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団地から考える 原武史×速水健朗

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    原武史氏、速水健朗氏

なぜ、この本を書いたか

速水 最初に、なぜ、『団地の空間政治学』を書いたかということからはじめましょうか。今回の本で、団地に関しては、『滝山コミューン一九七四』(講談社)があって、重松清さんとの対談『団地の時代』(新潮社)がありますから、これで三冊目ですね。この『団地の空間政治学』が一番、団地の通史というか、団地を主題にしているのかなと思ったんですが。

 そうですね。『レッドアローとスターハウス』(新潮社)は、鉄道が半分くらい入っています。『空間政治学』が割と純粋に団地だけをテーマにした本です。しかも、東西の大団地を五つくらい集中的にとりあげ、あと若干、高島平とか、多摩ニュータウンとか、千里ニュータウンとか、七〇年代以降につくられたような団地についても触れています。けれども、この本で主に対象としたのは五〇年代の後半から六〇年代の前半にかけて、つまり団地族という言葉に象徴されるような、一番団地の人気が高まり、人々にとって憧れの対象、高嶺の花だった時代に、東京と大阪の近郊でつくられた大団地を五つとりあげたわけです。ご紹介いただいた『滝山コミューン』というのは二〇〇七年に書いたものです。僕は東久留米市の滝山団地に小学校時代はずっといたんです。あの本はですから、今の総戸数三千二百戸くらいの団地に住んでいた自分の体験を元にして書いたものです。そういう意味では、自分の私的な体験に基づいたものでした。『空間政治学』は滝山団地についても少し触れていますが、もっと前に出来た団地について書いています。滝山団地は一九六八年から七〇年に出来ていますから、今申し上げた団地より十年くらい遅いわけです。公団初期の大団地はもっと大きくて、大体、全戸賃貸です。僕も政治学者ですから、ここでどういう政治が行われていたのか、を書いたわけです。

速水 今度の本を読んで詳細を知って驚きました。原さんは、もうすっかり団地の人ですよね。

 みんな、鉄ちゃんだと思っているから(笑)。よく言われるんですよ。駅そばばかり食べているでしょ、とか、どこのそばが美味いんですか、とか、開口一番質問される。

速水 それが最近は、駅に入っているそば屋さんに文句をつける人というイメージになってるって感じですかね(笑)? 

 それで、散々、JR東日本から睨まれているんですけれどね。

速水 この本で展開されているのは、いわゆる滝山団地よりも前の団地の初期の話ですね。

 非常に人気があって、『空間政治学』の冒頭はひばりヶ丘団地に皇太子夫妻がやってきたという話から始まっています。

速水 まさに、天皇と団地! 専門分野がかぶっている部分ですよね。

 今の天皇夫妻ですが、当時結婚して間もないまだ若かった夫妻が団地を訪れるというのはどういうことなのかというところから説き起こしているわけですよね。一九六〇年というのは、一方でもちろん六〇年安保という政治的に言えば大きな事件があった年ですが、一般には安保闘争が挫折したことで、政治的関心が後退した、池田内閣に変わって、日本は政治の季節から経済の季節に変った、と言われます。

速水 所得倍増計画ですね。

 皆、豊かになっていくことで、政治的不満が和らいで行ったんだと一般には言われているわけですが、そんなに単純ではないのではないかというのが、政治学者として『空間政治学』を書いた一つの動機です。

たしかにそういう政策は一方にあるわけですが、団地にいざ入居してみた時に、かなり高い倍率を潜り抜けて期待に胸を膨らませて入ってきたにも関らず、入居するやいなや「何だ、これは」といういろいろな問題が起こってくる。それは、単にその人一人だけの問題ではなく、入居した全員の問題になってくる。一挙に、何千人、何万人という人が入居するわけですが、その入居した全員が新参者、その土地に何の縁もゆかりも無い人が入ってきた。この問題を解決しなければいけないというときに、いわゆる「自治会」がつくられるわけです。それが、今言ったような政治、地域における政治活動というものを誘発していく。昼間はだいたい主婦の楽園になるわけです。

速水 (笑)楽園

 (笑)主婦の楽園ね。団地によって少し違いはありますが、大きな傾向として、それが、自治会活動というものを主婦たちが荷っていく大きな要因になってくる。そこに、共産党や創価学会が入ってくる、そういう大きな流れが指摘できるわけです。

速水 今、この本をどういうきっかけで書かれたのかという話を伺っているわけですが、いわゆる日本の戦後史の中だと、政治の季節といまおっしゃいましたが、大体、新左翼運動、大学生の学生運動―樺美智子さんの一九六〇年の事件があり、東大闘争があり、一九七二年のあさま山荘に流れるというのが定番として頭にすり込まれてありますよね。

 小熊英二さんのような整理ですね。

速水 『空間政治学』で取り上げられているのは、そうではない側面です。新左翼ではなく、共産党本体であり社会党であり、住民の草の根のところと接続した、まさに政治の本体の部分ですけど、意外と語られない歴史ですね。

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