- 日本を含む先進各国は貧困国でのワクチン普及に向けた支援を強化している
- その念頭にあるのはワクチン外交を進める中国への対抗である
- そこにはWHOを中国から「とり戻す」ことも含まれる
多くの国でコロナをきっかけに経済が停滞し、さらに国民へのワクチン接種が行き届いていないが、それでも日本をはじめとする先進国は途上国にワクチンを提供するため巨額の資金協力を約束した。その背景には、中国の「ワクチン外交」とのレースがある。
マスク争奪戦の次はワクチン争奪戦
日本を含む主要国首脳会議(G7)加盟国は2月19日、オンラインで首脳会議を行い、そのなかでコロナワクチンを世界全体に供給するための国際的枠組み(COVAX)に75億ドルを拠出することが確認された。
世界保健機関(WHO)の主導で昨年発足したCOVAXは、主に途上国へのワクチン供給を念頭に置いている。
国際NGOネットワーク「ピープルズ・ワクチン・アライアンス」によると、昨年暮れの段階で、わずか14カ国だけで世界全体でコロナワクチンの53%を買い上げていた。その一方で、100をはるかに上回るほとんどの途上国は資金不足によってワクチンを買うことが難しく、とりわけ貧困国では10人に1人しか接種できないと試算される。
「所得水準の差イコール生命の格差」という現実は以前からあったが、コロナはそれを改めて浮き彫りにしたといえる。
これに対応するため、「ワクチンの公正な配分」を目指すCOVAXのもと、各国の製薬メーカーが製造するワクチンが買い上げられ、資金の乏しい国に配分される。今回のG7の合意は、ここに資金を提供するものだ。
ワクチン・ナショナリズムへの不満
これに対しては、「日本だってコロナ対策で逼迫しているのに、しょせん外国である途上国のために援助する必要があるのか」といった批判もあり得るだろう。実際、国内そっちのけで「人道」に配慮するほど余裕のある国はない。
それにもかかわらず、先進各国が寄り集まってCOVAXへの協力を打ち出したのは外交的な理由によるといえる。
途上国とりわけ貧困国の多いアフリカでは、いくつかの国でコロナワクチンの接種が始まっているが、それでも豊かな国がワクチンをどんどん手に入れる状態に不平不満が吹き出している。常日頃、日本を含む先進国は「人道」を掲げて援助を行なってきただけに、いざという時に自国の利益を隠さない「ワクチン・ナショナリズム」は、先進国の言行不一致を際立たせている。
そのため、例えばケニアのカグウェイ保健相は今月初旬、ドイツメディアの取材に対して「先進国に医療面で頼りすぎるのは愚かなことだ」と述べている。伝統的に先進国寄りで、コロナ発生の直後には中国への警戒感を隠さなかったケニアの政府高官をして、こうした発言をさせることは、今のアフリカに渦巻く先進国への不信感を象徴する。