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悪意で歪められた「TPP交渉参加」報道 ~批判されるべきなのは「各党の姿勢」ではなく「報道」である

「政府試算では、TPP締結は日本の国内総生産(GDP)を0.48~0.65%押し上げる。海外の研究では10兆円近い経済効果があるという試算もある」

「目に余る酷い報道」と言っても過言ではない。6日付日本経済新聞は「争点衆院選‘12」という特集で。「TPP姿勢あいまい ~ 党内に慎重論 農業票を意識」という記事を掲載。その中でこのように述べている。

たったこれだけの短い文章の中に、幾つものデタラメと悪意が籠められている。

まず、「政府試算」となっているが、TPPの経済効果の試算は、「内閣府」「農林水産省」「経済産業省」の3省が行っており、3つ存在する。「内閣府」は2010年10月と2011年10月の2回、「農林水産省」と「経済産業省」は共に2010年10月に1回、試算を発表している。

このなかで、現時点で「政府としての統一見解」とされているのは、「内閣府」が2011年10月に行った2回目の試算である。しかし、日本経済新聞がこの記事で取り上げている「TPP締結は日本の国内総生産(GDP)を0.48~0.65%押し上げる」という試算は、2010年10月に行われた第1回目の試算結果であり、厳密に言えば「政府としての統一見解」ではない。軽微なことかもしれないが、これが一つ目のデタラメ。

「内閣府」が行った2回の試算も、数値的に大きな違いがあるわけではないので、第一回目の試算を使ったとしても大きな問題があるわけではない。問題は、「概ね10 年間で実質GDP:2.4~3.2 兆円増 (0.48~0.65%増)」とされている試算結果から、「概ね10年間」という文言を削除しているところ。これが二つ目の悪意を感じるデタラメ。

「概ね10年間で」という文言を削除したことで、有権者に、さも「毎年実質GDPが2.4~3.2兆円(0.48~0.65%)」増えるかのような錯覚を与えるようになっている。

「概ね10 年間で実質GDP:2.4~3.2 兆円増 (0.48~0.65%増)」ということは、概ね500兆円である日本のGDPが、10年後に502.4~503.2兆円に増えるということ。これを年率換算の成長率に直すと、年平均で0.054~0.064%の成長である。

この記事は「アジア各国の成長エネルギーを開放し、…(中略)… この流れに日本が入らない選択肢があるだろうか。まずはアジアの成長に正面から向き合う」という大上段に構えた主張しているが、その割にはこの成長率は余りにも低い。TPP交渉参加の是非はともかく、日本の「経済効果」を交渉参加の理由とするには、コストパフォーマンスが悪過ぎる。国として負うリスクに対して得られるリターンが低過ぎる議論だと言わざるを得ない。

「海外の研究では10兆円近い経済効果があるという試算もある」という文言。これが3つ目のデタラメ。この文言は、「TPPの経済効果は低い」という反論を封じ込め、政府の試算が極めて保守的なものであるかのような印象を植え付けるために、悪意で加えられたものとしか思えない。

ちなみに、「内閣府の試算は、FTA の経済効果を試算する際に最も一般的に用いられるGTAP(Global Trade Analysis Project)モデルを使用しており、TPP 交渉参加国に対し全品目の関税撤廃を行った場合の日本経済への影響をシミュレーションしている」(「環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる動向と課題」 国立国会図書館 ISSUE BRIEF NUMBER 735(2012.2.2.) ものである。要するに「内閣府」の試算は、一般的なモデルによる試算であり、特段保守的なものではないということ。

さらに、出所も定かではない「海外の研究」などを持ち出す前に、「内閣府」以外の「農林水産省」「経済産業省」の試算結果を伝えるのが本筋のはずである。

その「農林水産省」の試算結果は「実質GDP:7.9 兆円減少(1.6%減)雇用:350 万人減少」、「経済産業省」の試算結果は「実質GDP:10.5 兆円減少(1.53%減)雇用:81.2 万人減少」というものである。こうした事実よりも「海外の研究」を優先させたのは、これを併記してしまうと、読み手に「内閣府の試算は楽観的なもの」、「TPPの経済効果は殆どない」という印象を与えてしまい、自らの「経済効果」を拠り所としたTPP交渉参加という主張の説得力が失われてしまうからなのだろう。何とも姑息なやり方である。

それぞれ試算の前提条件が少しずつ異なるので、単純な比較は出来ないが、「経済効果を理由にTPPに参加する」という論理的な根拠は乏しいということは言えそうである。

TPP交渉参加は「経済効果」だけの問題では測れない部分もあるだろうし、あくまで「試算」に過ぎないので、これを以て交渉自体を全面否定するべきものでもないかもしれない。しかし、有権者に公平な情報を提供せずに、如何にも「経済効果」があるような錯覚を与える報道をして世論を歪めるようなことは、報道機関として厳に慎むべきものである。

日本経済新聞は、「TPP 姿勢あいまい」という見出しで、「各党に共通するのは、賛否の判断基準を示していないことだ」と批判をしているが、自分が賛成の判断基準としている「経済効果」は、デタラメのオンパレード。

批判されるべきは、各党が「TPPに対する姿勢があいまい」ということよりも、日本経済新聞の「TPPに対する報道があいまい」ということである。

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