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「フレイルチェック」を⽇本⼈の新たな常識として定着させていく - 「賢人論。」第132回(後編)辻哲夫氏

依然として、新型コロナウイルスの感染拡大は収束の気配を見せない(2021年2月22日現在)。介護の現場では、通所介護事業所の倒産に関する報道もあり、各所で混乱が続いている。こうした危機的状況で、自粛生活を送る高齢者に対して私たちができることは何か。高齢者福祉の第一線で取り組まれてこられた、元厚労省事務次官・東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員の辻哲夫氏に意見を伺った。

取材・文/盛田栄一

フレイルを引き起こす3つの原因

みんなの介護 新型コロナウイルスの感染拡大による影響が介護現場でも多く見受けられています。また、感染を恐れた高齢者が自宅に閉じこもり、その結果、体力や身体機能が低下したり、既往症や認知症を悪化させたりするケースも少なくありません。こういった状況を受けて、コロナ禍の介護についてご意見いただけますか。

 新型コロナの影響により、多くの高齢者のフレイル(虚弱)に拍車がかかっているということについて私も大変気になっています。

私の所属する東京大学高齢社会総合研究機構の機構長の飯島勝矢先生は、ジェロントロジー(高齢社会総合研究)の優れた研究者です。その飯島先生が、柏市で約2,000人の高齢者を対象に精緻に調査した結果に注目しています。

高齢者がフレイルに陥るのは、①運動、②栄養、③社会性(人とのつながり、生活の広がり)の3つの要因があります。運動の重要性はについては常に指摘されていますが、3つの要因の中で、社会性の低下がフレイルの入り口であるということわかってきたのです。

全国67の市町村で活躍する「フレイルサポーター」

みんなの介護 社会性の低下がフレイルを引き起こす原因の発端だというのは興味深いですね。ですが、新型コロナの影響で人づきあいも難しくなっています…。どうしたらよいでしょうか。

 飯島先生は3つの要因に関連する各項目について、フレイルサポーターという地域のボランティアが協力して地域住民が自らチェックし、フレイル予防の気づき、自分事化を進める「フレイルチェック」を提唱しています。これまで全国67の市町村で実施していますが、フレイルサポーターは、コロナ禍でもひるまずにさまざまな努力をされています。

みんなの介護 どのように活躍しているのか具体的に教えていただけますか。

 同じコミュニティの高齢者とオンラインでつながり、画面を通して「コロナに負けずにフレイル予防を頑張りましょう」と高齢者を励まし、一緒に運動したりしています。オンライン接続ができない高齢者には、電話口で激励の言葉をかけているようです。地域によっては、有線放送で高齢者に呼びかけているところもあります。コミュニティ内で高齢者との人的ネットワークが構築できていて、心と心が通じ合えていれば、たとえコロナ禍にあってもかなりのことができるのです。

「フレイル」を社会に浸透させることが介護予防実現の第一歩

みんなの介護 フレイルチェックが一つの運動として、コロナ禍で形を変えていきながら実践されているのですね。とてもすばらしい試みだと思います。

 おもしろいのは、フレイルチェックを受けた高齢者の4分の1ほどの人が、「自分もフレイルサポーターをやりたい」とアンケートに答えてくれていることです。フレイルチェックの効果を実感して、ほかの人に勧めたくなるのです。

今、飯島先生が考えているのが、フレイルチェックを通して国民運動としてフレイル予防を広めること。「メタボ(メタボリックシンドローム)」という概念が社会に広く浸透したように、これからは介護予防のために「フレイル予防」という言葉を社会に広めたいですね。そして、コロナ禍でテレワークが新たな生活様式として定着したように、コロナ禍を機会に、フレイルチェックを日本人の新たな常識として定着させていければ、と思います。

人はいずれ要介護状態になる。だからこそ先手の対策が重要

みんなの介護 団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年まであと4年です。それまでに全国的な地域包括システムの構築は実現すると考えていらっしゃいますか。

 厚生労働省は2025年を一つの目安と設定していますが、私はそれからの10年間、団塊の世代が85歳を超える頃までが勝負だと考えています。85歳といえば、現在の状況では平均的には要介護の入り口にあります。おそらく、そのころには地域ごとに地域包括ケアシステム構築の成果が分かれるでしょう。

地域の日常生活圏単位でのコミュニティづくりにまで踏み込み、さまざまなネットワークづくりができた自治体は、きっと暮らしやすいまちになる。反対に、そこまで行かなかった自治体は、地域包括ケアの姿が見えないまま過ぎていくような気がします。2040年に向けて、市町村ごとに大きな格差が出ないことを願います。

フレイル予防が大切ですが、「ピンピンコロリ」というのは稀で、人はいつかは大なり小なり要介護状態になるのも事実です。だからこそ、先手先手の対策がきわめて重要。現在、世界も日本も新型コロナ対策で疲弊しきっているように見えますが、このことは、やがて襲ってくる超高齢化の大きな波の前触れだともいえます。未来から目をそらさずしっかり考えておかなければなりません。

とりわけ、これまで数十年かけてやっとたどり着いた地域包括ケア政策が実現できるかどうかです。これからの10年が勝負時といえます。私も、コロナ禍にひるまず、地域包括ケアシステムと柏プロジェクトに取り組み、知恵を絞って着実に前進していこうと考えています。

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