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【読書感想】実録ブラック仕事体験記

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実録ブラック仕事体験記 (鉄人文庫)

実録ブラック仕事体験記 (鉄人文庫)

  • 作者:裏モノJAPAN編集部
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 文庫

Kindle版もあります(2021年2月24日の時点では、Kindle Unlimitedの読み放題の対象です)

内容(「BOOK」データベースより)
本書は、いわゆるブラック企業の就職体験ルポを主に集めたものである。某ファストファッション店長から、大手飲食チェーン「餃子の『O』」、ラーメン「K」のFCオーナーまで。当事者が仕事の中身を詳細にリートする。また本書では、冷凍倉庫の作業員、バキューム清掃員、犬の殺処分担当者といった知られざる現場や、「おっさんレンタル」「並ばせ屋」などの珍しい職業も紹介。日本の下流社会の象徴がそこにある!

 いわゆる「ブラック企業」から、「報酬は良さそうなんだけれど、精神的・肉体的にキツそうな仕事」、そして、都市伝説に彩られている「本当に実在するのかどうか謎の職業」まで、さまざまな「体験記」が集められた本です。
 こういうジャンルの本では老舗ともいえる『哲人社』の本で、月刊『裏モノJAPAN』2009年12月号から2018年7月号に掲載されたルポをまとめたものなので、古いものは10年以上前ですから、現在は多少仕事の内容も変わっている可能性はあります。

 これを読んでいると、僕もよく利用している某ファストファッション企業(と思われる)の理不尽な勤務体系やサービス残業の実態、某超大手ネット通販会社の倉庫での厳しいノルマなどに絶句してしまいます。

 某ファストファッション店では、「店員が自社商品のベルトをしていない」ことについて、本部から来た人に店長が叱責され、状況を「改善」するための反省文の提出を求められるそうです。アパレルで店員が接客中は自社商品を身につける、というのは理解できるとしても、ベルトまでお客さんは見ていないと思うのですが、本人には簡単に注意するくらいで、「店長の責任」として「対策」を書かされるのです。

 某超大手ネット通販の倉庫も凄まじい。

 2階建ての倉庫は、およそ200メートル四方の正方形。野球場のホームから外野ポールがだいたい100メートルと思えば、その巨大さはわかっていただけるだろう。

(中略)

   この2階は「アウトバウンド」部門。注文を受けた商品を保管庫から集めて(これがピッキング)、梱包・発送という、商品の「アウト」作業が行われる。
「では向井さんに働いてもらうエリアに行きましょう」
 担当者のあとについて歩く。オレの持ち場は倉庫の左半分を占める本棚エリアらしい。1つの棚が50メートルほどの長さで、それが全部で70列。

 棚には、図書館と同じように背表紙を向けた状態で本が置かれている。70万冊以上も保管してあるそうだ。
 少なく見積もっても100人以上の人間がフロアを行ったり来たりしている様は圧巻だ。今まで働いてきた工場や倉庫とは何もかもが違う。

(中略)

「ではさっそく仕事に入ってもらうのですが、ハンディには向井さんの仕事量が記録される仕組みになっています」
「は、はい」
「目標は1分間に3つの商品をピックングすることです」
 1分間に3冊? ノルマみたいなもんか。
「あと、くれぐれも走らないでくださいね。人とぶつかって事故の元になりますから。それで作業が止まるのが一番非効率なんです。Zは何より効率性を求める会社なので、肝に銘じておいてください」
 走らず、1分間で3冊。単純に20秒で1冊ピックアップの計算になるが……。

 ハンディ(持ち歩ける小型の端末)には、ピックアップする本の位置情報(どこの棚のどのあたりにあるか)が表示されるのですが、それでも、広い倉庫の膨大な在庫のなかから、1分間に3冊ピックアップするというのは、かなり無理のあるノルマだと思われます。著者の体験談では、そこそこ仕事に慣れてきても、1分間に2冊も難しそうでした。それでも、Zの社員からはネチネチと嫌味をいわれ、「改善策」を書かされるのです。

 効率!生産性!改善策!

 もちろん、それを追求することは、企業として必要なのだと思います。
 でも、上の立場の人が、現場に明らかにムチャなノルマを課したり、過剰に責任を負わせたりして、お決まりの反省文を書かせることで、「生産性」って本当に上がるのでしょうか?
 怒られたり、嫌味を言われるのがイヤだから、とりあえず結果を出そうとはするのかもしれませんが、そんな職場や仕事のやり方で、長続きする人はほとんどいないですよね。

 まあ、次から次へと人を使い潰していけば、昇給させる必要もないし、コストダウンにつながるのかもしれませんが……
 あの「安さ」は、こういう理不尽さに支えられているのか……と考えると、なんだかいたたまれなくなってきます。
 それでもやっぱり利用してしまうんですけどね、買う側にとっては「便利」だから……

 「動物愛護センター」で、犬や猫の殺処分を担当している人は、こんな体験を書いていました。

 ある日の夕方近く、センターに若い女から電話があった。
「すいません、今日の午前中、コリー犬をそちらで引き取ってもらったんですけど、もう処分ってされました?」
 対応したのは私だ。
「いえ、大丈夫です。処分予定は明日の朝なので。連れ戻されるなら明日の昼に来てください」
 いったんは処分を決心しても、やはり愛犬のことが忘れられないんだなと、この時点では思っていた。

 ところが翌日、彼女はコリーを見るなり駆け寄っていき、犬の首輪をサッとはずした後、リードを私に突き返したのである。
「この首輪、フランスで買ったアンティークだからすごく高かったんです。燃やされなくてよかったぁ」
「は? このワンちゃんどうするんです?」
「あ、もう大丈夫です。処分しておいてください」
 腹が立つどうこうよりも、薄情な主人に二度も捨てられたこの犬が不憫でならなかった。
 一番こたえるのは、生まれたばかりの子犬や子猫を大量に持ち込まれることだ。
「うちの猫、外で種つけられちゃって。こんなに飼えないし、引き取ってもらえないかしら?」
 中年女性の差し出したスーパーの袋に入っていたのは、まだ目もロクに開かないような、生まれたての子猫4匹だ。

「なんで避妊手術しないんですか。子猫には何の罪もないですよ」
「だって私、裕福じゃないんだから、そんなことにお金かけられないのよ。お願いします、ね?」
 こちら側は受け取りを拒否できないので、仕方なく保護したが、あきれ果てたことにこの女性、その後も3回、センターを訪ねてきたのだ。まったく同様の件で。

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