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その頭の使い方は、ちょっともったいない

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(3) キーワード思考に頼っている場合

「身体がバランスをくずして、どこかに無理な力がかかっている」状態に対応するパターンが、この『キーワード思考』法である。自分がどこかで学んで、気に入っている何らかのキーワードを、解決すべき問題に無理に当てはめようとする。それは「ガラパゴス化」かもしれないし、「Win-Win」「パーパス」「アジャイル」かもしれないし、最近なら「デジタル技術」もそうだろう。

こうしたキーワードの多くは、西洋生まれで、何となくカッコいいし、使うと「頭が良く」見えるような気がする。だからつい、頼りたくなるのだろう。

問題解決は、ふつう、「気づく・発見する」フェーズと、「思いつく・発明する」のフェーズからなる。「気づく」のフェーズでは、対象となる問題を、なるべく客観的に把握しないと、原因や解決法にたどり着かない。しかし「キーワード思考」に頼る人は、どんな問題事象も強引に、慣れたラベルのついたカテゴリーに引き寄せてしまう。「あ、それはガラパゴス化だね」「オープン・イノベーションが足りないんだ」といった具合である。

また「思いつく」のフェーズでは、なるべく開放的な態度で、可能性のある選択肢をたくさん吟味し、組み合わせを探索しなければならない。しかし「キーワード思考」の人は、先回りして、教科書的な公式をあてはめ、解決策は事足れり、としがちだ。「だったらDXをすればいい」「Win-Winに持ち込むのがベストです」という調子である。

こうした習慣・態度は、わたし達の社会における受験勉強の悪影響で、生まれているのかもしれない。しかし何より、キーワードを持ち出せば、その先は考える必要がなくなり、思考がとても楽で経済的になるから、好まれるのだろう。考える行為は、脳のリソースを沢山くって、コストがかかるのだ。

でも、安上がりの解決法は、安上がりの結果しか生まないのが、この世の常である。それを避けたければ、「普通の言葉で言いかえると、具体的にどういうことかなあ」と、もう一段深掘りする習慣を、皆が身につける必要がある。

(4) 考える時間が足りない場合、考え続けることをあきらめてしまう場合

おそらくこれが、一番多いパターンではないかと思う。とにかく忙しくて、ちゃんと解決策を考える時間がない。だから手近な策に、つい頼ってしまう。あるいは、多少の時間はあっても、「もう自分には無理」とあきらめて、深く考え続けることをやめてしまうケースもある。

だが、わたし達がビジネスで直面しているほとんどの問題は、十分考えられないまま、習慣的に遂行されていることから生じる。売上が伸びない、でも今までどおり頑張って営業するしかない。納期が間に合いそうにない、だから皆が無理にでも頑張って作業するしかない。品質がプアだ、とはいえコストの安いところに任せるしかない・・

しかし、たとえ問題は複雑でも、落ち着いてちゃんと考えれば、着眼点と筋が見えてくるはずなのである。それを妨げているのは、「考える時間がない」ことだ。

わたし個人の経験からいえば、落ち着いて考えるためには、誰にも邪魔されない連続した時間が、最低でも20分、できれば45分間くらい、必要だ。そして、もう一つ、わたし達が良い結論に達するのを妨げているのは、「考えることを諦める」心理である。もう少しで向こう側の答えが得られるのに、途中で考えるのを諦めるのは、とても、もったいない頭の使い方だ。

以上の4パターンを、少しまとめよう。頭を上手に、効率よく使うためには、4つの条件が必要である。

・身体的・感情的に、「考える」ことに集中できる状態を作る

・正しい目的設定をする、つまり「問題解決」を「頭の良さの誇示」より優先する

・キーワード思考に頼って、考える行為を途中で省エネしてしまう習慣を避ける

・考える時間を作り、考えることをあきらめない

とくに、最後の条件は重要だ。わたしが15年前に書いた『時間管理術』(日経文庫)で、

 「時間管理の目的は、考える時間を確保することにある

と明記したのは、このためである。

時間管理の目的は、「スキマ時間」をいろんな用途で埋め尽くすことでも、時間に吝嗇になることではない。一見すると、「何もしていないように見える」時間をつくることにある。何もしていないように見える時間とは、すなわち「考える時間」に他ならない。机に向かって、腕を組んでいるだけの時間。あるいは天井を見上げているだけの時間。さもなければ部屋の中を、あちこち歩き回っている時間。端の人間から見て、何も生み出していない、『非生産的』な時間こそ、わたし達が最も必要としているものなのである。

そして、十分に考えることを怠ったら、多忙なのに不況、という状況は決して脱せないだろう。これだけ優れた人材と豊かな文化を持つわたし達の社会において、それが何より一番もったいないのである。

<関連エントリ>

 →「『頭がいい』ということは、本当にそんなに『良い』ことだろうか」 (2014-03-24)

 →「忙しすぎる人のための手短な処方箋」 (2015-10-14)

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