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公務員の政治的行為に合憲的限定解釈

憲法を学ぶ学生さんたちには格好の教材となるべき判決が、昨日最高裁から出された。
憲法をめぐる政治家たちの浅はかな言動が飛び交う現在、最高裁はやはり人権の砦だという感を強くしたのではなかろうか。ただし、内容的には必ずしも手放しで賛成できるものばかりではないし、憲法学的にも、法情報学的にも、あるいは法政策学的にも、様々な問題が含まれている。
その意味でも格好の素材だ。

最判平成24年12月7日957号事件=課長補佐事件(PDF判決全文
最判平成24年12月7日762号事件=係長事件(PDF判決全文

事案は、国家公務員が勤務外に共産党機関紙をポスティングしたという行為に、国家公務員法の禁じる政治的行為であるとして起訴されたというものである。

被告人が厚労省の課長補佐だった957号事件は、東京高裁が有罪と認めたので、弁護人が上告した。他方、同じ厚労省の係長を被告人とする762号事件は、東京高裁が無罪としたので、検察官が上告した。

これに対して最高裁第二小法廷は、いずれの上告も棄却した。つまり、課長補佐の有罪も、係長の無罪も、どちらも是認したのである。

同じ法廷で、同じ行為で、どうして結論が分かれたかというと、被告人の立場が違うからである。
最高裁は国家公務員法が禁じる政治的行為を「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるもの」に限られるというように限定的に解釈し、課長補佐の行為は実質的に中立を害するおそれがあると認めたが、管理職的立場にない係長の行為は実質的なおそれがないとしたのである。

筆頭課長補佐であった被告人は、要するに管理職として指揮命令をするし、裁量権もあるので、その職務行使に影響を及ぼす実質的なおそれがあるというわけである。

ここの論理は、しかし疑問で、行政の中立性を損なう可能性があるのは、当該課長補佐が一定の政治的思想を有していること、それ自体ではないか、ビラ配りをしたかどうかは余り重要ではないのではないかとも考えられる。仮に外見上の行動が悪影響を及ぼすおそれがあるとしても、それは勤務上とか、あるいは職場においておおっぴらに宣伝活動をする場合であって、勤務外に、職場外で行うビラ配りでは、管理職だからといって行政組織全体に偏向をもたらすとはいい難いように思う。

それはともかくとして、いくつか注目点を指摘しておく。
第一に、全体としては政治的行為の禁止規定を憲法に適合するように限定解釈した上で、具体的適用を行った。こういう手法を「合憲的限定解釈」という。

この手法自体は、法解釈論としてはまっとうなものではあるが、いささかトートロジックなところがあり、しかも明文上は幅広い禁止規定を定めておきながら、実際は適切な範囲でしか適用しないという、お上にとっては誠に都合の良い規制の仕方をもたらすという点で問題がある。

第二に、公務員の政治的行為の禁止規定を一般的に合憲と認めた猿払事件大法廷判決に対して、この小法廷判決は限定的な解釈をして係長事件につき無罪判決を認めた。これは判例変更に当たらないのかという問題で、千葉勝美裁判官は判例変更ではないという補足意見をつけている。
確かに、事案に即した判断、すなわち結論命題の部分が判例であり、その射程は具体的事案を同じくする限りでおよび、結論に至る理由として抽象的な法理を述べた部分は判例ではないというのが通説的見解だ。

しかし、猿払事件の命題を当てはめれば有罪となるべき係長について、解釈を変えて無罪としたのであるから、これは実質的な判例変更というべきであり、大法廷判決によるべきだったとの見解はありうる。技術的な問題よりも、判例としての安定性を確保し、変更には慎重な審理を保障するのが大法廷制度だからである。

それに、猿払事件の被告人は現業公務員たる郵便局員であり、勤務時間外に国の施設以外の場所で行われた行為を対象として、しかも選挙用ポスターの貼付を行った事例であるから、具体的な事案の限りでも、本判決がいう「実質的なおそれ」は認めがたい事案だったのではなかろうか? これを有罪とした判決の判例の射程は、やはり対象公務員の立場を理由に実質的なおそれがない場合は該当しないという解釈と抵触するというべきだろう。

まあ、大法廷に回っていたら結論は変わっていたかもしれないので、被告人側の戦略的にはこの方が良かったとも言えるのだが。

第三に、須藤裁判官は課長補佐事件についても無罪であるべきとして反対意見を付けた。これは先日のエントリ「最高裁裁判官国民審査の参考資料」に新たな一事例を付け加えるものであるが、ともかく須藤裁判官のリベラルな姿勢を表すものとして注目すべきである。

その他、千葉勝美裁判官は自らの最高裁調査官解説を引用し、表現の自由に関する違憲審査基準についての学説、アメリカの諸基準を豊富に引用しており、このテーマに関する判例の動向を学ぶ上では極めて参考になる内容となっており、法学部とロースクールの学生さんたちはみんな読んで、引用されている裁判例も読んでみよう。

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