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債券先物の過去最高値が145円28銭の理由

 今回は債券先物の高値の謎に迫ってみたい。12月6日に債券先物は2003年6月10日につけた過去最高値の145円09銭を抜いて過去最高値を更新と報じられたが、これはある意味正しく、ある意味正しくはない。

 これについては2003年6月に何があったのかを振り返る必要がある。まずは、拙著「超低金利時代の終わり [Kindle版]」の「1-4 日本の長期金利が世界最低記録を記録した日」から当時の状況を見てみたい。

 2003年5月のりそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607円88銭がバブル崩壊後の当時の安値となり底打ちした。

 米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め上昇基調を強めた。つまり、いまで言うところのリスクオフからリスクオンに転じたこととなる。しかし、そんな株式市場の動きを無視して買われていた市場があった。債券市場である。

 2003年6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続けた。これには日銀による金融緩和も背景にあった。日銀総裁が速水氏から福井氏に代わり、福井総裁は就任早々の3月25日に臨時の金融政策決定会合を開催し、銀行保有株買取枠を拡大した。4月30日の決定会合では日銀の当座預金残高の目標値を引き上げ、5月20日の決定会合でも当座預金残高の目標値を引き上げることを決定したのである。

 そして、2003年6月11日に30年債の利回りが0.960%、20年債の利回りが0.745%、そして10年債の利回りが0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録した。10年債の利回り、つまり今年に入りスイスに更新されるまで、過去の地球の歴史上、日本で2003年6月につけた0.430%が世界最低の長期金利となっていたのである。

 この相場上昇過程において、目立ったのがメガバンクの一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた(つまり、値動きが小さいと価格変動リスクのある国債をさらに大量に買えるというもの)。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、日銀の緩和策なども背景にして、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出したのである(以上、「超低金利時代の終わり [Kindle版]」)。

 これで債券先物が過去最高値をつけた際の状況は何となくご理解いただいたかと思う。しかし、ここで債券先物の高値論争で問題となるのは、債券先物が最高値をつけたタイミングなのである。つまり2003年6月11日に実質的な中心限月の移行が発生していた。

 2003年6月10日の後場に当時の債券先物の中心限月であった6月限は145円09銭まで上昇した。そして翌日の6月11日に10年債利回りは0.430%をつけ、先物6月限もこの日の前場に145円28銭まで上昇した。

 ところがこの6月11日に債券先物の日中出来高で9月限が6月限を上回ったのである。当時まだ私は債券ディーラーであったが、出来高が逆転すると債券先物の中心限月が移行との認識となり、トレードも新しい限月中心に行うようになる。市場参加者にとり11日の実質的な先物中心限月は9月限となっていたのである。つまりこの日つけた145円28銭は中心限月ではないとの認識で幻の高値となってしまったのである。このため、債券先物の中心限月の高値は2003年6月10日の145円09銭と認識された。つまり145円28銭はあくまで、債券先物としては最高値かもしれないが参考記録程度との認識であった。

 ところが、東京証券取引所の資料を見ると、長期国債先物(通称、債券先物)の市場開設来の最高値(主限月)は145.28(2003/6/11)と記載されている。つまり正式な債券先物の最高値は11日につけた145円28銭が記録として残っている。

「TSE Derivatives Market Highlights」
http://www.tse.or.jp/rules/derivhighlights/b7gje60000005p5l-att/b7gje6000002bbhm.pdf

 ここには市場参加者との中心限月移行の捉え方の違いも影響している可能性がある。つまり、市場参加者にとって売買高が逆転すればその日から商いの中心が新たな限月に移る。ところが、先物の中心限月の交代については、正式にはイブニング・前場・後場のオークション取引(つまり立会外取引除く)の出来高が逆転した「翌営業日」から中心限月の定義が変わることになっている。従ってこの定義から言えば、2003年6月11日につけた145円28銭は中心限月としての高値との記録とも言える。

 このような細かいことはさておき、145円28銭を抜いてくれればこのあたりの問題も解決する。それもこの相場からは時間の問題のように思うのだが。

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