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「アップルカー」生産委託報道でざわつく自動車業界 日系メーカーの危機感と対抗策

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いよいよEVの生産体制に入るのか(米アップルのクックCEO/AFP=時事通信フォト)

 米アップルがかねてより噂されてきたEV(電気自動車)開発を進め、いよいよ量産車の生産委託を自動車メーカー各社に打診しているとの報道が飛び交っている。その中には日系メーカーの名も取り沙汰されているが、果たして“アップルカー”の参入は、既存の自動車メーカーにとって、どれほどの脅威となるのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。

【写真】米テスラの量産型EV「モデル3」

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 巨大プラットフォーマー、アップルが韓国の大手自動車メーカー、現代自動車に「アップルカー」の製造を打診──2021年の年明け早々、このビッグニュースが自動車業界を駆け巡った。

「交渉が上手くいく、いかないではない。アップルが自動車メーカーにアップルブランドのクルマの製造を実際に打診したということ自体が衝撃でした」

 報道に接した日系自動車メーカーの技術系幹部の一人は印象をこう語っていた。

まずはBEVで市場に橋頭保を築く

 アップルやグーグルといった、いわゆるプラットフォーマー企業は、世界にあまねく普及しているスマートフォンから取得される膨大なデータや、通信プラットフォームを通じたサービスの提供で膨大な利益額と驚異的な利益率を記録し続けている。

 一方で自動車は産業規模こそ大きいが、薄利多売という真逆の世界だ。そんなビジネススタンスの違いゆえに、プラットフォーマーは簡単に自動車本体には手を出さないのではないかという見方が自動車業界では一般的だった。

 プラットフォーマーがそこに乗り出してくるとすれば、無人での配車や回送を可能とするレベル5(無条件の完全自動運転)など、自動車ビジネスに本格的なゲームチェンジをもたらす技術の完成のメドがついたときで、それまでにはかなりの時間がかかる。それまでに自動車業界側が何らかの防衛策を打てば、彼らの支配に対して何とか抗うことも可能になるという読みだ。

「今回のアップルカーの話題は、それとはまったくステージが異なります。いくら先進的なものでもレベル3(運転者が責任を持つ自動運転)、良くて4(条件付き自動運転)という段階で彼らがクルマ本体に乗り出してきたのは完全にブランド戦略でしょう。

 アップルという凄まじいブランドパワーでの斬り込みを狙ったもので、プラットフォームによる支配の前に、BEV(バッテリー式電気自動車)で市場に橋頭保を築いておこうということでしょう」(前出のメーカー幹部)

自動運転という未来の収益基盤を握りたい

 アップルは自社の戦略については徹底的に秘匿主義を貫く企業だが、次世代自動車ビジネス計画は複数メディアが「プロジェクト・タイタン」という名称を報じており、その名での認知が広がっている。

 そのコアテクノロジーとして有力視されているのは、自動運転やクルマのインターネット接続を制御する次世代ソフトウェアだ。

 アップルにとって理想的なのは、自動車メーカーがアップルの規格通りにクルマを作り、どのクルマに乗ってもアップルのスマホとデータリンクさせるだけで自分好みの自動運転ドライブができるという状況を作り出すことだろう。

 それができればユーザーにとっては理想的なシステムだが、自動車メーカーはさすがにそれを易々と受け入れはしないだろう。

 まず、自動運転という未来の収益基盤の大半をアップルに握られることになりかねない。また、伝統的自動車メーカーには安全という鉄壁の信念も存在する。スマホとのデータリンクに何らかのハッキングが入ったり、スマホそのものがエラー、フリーズを起こしたりといったリスクの削減は、今後も自動車産業の求める水準に遠く及ばない状況が続くものと考えられる。

「ならば、次に考えるのは『どこかの自動車メーカーを手なずけて、アップルカーを作らせよう』ですよね。

 報道ベースでしか情報が入っていないので真偽のほどは分かりませんが、もし今の時点でアップルが本気で自動車メーカーにアップルカーの製造を打診しているとしたら、アップルのストラテジーは一歩前進したとみることができると思います。つまり、来るべき自動運転の時代に備えて、BEVと不完全な自動運転の組み合わせという段階でアップルブランドを自動車にも広げておこうというわけです」(別の日系メーカー関係者)

「ブランド力では戦う前から勝負がついている」

 だが、今のところ冒頭の現代自動車をはじめ、アップルが打診したと名が挙がったメーカーで提携に前向きという話は出てきていない。

「当然でしょう。アップルなんかに協力したら、遠くない未来にブランドそのものが呑み込まれてしまう可能性は高い。そのくらいアップルのパワーはすごい。考えてみてくださいよ。先進性、機能、信頼性が一定水準をクリアしていさえすれば、アップルのりんごマークのクルマを喜ぶユーザーは世界で数多く出てくるでしょう。

 それに対してアイフォンにりんごマークでなく自動車メーカーのマークがついていたとしたらどうですか? フェラーリみたいなプレステージブランドは別でしょうが、大衆ブランドや中途半端なプレミアムブランドだったらユーザーは見向きもしない。ブランドフォースという観点では、戦う前から勝負がついている。

 商品企画だって、テスラ車の未来感を見ればわかるように、シリコンバレー企業はデジタルネイティブならではの未来的な発想を盛り込むという点では古い概念に縛られている我々とは比べ物にならないくらい優れている。技術的には優れているが経営が思わしくないというメーカーがアップルの軍門に下ったら、自動車業界の勢力図はどうなるんでしょうね」(前出のメーカー関係者)

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