海外で日本型経営の再評価が進みつつある。イギリス在住で著述家の谷本真由美氏は「新型コロナ危機の直後、欧米の航空会社は従業員を大量解雇した。一方、JAL、ANAは従業員を解雇しなかった。欧州では『情』がある対応だと話題になった」という——。
※本稿は、谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない2 未曽有の危機の大狂乱』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
離陸する日本航空(JAL)機(上)。右下は全日本空輸(ANA)機=2020年10月18日、東京・羽田空港 - 写真=時事通信フォト
日本は「みなさんへのお願い」だけで絶望的な状態を免れた
外国人観光客の入国をそれほど制限もせず、厳しい都市封鎖を行わず、世界でもっとも高齢化が進んでいて重症化のリスクが高いのにもかかわらず、医療制度をギリギリで守ってきた日本の新型コロナ対策──。
世界有数の超高齢国家という、もっとも厳しい条件であった日本が、政府の「みなさんへのお願い」だけで絶望的な状態を免れたというのは本当に驚くべきことです。
イギリスではロックダウンして一カ月強が経った2020年5月はじめ頃から一気に死者が激増し、政府の場当たり的な対応に不満があちこちで噴出しはじめました。
高齢者や中年以上の人がよく見ている民放、ITVが毎朝放送しているニュース番組「Good Morning Britain」や、その後に放送されるワイドショーは、普段は芸能人のゴシップや料理の話題を放送することも多いのですが、この頃から政府の対策を強く非難する声が目立ちはじめました。
その一方で同時期に増えたのが、日本をはじめ韓国や台湾の新型コロナ対策を評価する番組です。
Twitterに見る日本称賛の嵐
イギリスでは、民放のチャンネル4でリポーターを務めるキアラン・ジェンキンス氏が5月11日、自身のTwitterで日本とイギリスの死者数を比較したところ、6.3万件もの「いいね!」がつき、たちまち話題となりました。
Population: 126m
COVID19 deaths: 624
Population: 66m
COVID19 deaths: 31,855
This is staggering by any estimation.— Ciaran Jenkins (@C4Ciaran) May 10, 2020
@C4Ciaran
日本の人口 1億2600万人
コロナ死:624人
イギリスの人口 6600万人
コロナ死:3万1855人
これは、どんな見積もりだったとしても驚くべき結果だ(原文はThis is staggering by any estimation.)。
日本の人口はイギリスの2倍近いのに、死者はたったの624人です。イギリスの死者数は「公式」には3万人強で、しかもこの数字は、自宅や老人ホームでの死者数を含めていません。実際には、死者は6万人を超えるといわれており、そうなると、日本の100倍以上もの数字になります。
ジェンキンス氏の“by any estimation(どんな見積もりだったとしても)”には、「統計の方法の違いや、公式発表以外の死者数を加えたとしても」という意味が含まれています。実際、日本で行われた検査数はイギリスに比べて少なかったという事実はありますが、そうした点を考慮に入れても「日本の対策には一定の効果があり、どうやらうまくいっているようだ」と、大半の人が考えていたのです。
イギリスの文化は自分、自分、自分ばかり
ちなみに、チャンネル4はイギリスでもっとも左翼色が強いテレビ局で、普段は社会的な多様性や左翼的な価値観の啓蒙に熱心です。日本については、女性差別や排外主義などを指摘することが多く、決して親日的ではありません。そのチャンネル4が日本を絶賛しているのです。私はジェンキンス氏のツイートに対して、同日こう返信しました。
I have been observing UK people for past 3 months in South London. Too many people are selfish. Street parties, no masks, no social distance. Lots people just focus on having funs. Individualism is killing people. Japanese “groupthink” is not perfect but there are good sides
— めいろま 「世界のニュースを日本人何も知らない2」12月9日発売 (@May_Roma) May 11, 2020
@May_Roma
私は日本出身です。イギリスの人々の行動を見ていれば、この結果は納得です。誰もマスクをつけていないし手洗いもうがいもしない、土足で建物の中に入る、自己チューで個人主義、トイレや公共の場は衛生状態がひどく、(医療機関には)CTスキャンやMRIが少ない。政府の対応も遅い。
すると、イギリスだけでなく、諸外国の人たちからもさまざまな意見が寄せられ、ちょっとした議論の場になりました。大半の意見が日本の習慣や対策をほめていて、イギリス政府やイギリスの人々の行動を批判するものが目立ちました。寄せられた反応から、いくつか抜粋してみます。
・日本文化はお互いのためにふるまうことを大事にする。イギリスの文化は自分、自分、自分ばかり
・日本のほうがイギリスより人口密度がはるかに高いはず。ひどい結果だ。われわれは、人々のために働こうと思っていないリーダーにひどい目に遭わされているんだよ
・日本人はリーダーのいうことを聞くけれど、イギリスの人々は通りで祭りをやって、警官と乱闘するんだよ!
・日本人は常識に耳を傾ける、集団主義的な社会、コミュニティを守ろうという意識が強い。俺、俺、俺という自己チューで未成熟な社会じゃない
・たぶん日本の人たちは“STAY AT HOME”の意味をちゃんと理解している。(われわれの)政府だけを批判することはできない。出歩くほうがいいと思う人だらけなんだよ、ロンドンやパリは!
みなさん、驚きましたか?
これは決して左翼の人々が批判する「ネトウヨ本」や、日本を絶賛しまくる右翼系のテレビの話ではありません。イギリスや他の欧州各国、ナイジェリアやポーランドなどに住んでいて、実名でTwitterをやっている一般の人たちの書き込みです。
日本は世界でもっとも高齢者人口が多いということは、新型コロナ以前から世界的に知られています。イギリスでも、ニュースやドキュメンタリー番組が高齢化問題を取り上げるときには必ず日本が事例として取り上げられます。
それだけ高齢者が多いのにもかかわらず、今回の新型コロナの死者数は桁違いに少なく、かつてのように経済も上向きではないなかで、自粛による経済打撃もかなり小さく抑えている。イギリスや欧州では日本のそんなところに驚いている人たちが多いのです。