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カリスマ講師は予備校で「トランプのポピュリズム」をどう教えているか

ジョー・バイデン大統領が誕生して1カ月。世界のリーダーとして、常にその動向や資質に注目が集まる米大統領について、代々木ゼミナールのカリスマ講師である蔭山克秀先生が解説する連載の第2回目、テーマは今改めておさらいする「トランプ的手法」とは何だったのか――。

ドナルド・トランプ

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roman Tiraspolsky

声なき声に押されて誕生したトランプ政権

2016年、大方の予想を裏切って大統領選に勝利したのは、民主党のヒラリー・クリントン候補ではなく、共和党のドナルド・トランプ候補でした。彼が掲げたスローガンは「America First(アメリカ第一主義)」、つまり国際協調よりもアメリカの国益を最優先に考えるというもので、従来のエリート主義の政治をやめ、「国民の力で」世界に分散したアメリカの富を取り戻すことを呼びかけました。

国益のために国際協調を捨て、国民が政治家から政治権力を取り戻す……ここまでくると、もはや清々しささえ感じるほどの、見事な反グローバリズムとポピュリズムの宣言です。ポピュリズムとは「大衆主義」と訳される政治のあり方で、一見すると国民の声に耳を傾ける、とても民主的な政治ですが、ネガティブな訳だと「大衆迎合主義・衆愚政治」となる、とても危険な言葉です。ちなみに私は予備校で、その特徴を「既得権やエリート主義、知識人への反発/カリスマ的なリーダーが扇動/問題を単純化し、理性よりも感情に訴える/政策が民意次第でぶれ、一貫性がなくなる」と教えています。

そしてトランプ氏は、それを実現するために、「メキシコとの国境に壁をつくる(不法移民対策)」「イスラム教徒の入国禁止(テロ対策)」「パリ協定からの離脱(地球温暖化はでっち上げだから)」「TPPからの離脱(不公平で最悪の協定だから)」「同盟国への負担増額要求(アメリカの労力に見合っていないから)」などの公約を掲げました。これらは、いずれも従来の政策から大きく逸脱するものばかりでしたが、彼はそのほとんどを、ためらうことなく実施あるいは着手しました。

こんな型破りな大統領を支持したのが「プアホワイト」です。以前も触れましたが、プアホワイトとは「貧困にあえぐ白人労働者層」で、彼らの多くはワシントンから遠く離れた「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」の工場労働者です。彼らは貧困にあえいでいるのに、マイノリティ重視の民主党の救済プログラムから取り残されてしまいました。

彼らは元来、民主党のエリートも共和党の金持ちも嫌いですが、トランプ氏は別です。なぜなら彼の示す政策は、どれもプアホワイトの目線の高さに合っているからです。結局トランプ氏は、民主党のリベラル路線から取り残された、アメリカの地方にくすぶる大量の「声なき声」に支えられて大統領になり、数々の型破りな政策を実行しました。そして、その結果、「アメリカ社会を分断させた」と言われるようになってしまったのです。

トランプ就任前から分断の火種はあった

民主党がトランプ批判でよく使うフレーズが「トランプはアメリカを分断した」です。確かにトランプ政権の発足後、アメリカ社会では随所に分断が見られました。共和党と民主党、保守とリベラル、富裕層と貧困層、プアホワイトと不法移民、アメリカと中国、アメリカとイスラム教国、アメリカと同盟国、その他、人種差別、性差別、環境問題、貿易面における他国との協調……、数え上げればキリがありません。

トランプ氏の政治手法は、アメリカ社会のほころびに火を点け、敵味方の構図をつくってtwitterとFOXニュースであおり、これまで都市部のエリート層には届かなかったアメリカの膨大な「声なき声」にガソリンを投下して、燃え上がった怒りのエネルギーを味方につけ、支持を拡大させるというものでした。そういうことを、計算ではなく直感的にできる彼は、間違いなく「天才的なポピュリスト」でした(これは皮肉ではなく本気でそう思っています)。

しかし、もしそうであるならば、アメリカ社会を分断したのはトランプ氏ではないということにもなります。なぜなら彼が火を点けて、あおったということは、裏を返せば彼が大統領に就任した2017年当時には、すでにアメリカ社会に「分断の火種」がくすぶっていたことを意味するからです。

ドナルド・トランプ

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olya_steckel

ついに国民がNOを突きつけた2020年の大統領選

実際にアメリカ分断の火種は、トランプ氏よりも、むしろ過去の民主党政権の時代に拡大してしまったものだと、私は考えています。以前、アメリカのリベラルと保守についてお話ししましたが、両者の違いは「都市部のエリートが抱く理想と、地方が引き受ける現実」という言葉で説明できる部分もあります。

たとえばマイノリティとの共生については、都市部しか知らない頭でっかちのリベラルエリートは、ついつい多様性を「理想視」して間口を広げ、彼らをどんどん受け入れたという成果だけに酔いがちです。しかし地方は、その寛大に受け入れた「現実部分」のツケを払わされ、マイノリティによる雇用の圧迫という厳しい現実にさらされます。しかも本来なら、そういう貧困層を助けるのもリベラルの役割なのに、彼らの理想主義的な視線は人種的マイノリティにばかり向いて、プアホワイト(白人貧困層)には向きません。これが、リベラルがつくり出したアメリカ社会の分断です。

そしてトランプ氏は、結果的にリベラルによって見捨てられた人々(プアホワイト)を味方につけ、分断の構図を彼らにもわかりやすい言葉で情報発信し、「リベラルから取り残された弱者」に肩入れして大統領になったのです。

しかし、そんなトランプ氏も2020年の大統領選では、大方の予想に反し、敗れてしまいました。大きな原因は「新型コロナ問題への対応のまずさ」と「アメリカ社会の分断を進めすぎた」ことにあったといわれています。

次回はアメリカ国民が、そのトランプ政権にNOを突きつけて生まれた「バイデン政権」について考えてみたいと思います。

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蔭山 克秀(かげやま・かつひで)
代々木ゼミナール公民科講師
「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。3科目のすべての授業が「代ゼミサテライン(衛星放送授業)」として全国に配信。日常生活にまで落とし込んだ解説のおもしろさで人気。『経済学の名著50冊が1冊でざっと学べる』(KADOKAWA)など著書多数。
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