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アニメは1人でも作れるし、1人では作れない ――東浩紀『コンテンツの思想』★★★★★★★★☆☆

本書は、思想家であり最近では『思想地図』シリーズで知られる東浩紀が複数の評論家、クリエイターらとかさねた対談、鼎談を収録している。

巻末には人名索引と作品名索引があり便利だ。

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コンテンツの思想―マンガ・アニメ・ライトノベル

  • 作者: 東浩紀,伊藤 剛,神山 健治,桜坂 洋,新海 誠,新城 カズマ,夏目 房之介,西島 大介
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本
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目次

はじめに

1 セカイから、もっと遠くへ 新海誠×西島大介×東浩紀

2 アニメは「この世界」へと繋がっている 神山健治×東浩紀

3 「キャラ/キャラクター」概念の可能性 

                 伊藤剛×夏目房之助×東浩紀

4 フィクションはどこへいくのか 桜坂洋×新城カズマ×東浩紀

索引


実はこれ、5年前に出版された本なんだけれど、最近読んでぜひ紹介したいと思った対談が2本ある。


1人だからこそ作れるアニメがある

まず一本目は、冒頭の「セカイから、もっと遠くへ」。東とマンガ家の西島大介が新海に尋ねる形で展開する鼎談で、「新海誠の存在が、アニメ史的になぜすごいのか?」ということを端的に教えてくれる。

本書を読む前にぼくも新海誠の一連の作品、たとえば『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』を鑑賞したことがあった。しかしぼくには、彼の『ほしのこえ』を引っ提げての出現が、なぜこれだけインパクトがあったのかがいまいちピンとこなかった。

たしかに、一人であれほどのクオリティの高いアニメを作るのは大変なことだろう。でも、テクノロジーの発展によっておそらく近い未来には、誰かによってそれは達成されていただろうし、作品の内容の評価は横におくならば、あの作品へ反響は「一人で作った」という事実への「がんばったで賞」以上のものではなかっただろう。彼の出現があれだけ注目されたのにはそれだけではないはずで、この鼎談は新海誠の出現と、『ほしのこえ』『秒速』の内容水準での「すごさ」の解説となっている。

端的に言うとそれは、アニメによる「編集の発見」だったということだ。

今やアニメというのは一大産業であり、その製作は大所帯によって行われ作業は分業化されている。その頭には「支配者的な監督が一人」いて、すべてを統御している。つまり、途中で修正がききにくい体制なのだ。

そうした制作体制が、日本のアニメ産業の長年の蓄積にあることは間違いなく、一概に否定はできない。しかし、結果、そうした制作体制が自明になっていくなかで、ある「外部」が盲点となっていく。

その「外部」にこそいたのが、新海誠であり『ほしのこえ』だったというわけ。詳しくは本を手に取ってみてほしい。

彼の登場は「アニメは一人で作れる」――いや、「一人だからこそ作れるアニメがある」ということが知らしめたということなのである。


もはや1人でアニメは作れない

そして、今だからこそ紹介したいもう一つが、最近サイボーグ009のリメイクを発表した神山健治との対談「アニメは『この世界』へと繋がっている」。

「攻殻」のTVシリーズなどを観ていても、神山さんにはよい意味で「秀才」という印象がある。師匠筋の押井さんみたいにブッ飛ぶことなく、今まさに現実で起きている問題を作品に織り込もうとする地に足をついた真摯な姿勢に、個人的には好感を持っていた。

本書の対談でも、そういう真摯さというか、正直さというのがかいま見られる。

神山 たまに2ちゃんの書き込みとかを見てたんですけど、おもしろいことを思いつく人っていますよね。ただ、そういう人間はプロになってこない。(中略)極端な言い方をすると、いまほど消費者に対してプロのほうが頭悪く見えていることはないんじゃないかと。数人で創ったものを数万人が見るわけだから、数人がどんなに強度を高めても相対的には負けてしまう。

p.108


そんな神山さんが作っていたアニメが、ネット社会を舞台にした近未来というのはなんとも皮肉な話だが。

クリエイターが消費者への「敗北」を部分的にでこそここまで認める懐の深さには驚嘆するが、それ以上に、ここで話されている内容には、今日的な問題意識がつまっている。

現在絶賛(?)公開中のエヴァンゲリオンの新劇場版『Q』にしても、すでにネットの集合知からは無数の批評が生まれている。この「一億総ツッコミ時代」に、クリエイターという「作者=神」の特権はますます剥奪されていくだろう。神山さんの発言は、このソーシャル化著しい現代において、アニメを小数のクリエイターの頭脳だけで作ることの限界を、言い表している。



今回紹介した2本の対談には興味深い共通点がある。どちらも「反面教師」として押井守が登場していて、押井信者涙目状態だ。紹介していない残り2本も含めて、興味深い話が満載であり、読んで損はない。

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