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原子力新増設をタブー視せず 気候変動政策議論を進めよ - 遠藤典子 (慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授)

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昨年末の寒波が再到来した年明けの日本列島は、大規模停電一歩手前の危機的状況に陥っていた。多くの発電所で需要増に応える発電量(キロワット時)を確保することが難しくなったのである。安定供給の責務を負う大手電力の送配電事業会社は、地域を跨いで相互融通を行い、小売事業会社は鉄鋼メーカーなど自家発電設備を持つ事業者から卸電力取引市場を通じて調達するなどし、異例の急場を凌いだ。

今回の電力需給逼迫の原因は、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)不足である。島国であり、パイプラインを通じて天然ガスを輸入できない日本は、天然ガスを分離、精製し、マイナス162℃に冷却して液化したLNGを、特殊な船舶で輸送し、専用の貯蔵タンクで2週間分程度、備蓄している。日本は最大のLNG輸入国であり、韓国、中国、台湾と合わせて全世界の6割強を消費する。ガス火力は最新鋭の石炭火力に比べて二酸化炭素(CO2)排出量が半分以下であることなどから、LNG需要はアジアを中心に2040年までに倍増すると予測されている。

寒波の日本に加え、韓国では石炭火力の、台湾では原子力のトラブルによって、また中国では豪州産石炭の輸入が停止したことから、LNG需要が拡大した。一方米国、豪州、マレーシア、カタール、ナイジェリアなどのLNGプラントがトラブル等によって一時停止に見舞われたことが供給減を招いた。また航路でLNGを調達するアジア勢がこぞってスポット調達に走ったために、パナマ運河が渋滞し、米国からのカーゴが立ち往生した。アジアスポット市場は商品トレーダーの格好の餌食ともなり、1月上旬から中旬にかけて、価格が4〜5倍に跳ね上がった。

東京電力福島第一原子力発電所事故(福島第一事故)直前の日本では、LNG火力、石炭火力、原子力、それ以外の電源(石油火力、水力、新エネルギー等)がそれぞれ発電量の約4分の1を担っていた。しかし、福島第一事故後に新規制基準適合審査への対応等によって原子力の停止が相次ぎ、石炭火力は原子力を代替するベースロード(低廉で安定的な出力を見込む)電源としてほぼフル稼働で運転を強いられている。その結果、LNG火力が一手に需給変動対応を担う必要が生じているのである。

図1は、原子力が4基稼働している現状(2月1日時点)と、福島第一事故前と同様に34基全てが稼働している場合を比較した発電状況のシミュレーションである。1年間(8760時間)の需要を大きい順に並べたもので、送配電事業者はデュレーションカーブと呼び、稼働状況把握や燃料調達計画に用いている。左の34基稼働ケースでは、原子力と石炭火力を中心にベースロード電源として機能しているのに対し、右の4基稼働ケースでは、石炭はもちろん、LNG火力に大きな負荷が掛かっていることがわかる。

原子力減少で、LNGへの負荷が高まっている
(出所)各社公表資料から筆者試算
(注)2021年度の全国(沖縄を除く)の想定値。原子力の稼働率は70%と想定写真を拡大

再生可能エネルギー(再エネ)の主力である太陽光や風力は、天候などによる出力変動があり、負荷調整を火力に依存している。火力、原子力、水力のようなタービンを回して発電する同期電源とは異なり慣性力がなく、たとえば落雷などのトラブルが発生すると周波数を維持できず、自ら系統を離脱してしまうため、ブラックアウトを招きかねないのである。

上流のダムに汲み上げた水を下流のダムに落とすことで発電する揚水式水力も、電力需要がピークとなる時間帯の調整弁となっているが、汲み上げには通常、夜間の残余ベースロード電源を利用する。今回の需給逼迫では、電力卸の電源開発の長崎と徳島の石炭火力がトラブルによる停止を強いられたことも加わって、揚水に回すこともできなかった。今回の需給逼迫は、直接的にはLNG不足が原因であったものの、原子力の不足が安定供給に深刻な影響を及ぼすことが明白になったと言えよう。

再エネだけでは実現できぬ
50年カーボンニュートラル

菅義偉首相は20年10月の所信表明演説において、「2050年カーボンニュートラル」を目指すとし、「省エネルギーを徹底し、再エネを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立」することを掲げた。これに呼応するように、資源エネルギー庁では、エネルギー基本計画の改定とあるべき電源構成の議論が始まった。政府が確定する将来の電源構成は、発電事業者の設備投資計画を大きく左右する重要な指標である。18年に策定された前回の基本計画では、30年に原子力を20〜22%、再エネを22〜24%、火力を約56%とした。発電中にCO2を発生させない(カーボンフリー)非化石電源(原子力+再エネ)の割合は、最大で46%となる。

カーボンニュートラルを実現するには、CO2の排出量をゼロとするか、もしくは排出されたCO2を全量リサイクルか貯留する必要がある。資源エネルギー庁は、議論の参考値として、再エネを50〜60%、水素・アンモニア発電を10%、CCUS(CO2回収、有効利用、貯留)を前提とした化石燃料と原子力を合わせて30〜40%と提示した。

たしかに、水素発電は既存のガス火力、アンモニア発電は既存の石炭火力を改修することで非化石電源を供給できることから、カーボンニュートラルのための有力な手段の一つと考えられている。しかしながら、その発電コストは、おそらく輸入に依存することになる燃料費用(水素価格、アンモニア価格)に左右され、安価で大量の調達には革新的技術の確立が必要である。CCUSも日本海側に多いとされる貯留適地と太平洋側に集中する排出源との間の長距離船舶輸送の技術など、依然として難易度の高い課題があり、社会実装には劇的なコスト削減が必要となる。いずれも官民が連携し、グローバル市場展開をも見込んで、基礎・実証研究にリソースを投入すべきだが、何分にも技術革新への依存度が高い。つまるところ、技術的に実証されたカーボンフリー発電は現状、再エネか原子力のみである。

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