――老化ではなく新しくなっている。
鳥居 脱皮ですよ。日々脱皮してるんですよ。
――日々生まれ変わりながら、鳥居さんは今どんな気持ちで芸人をやっていますか。
鳥居 今ね、まだ折り返し地点。給水所ぐらいかな。私、フルマラソンの時に給水所で間違ってポカリを体にかけちゃって。後でベットベト、ネチャネチャしてきて。
――(笑)。
鳥居 でもそんな感じ、今。首ベットベトになりながら今生きてますね。だけどそういう枷があるからこそ楽しいんだなみたいな感じもある。私不自由じゃないと自由になれないから。なので制限がないと、それを破った時の喜びもないじゃないですか。
――「何やってもいい」って発注されるのが私も一番辛くて(笑)。お題をもらえないと何もできない。
鳥居 私もそうですよ。「鳥居さんここで自由に」みたいな台本、こんな不自由なことないよっていう。ある程度制限がないとね、人って生きづらいですよ。それを破るかどうかだからね。
生きづらさを納得して楽しめるようになりましたね
――芸人になるきっかけになった「友だちを作る」は達成されたのでしょうか。
鳥居 この間ナイツの塙さんが「俺たち友だちだよ」って言ってくれたから、そうなのかもしれない。でもお互い大人になって確認し合わないじゃないですか。私確認し合ってないからひとりもいないのかもしれない。
――確認するのちょっと怖いですよね。
鳥居 学生時代って友だちいない人は異端じゃないですか。なので異端になったらダメなんだって思い込みすぎてたんだと思います。今の私で学校にいたら、友だちが欲しいってたぶん思わないと思うので。その時はその世界が全てじゃないですか、学校が。
――芸人になって広がりましたか、世界の範囲は。
鳥居 私がやるネタは友だちが増えないネタでした。でも友だちが欲しいというのは、人に認められたい、自分が存在してるっていう証が欲しいってことじゃないですか。だけどネタで認められたら、自分の存在を認められたということだから、友だちもういらないんですよ。芸人になって、そこはまわりくどいことしなくてよくなった。
――そう考えて、生きやすくなりましたか?
鳥居 生きづらいですよ。だけど生きづらさを納得して楽しめるようになりましたね。昔はすぐ「生きづらい」「もういない方がいいんだな」「死んだ方がいいんだな」ってなってたんですけど、最近ではそれこそ原動力なことに気付いて。その反動ですっごい暗いネタが書けたりするんですよ。
ほんとに落ち込んだ時に「もうやめる、もうやめたい、死にたい」ってマネージャーさんにライン送ったら「そんなことより単独ライブどうします?」って返ってきて。
――(笑)。
鳥居 あっこういうことだなって。全てはそうだと思って。それですごい救われたことがありました。ほんと、自分だけでぐじゃぐじゃぐじゃぐじゃしてないで、それを違う風に出力できた方がいいじゃんって。だから死にたいってなった時こそパソコン開きます。あー書くかって。
――落ちた時に書いたネタは面白いですか?
鳥居 そうですね。深みがあるというか、情念がこもってる。あとあれですね、芸人やるということを親にまだ報告してなくて。
――えっ。
鳥居 「私お笑い芸人になるから」って言ってないんですよ。でも今更報告って聞きたいもんなのでしょうか。
――でも……ご両親も聞いてはこないわけですよね。芸人なのかい?って。
鳥居 そうなんですよ、聞いてこないんですよ。
姉宛の年賀状を庭に埋めた…幼少期のコンプレックス
――幸せな既読スルーがあるんですね、お互いに。
鳥居 そうね。なんか私の名前、すごく想いがあってつけたらしいんですよ。だからそれに背いちゃってないかなって思うと言いづらかった。
私、姉がいて、姉は「ちはる」っていうんですけど、親が「いや、その時松山千春にハマってたから」って言ってて愕然としてましたね。それを思い出して、なんか悪かったなと思って。
――お姉ちゃんへのコンプレックスありますか?
鳥居 うん……姉とはずっとしゃべらなかったですよ。私がほんとに暗いのに、姉はすごく社交的で明るくて、色んな友だちがいっぱいいて。年賀状もすごいきてましたし。姉にきた年賀状を庭に埋めてましたもん。
私一時期すごい太ったんですよ。すっごい太って、だけど姉はきれいなままで。もともとあったコンプレックスがそれでまたひどくなって。大人になって、私の方が稼ぐようになってやっと許せたんです。
――自分の方が勝てる何かを見つけたからですか?
鳥居 勉強は私の方ができたけど、それで相殺にはならなかったんですよね。収入だったんです、自分の中で。自分なりの相殺点を見つけることなんでしょうね。こことここでチャラ、みたいな。
モヤモヤは一回解決しないと先に進めない
――鳥居さん「生きづらい」とおっしゃるけど、人生の折り合いのつけ方はとても上手な気がします。
鳥居 ほんとですか。
――モヤモヤをちゃんと一回解決してから前に進んでいる。
鳥居 そうなんですよ、解決しないと進めないですよ。
――先に進めない(笑)。
鳥居 だから今自分の中で問題になってることや社会で気になってることを、単独ライブでいっかい解消して。じゃないと次のテーマに進めないので、だから絶対に早くやりたい。
――「男だったらよかったな」って思ったことありますか。
鳥居 男だったら? ないですね。みんな早く人間としてみるようになってほしいとは思う。
――性別ではなく。
鳥居 うん。性別で分けるのって結局、肌の色で分けるとか、国で分けるとかと一緒じゃないですか。だからいらないと思う。
みんな一回のっぺらぼうになったら心で会話できるのになって思う。でもみんなそこに絵を描くでしょう、のっぺらぼうになったら。
――そうかもしれない。
鳥居 それで個性を出すんでしょう。結局一緒なんですよ。
写真=榎本麻美/文藝春秋
(西澤 千央)