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各国が頓挫するなか日本の教育支援が起こした南東欧の国・ボスニアでの「革命的変化」 - 橋本敬市

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「マヤ、頑張ったね!皆さん、彼女に拍手!」。

東京・羽田空港から飛行機を乗り継ぎ、およそ14時間のフライトを経た先にある南東欧の国、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(以下、ボスニア)。

南東欧の国「ボスニア・ヘルツェゴヴィナ」の都市、モスタル市。日本式の教育を導入する挑戦が行われている。(写真=Getty Images)

その第3の都市、モスタル市のMarina Drzica Buna小学校で5年生の男女計15人がバレーボールを追っていた。

下肢に障害のあるマヤが元気に飛んできたボールを打ち返す。周りの子供たちから拍手と歓声がわいた。マヤが満面の笑みで応える-。

何気ない体育の授業の一風景だが、ここボスニアでは数年前まで、障害のある子供とそうでない子供が一緒に体育の授業に参加するなど考えられなかった。それどころか、運動が苦手な子供はいじめの対象になることも。

そういった教育環境を変えようと"日本式"の教育方式を導入する試みが進んでいる。

日本人にあまり馴染みのないバルカン半島の国ボスニアで、日本の国際協力機構(JICA)が変えた教育の現場を紹介する。

運動が苦手な子も評価する日本の保健体育教育

運動会を楽しむボスニアの子供たち。プロジェクトでは日本式の「Undokai」も伝えられた。(写真=JICA提供)

「日本の教育手法を取り入れてから、子供たちが本当に体育を楽しんでくれるようになりました」

同校のフラニョ・スーチェ先生は笑顔を浮かべる。日本の保健体育教育を紹介するJICAプロジェクトで研修を受けた教員の1人だ。

日本の保健体育教育では、子供の個性を尊重し、運動が苦手な子でも、その子なりの努力を積極的に評価する。

友達と一緒に楽しむ初めての運動会。子供たちの笑顔がはじけた(写真=JICA提供)

また、周りの子供たちにはクラスメートの努力を応援するよう指導することにより、皆が一緒に体育を楽しめる環境作りが求められている。

一方、オリンピックなどで活躍する優秀なスポーツ選手の育成が中心だったボスニアでは、運動が苦手な子は授業中ほとんど相手にされず、いじめの対象にもなってきた。

障害のある子が他のクラスメートと一緒に体育の授業を受けた例もない。

ボスニアにとって革命的な価値観の変化に

他の生徒を応援する姿も見られるように(写真=JICA提供)

そこでJICAは2016年11月からボスニアで「スポーツ教育を通じた信頼醸成プロジェクト」を開始。日本の教育関係者や保健体育の専門家がボスニアに足を運び、日本式の授業を伝えるなどした。

スーチェ先生は「ボスニアの体育教育にとって、劇的なパラダイム・シフト(価値観の革命的な変化)になりました」と、日本発のカリキュラムを評価する。

だが、この"革命的な変化"は、簡単に起こせたわけではない。

3つの民族が共存するボスニアでは、民族間の対立感情から国際社会の支援が困難になるケースも。各国の教育支援プロジェクトが次々と頓挫したこともあった。

EUから"大卒"認められず 若者流出の危機を抱えたボスニア

1992〜95年の間に紛争が起きたボスニアは現在、紛争終結後最大の危機に直面している。

国家の将来を担うティーンエイジャー、さらに医療関係者やエンジニアなどの若い専門職人材の海外流出に歯止めがかからないのである。

報道によると、2010年から2019年までの10年間に約8万2000人がボスニアの市民権を放棄。さらにボスニア市民権を保持したまま海外で生活する人はその8-10倍に上るとみられ、市民権放棄の“予備軍”と見られている。

その原因の一つが、ボスニアの分断された教育システムにあるという。

同国には ボシュニャク=ボスニアのムスリム住民 セルビア人 クロアチア人 の主要3民族が暮らしている。

紛争中、三つ巴の争いを展開した3民族は、それぞれ別々の教育カリキュラムで自民族住民の教育を続けていた。

この標準化されない教育制度に対する海外、特にボスニアが将来加盟を目指す欧州連合(EU)からの評価は低く、ボスニアで高等教育を受けても、EUでは“大卒”扱いされない状況となっている。

そのため、ボスニアの優秀な若者は、周辺国やEU域内の大学に進み、そのままそこで就職する。医者や、看護師、エンジニアたちも国家の将来に不安を抱き、ドイツやオーストリア、スロヴェニア等に流出しているという。

抜本的な教育改革が「喫緊の課題」として叫ばれていた。

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