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2012年版自民党憲法改正案批判~(3)基本的人権の尊重

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引き続き2012年版自民党憲法改正案批判です。今回は三つの基本原理の最後、基本的人権の尊重です。
ここで一番の注目は「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」に書き換えられた事だと思います。
自民党は9条改正と並んでこれだけはどうしても譲れないんじゃないでしょうか。

<自民党憲法改正草案に反対する意見書(自由法曹団)>
http://www.jlaf.jp/menu/pdf/2012/120823_01.pdf

第4 基本的人権の制限と統治機構の全面的改変

1 基本的人権の大幅な制限

(1)公益・公の秩序による広範な人権制限

現行憲法は、「公共の福祉」による人権制約が存することを定める(12
条後段、13条後段、22条1項、29条2項)。これは、人権相互の矛盾
・衝突を調整する原理
と解されている。したがって、社会公共の利益という
ような抽象的な価値を根拠に人権を制約することは許されず、その制約が許
される程度も、人権の性質に応じて厳格な審査基準や緩やかな審査基準で判
断される。
これに対し、自民党草案は、「公共の福祉」をいずれも「公益及び公の秩
序」
に置き換える(草案12条後段、草案13条後段、草案29条2項)。
「公共の福祉」とは異なり、抽象的な価値を根拠に人権を制限することが許
されることになり、明治憲法下の法律の留保と同じ結果となりかねない。

(2)表現の自由・政治活動の規制

とりわけ表現の自由については、わざわざ「公益及び公の秩序を害するこ
とを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認
められない。」(草案21条2項)と規定する念の入れようであり、草案の
狙いが国民の知る権利や言論・政治活動の規制にあることが明らかである

さらに政党を法律で規制する(草案64条の2)。「政党法」は、戦後の
日本において、体制批判政党や少数政党を排除するために、支配勢力による
制定策動が繰り返されてきた。例えば、中曽根内閣のもとで1983年5月
に登場した自民党「政党法要綱」(吉村試案)では、①体制変革を目指す政
党の否定、②政党承認要件として一定割合以上の得票又は35人以上の国会
議員、有権者10万人以上の連署が必要、③政党の出版物の提出義務、④政
党助成金、⑤規制違反に対する処罰を内容としていた。草案の狙いが、自民
党草案が狙う国家体制を批判する勢力の排除にあることは明らかである


(3)社会権の切捨て

公務員の労働基本権について法律で全部又は一部を制限することを明記し
て公務労働者の労働運動を抑圧する(草案28条2項)。
また、財政の健全性を特に規定して(草案83条2項)、これを口実とし
た社会保障費削減・生存権の切捨てに道を開くものとなっている。

(4)人権保障とは異質な「家族」規定

自民党草案は、家族の尊重と相互扶助義務を原則とする(草案24条1項)。
個人の尊重(現行憲法13条前段)を確保しようとする人権保障制度とは全
く異質のものである
。この規定は、1つには、戦前の「家」による国民生活
統制の復活を狙うものである。もう1つには、最近の生活保護バッシングと
扶養義務者の扶養を強制しようとする動きに見られるように、国の生存権保
障を後退させて家族に責任を押し付ける狙いを持つものである。

(5)他党派の改憲案

立ち上がれ日本「大綱案」は、「国の安全」「公の秩序」「国民の健康また
は道徳その他の公共の利益」を人権制約原理とすること、政党を規制対象と
位置づけること、家族の価値を人権規定に置くこと、財政収支均衡規定を置
くとしている点において、自民党草案と全く同じといえる。
みんなの党「考え方」も、政党規定を新設するとしている。

(6)基本的人権の否定

各党の改憲案とも、表現の自由を中心として基本的人権を公益の名のも
とに大幅に制限するものであって、法律によっても侵されない基本的人権、
という原理を否定するものである


(引用ここまで・強調は私)

自民党は、世界の歴史が市民革命以降確立してきた天賦人権思想を否定しています

人は生まれながらにして自由平等であり、人権は国家によっても不当に奪うことは出来ないというのが天賦人権思想です。
これと逆の思想が、市民革命以前の中世封建時代や戦前の日本です。
戦前の国民は、統治権を総攬する現人神である天皇に仕える「臣民」であり、大日本帝国憲法は制定時、皇国史観とは相容れない天賦人権思想を歯牙にもかけませんでした。
「臣民の権利」は国家が恩恵として与えた物にすぎず、その権利はいくらでも法律で制限することが出来たのです。

大日本帝国憲法を見てみましょう。
第二章で臣民権利義務が定められています(ちなみにこの章では先に臣民の義務が定められていてその後で権利が定められているところが帝国憲法の性質を表していますね)

第22条日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス
第25条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ
第26条日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ
第28条日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
第29条日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス

このように、国民は法律が許容した範囲内でしか種々の権利が認められませんでした(これを法律の留保と言います)臣民の権利は立法によっていかようにも制限することが出来ました。
治安維持法、国家総動員法等々の治安立法で、国民の自由、とりわけ思想信条の自由や表現の自由はゼロの状態になり、天皇や政府や軍部を批判しようものなら激しく弾圧され、殺されることも珍しくありませんでした。

改正案は「公益及び公の秩序に反しない限り」人権は尊重される、としています。これは国や公共の利益、安寧秩序に反しない範囲内で人権を認める、ということで、常に国や公共の利益、公の秩序が個人の人権より優先されてしまいます。国家が帝国憲法の「法律の留保」と同様、国家が好きなだけ人権制限を行えます。
ですから「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に替えたのは天賦人権思想の否定なのです。恐ろしいですね。

天賦人権思想は近代憲法の本質であり根本規範ですからこれを否定することは不可能で、もし強行するならばそれはクーデターに匹敵すると思います。

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