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「なぜここぞとばかりに騒ぐのか」クラブハウスにみる"意識高い系"という病

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音声SNS「クラブハウス」はなぜ流行しているのか。千葉商科大学国際教養学部の常見陽平准教授は「コロナ禍で人と雑談する機会が減ったなか、音声による会話という温かみのあるコミュニケーションが人々に受け入れられたのではないか」という——。

Clubhouseは2021年1月29日現在、ドイツのApp Storeチャートで1位を獲得しており、他のアプリとは比べ物にならないほど大々的に宣伝されている - 写真=dpa/時事通信フォト

新しいSNSは概念を説明しにくい

新しいSNS「クラブハウス」が、いま何かと話題だ。音声限定、完全招待制、当面iPhone限定、テキストメッセージの送信不可、音声の録音不可、スピーカーに指定された人のみ発言可能など、何かと「制約」「限定」が多いSNSである。サーバーの負荷が増し、動作が不安定になることもよくある。多くの表記は英語で、完全日本語版になっているともいえない。セキュリティー上での不安を指摘する声や、会話の録音をNGとする規程に関する疑問の声なども散見される。

とはいえ、この約1カ月間、クラブハウスは日々、盛り上がっているかのように見える。さまざまな専門家がこのSNSについて語ってきたが、私は意識高い系ウォッチャーや働き方評論家としての視点からこの現象を読み解いてみたい。

「また、常見が構ってほしいと言わんばかりに意識高い系たたきをするのか」「若き老害というが、もう若くないのに。痛い中年だな」「意識高い系よりも、意識低い系のお前が問題だ」と思う人もいるかもしれないが、違う。くれぐれも言うが、この現象を嘲笑するわけでも、意識高い系を揶揄(やゆ)するわけでもない。ややひいた視点で、なぜ、「意識高い系」は新しいSNSに熱くなってしまうのかについて考えたい。

そもそもクラブハウスとは何だろうか? 当初は「音声版Twitter」「音声SNS」という紹介文が散見された。思えば、Twitterも日本版がリリースされ、はやり始めた当初は「簡易ブログ」「ミニブログ」などいう紹介のされ方だった。今なら首をかしげてしまう紹介文である。もっとも、言わんとしていることはよく分かる。新しいSNS(に限らずリアルなビジネスも含め、新しいサービス)は、概念を説明しにくいものなのである。

「クラブハウスにハマっている」にはさまざまな意味がある

誰かが部屋を開き、スピーカーとして指定された人が話をするという仕組み自体はシンプルだ。ただ、シンプルであるがゆえに奥が深い。使い方は無限に広がる。

セミナー、公開討論会、同窓会、飲み会、テレビやラジオの視聴パーティー、さらには合コン、なりきりパーティー、生演奏、ヒップホップのバトルなど、活用の仕方も、そこでのテーマ設定も多様だ。話題も政治・経済、メディアの未来、SDGsから、作品の感想戦、他愛もない話など多様だ。先日、お邪魔した部屋では私の友人・知人が数名で「くまモン」がいかにかわいらしいか、ひたすら語りあっていた。

イベントを企画したり、スピーカーになったりする人もいる一方で、ひたすら会話を聴き続ける人もいる。その聴き方も、家事をしながら、移動しながら、風呂に入りながら、読書やネットサーフィンなどをしながら、ベッドに横たわりながらなど多様だ。車移動の際も、スマホの操作をせずに聴きっぱなしにする前提ならBluetoothでカーオーディオに音を飛ばし、楽しむことができる。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Geber86

思えば、リモートワークが広がり、何かを聴きながら仕事をする機会がふえた。そういえばウェビナーに登壇するたびに「聴いていたよ」と声をかけられることが増えた。そうか、見るのではなく、聴くのか。そんな「ながら時代」にクラブハウスは合っている。

前提として確認しておきたいのは、「クラブハウスにハマっている」という言葉自体、意味が多様であるということだ。クラブハウスの何にどうハマっているのかを確認するべきである。自身で積極的にオンラインイベントを開催し、モデレーターや発言者になることを指すのか、そこでの刺激的な議論を観客として楽しむのか、つながりが広がることにワクワクするのか、旧友との再会を少人数で楽しむのか、ひたすらゆるく聴いているのか、楽しみ方には違いがあるのである。

クラブハウスの面白さとは何だろう?

クラブハウスが盛り上がる理由はよく分かる。導入から普及期のこの1カ月は、完全招待制ということもあり、レア感、特別感というものもある。

著名人の話を直接聴くことができるし、ひょっとすると会話をすることができるかもしれない。別に登壇者と会話ができなくても、刺激的、魅力的な座組みで、しかも旬なテーマのイベントが連発される。例えば、森首相の失言・辞任問題の際には、多数のroomが立ち上がり、男女平等に関する議論が巻き起こった。テレビに出演している著名人同士が突然、この場だけのトークを始める。気鋭のベンチャー経営者や投資家が座談会を始める。これが突発的に起こり、無料で楽しむことができるのは魅力的である。

コロナ禍で味わいにくくなった「バル的開放感」がある

各業界関係者の生の声を聴くこともできる。先日、新聞関係者がメディアのこれからについて議論するroomをのぞいていたら、突然、スピーカーになってしまった。友人・知人に声をかけたところ、業界内のディープな話がダダ漏れになっていることに興味をもっていた。

コロナ禍で会食が減っているなか、マスクをはずして思い切り話すことができる。お酒を飲みながらでも、お風呂に入りながらでもばれない(たまに、湯船のお湯がはねる音が聴こえるが)。実はこのバル的開放感に皆、飢えていたのではないか。

部屋の開示範囲を選ぶことができるので、限られたメンバーで内緒の話をすることができる。現状のTwitterは、荒野に近い。政治的スタンスの対立が起こる。趣味に関するものですらそうだ。無邪気なツイートやリツイートについて絡まれることもある(もちろん、ツイート、リツイートは友人、知人だけが見ているわけではなく、どう解釈されるかわからないことなどを理解しておくべきではある)。

タイムラインを見ているだけで気持ちが落ちることすらある。音声による会話という温かみのあるコミュニケーションで本音の議論をすることは貴重である。

既存のSNSに感じていたモヤモヤを見事に解決

Twitter上でのコミュニケーションに顕著であるが「SNSで下手なことを言えない」という萎縮の空気がないか。この件は、やや丁寧に説明しなくてはならない。何か言ったらセクハラ、パワハラと言われるのではないか、今の規範に合致していないとたたかれるのではないかという話をしているわけではない。

前提として、どの時代であれ、公共の場で何かを言う際には、ルールとマナーがあるし、その発言が誰かを傷つけないかは意識するべきである。「これくらいは当たり前だ」「昔はそういう話をしていた」という話は言い訳にならないし、容認するべきではない。

とはいえ、世の中の規範と、自身の想いはイコールではない。例えば、新型コロナウイルスショックに関して、緊急事態宣言やそれによる行動の制限や自粛について社会のルールを守っていたとしても、個人的な感情は必ずしもイコールではない。「守らざるを得ないけれど、困っている。でも人前では言えない」という意見にしろ、逆に「自分はこうあるべきだと思う。守っていない人はおかしいのではないか」という意見にしろ、人前では言いにくいが、気心知れた、価値観が合う仲間と想いを共有する場にはなる。

というわけで、クラブハウスはそのレア感、制限・限定などのルールと相まって、絶妙に今の時代とあっていた。コロナによる影響も大きいが、既存のSNSに感じていたモヤモヤを見事に解決しているとも言える。

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