見ても、量的緩和の初期には物価上昇に一定の効果が見られたが、ある段階からどんなに資金供給量を増やしても、ほとんど物価があがらなくなっていると北野氏は指摘する。どうも、日銀デフレ犯人説は疑ってかかる必要がありそうだ。

 しかし、ではなぜ日本は相変わらずデフレから脱却できないのか。北野氏はその問題を解くカギは、民間企業の経営のあり方にあると説く。グローバル経済の下で外国人投資家を中心に、民間企業の株主たちは今日、日本経済の実力以上のリターンを求めている。株主が要求する利益は、企業にとっては実質的には金利と同じ効果を持つ。金融機関から調達する資金の金利がどんなに下がっても、株主が求める利益が大きければ、企業は実質的に高い金利を払わされているのと同じ状態となる。

 例えば、アメリカではROE(Return on Equity=株主資本利益率)は平均8%程度なので、日本の株式市場の3分の2を占める外国人株主たちも、当然のことのように日本の企業から8%のリターンを期待する。しかし、本来の実力以上の利益を捻り出すためにその企業は、人件費や設備投資などの支出を必要以上にカットしなければならない。その結果、従業員の給料はあがらず、物も売れない状態が続く。デフレである。

 民間部門が益出しのために固く財布の紐を締めているところに、日銀がどんなにジャブジャブと資金を供給しても、それが有効な投資に回ることはない。日本がデフレから逃れるためには、日銀や公共事業などの公的セクターばかりに注目せずに、全国内需要の75%を占める民間セクターにもっと注目するべきだと、北野氏は言う。政府や日銀に「無い物ねだり」をするのではなく、民間で「ある物探し」をした方が建設的なのではないかというのが、北野氏の問題解決に向けた提案ということになる。

 哲学者の萱野稔人と社会学者の宮台真司が、デフレの真の原因と日銀犯人説の真偽、そしてその処方箋を北野氏と議論した。

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