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モーニング娘。を変えた“3年半のもがき”…高橋愛率いる「プラチナ期」が伝説と呼ばれるワケ - 田中 稲

 まずハロプロ楽曲を聴くところから1日が始まる私にとって、たまらなく楽しみにしていた映画が公開される。ハロプロファンの青春を描いた「あの頃。」!

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 ああ、私の「あの頃。」はいつなのだろう。コンビニで初聴きし、フリーズするほど感動した「サマーナイトタウン」。ASAYANでなぜか修行っぽいことさせられていた中澤裕子さんのソロデビュー「カラスの女房」が驚くほどいい曲で、買いに行ったっけ。友達に貸したアルバム「セカンドモーニング」、結局返ってこなかったけど、いいのよいいのよ。今でも愛され聴かれていますように。太陽とシスコムーンは永遠だよね……。

 などなど今でも曲を聴けば鮮明に甦るハロプロに彩られた日々。今回は、そのなかでも異質な輝きを放っていた「プラチナ期」の恋愛ソングを軸に、タイムマシンの針を合わせてみようと思う。

「シャボン玉」的なの、もっと下さい!

 なぜプラチナ期なのかといえば、私が最も繰り返し見ているMVが「泣いちゃうかも」「しょうがない夢追い人」「なんちゃって恋愛」の3曲だからである。

 ASAYANオーディション期から彼女たちの活躍を見つめていたが、どんどん人数もユニットも多くなり、嬉しい反面、戸惑いも出て来ていた。2002年あたりからハロプロ全体の急成長に「おおう楽しいけど追いつくの大変!」。モーニング娘。が2003年2月に発表した「ひょっこりひょうたん島」のカバーは、このままどこに向かうのかとドキドキもした。

 が、それでも「シャボン玉」「大阪恋の歌」「SEXY BOY ~そよ風に寄り添って~」といった好みど真ん中の名曲をポイントポイントでぶっ放してくれるので、結局舞い戻るという繰り返し。

 ちょうど2000年初期から中頃は、歌姫ブームやバンドが元気で、表現や世界観がどんどん賢く美しくなっていった時代。人生の応援歌的な楽曲が急増した反動なのか、当時の私は、昭和のアイドル歌謡のような、恋愛をして浮かれポンチになっている女の子の楽曲に飢えていた。その心を潤してくれていたのが、モー娘。や松浦亜弥をはじめとしたハロプロニューウェイブ、大塚愛といった存在だったのだ。特に、昔から好きだったモー娘。のダサカワイイ恋愛ソング、もっと来い、もっと来いと祈り続けたのである。


“プラチナ期”に当たる「モーニング娘。コンサートツアー2010秋」最終日。(手前から)亀井絵里、光井愛佳、道重さゆみ、ジュンジュン、田中れいな、新垣里沙、リンリン、高橋愛

「ここにいるぜぇ!」や「愛あらばIT'S ALL RIGHT」も好き。が、「シャボン玉」的なの、もっと下さい。「ギュッとして、抱きしめてよ!」の石川梨華のセリフに、近藤真彦「ブルージーンズメモリー」の「サヨナラなんて言えないよ、バカヤロー!」以来の鳥肌を覚えた。あのベッタベタな衝撃をもっと! もしくは「Do it! Now」の「約束の口づけを原宿でしよう」のような、アラフォーの私の心のカユイところに手が届く的固有名詞入りの陶酔ロマンスしてる歌、ください! 

2009年の“奇跡の三連発”

 そんな私の願いが届いたかのように、2009年ドカンと来たのが「泣いちゃうかも」「しょうがない夢追い人」「なんちゃって恋愛」の三連発。高橋愛率いる9人のパフォーマンスから、絡みつくような粘着性が滲み出ていて、一気に引きこまれた。女の子の面倒臭さに溢れていて最高!

 すでにファンの間では、「つんく♂はオッサンの着ぐるみを被った乙女」という共通認識があったが、改めてマジだと唸った。どうしてここまでわかっちゃうの女の子の気持ちが。

「また一人ぼっちマリコ」(「泣いちゃうかも」)。マママリコ! 濃厚な歌謡臭が鼻の奥を刺激する。この部分を担当する道重さゆみの少しばかりしゃくれた歌い方もいい!

「何も知らないあなたの洋服にアイロンしてる手に涙が落ちてゆく」(しょうがない夢追い人)。うおおアイロン! 「テレビを買い替えないといけないね」(なんちゃって恋愛)。ひいいテレビ!と、出てくるアイテム一つ一つに叫び悶えながら、私はこの3曲を繰り返し聞いた。そのたび、錆びれていた「乙女の琴線」が急にぶるんぶるんと刺激され、心の筋肉痛まで起こった。いまだに聴くと胸が痛くなる。ああ後遺症! 乙女心を忘れそうになるたび「しっかりなさい!」とムチ打ってくるスパルタ教師のようである。

なぜ「プラチナ期」は伝説になったのか?

 プラチナ期に話を戻そう。プラチナ期は2007年6月から、9期メンバーが加入する2011年1月までを指し、楽曲で言えば34th「女に幸あれ」から44th「女と男のララバイゲーム」までである。メンバーは、高橋愛・新垣里沙・田中れいな・亀井絵里・道重さゆみ・光井愛佳・ジュンジュン・リンリン・久住小春。「泣いちゃうかも」が発売されていた2009年は露出が減り、模索トンネルのど真ん中。「プラチナ期」と名付けられ伝説化したのは、メンバーが卒業してからだ。このプロセスは長いモー娘。の歴史の中でも珍しい。

 また、歌割も特徴的だった。それまでは、メンバー全員がセンターになる可能性がある「下克上システム」。だったのが、高橋愛がリーダーになってから、かなり役割分担がはっきりした。高橋・田中がメインを歌い、2番サビが新垣・亀井、シャウトに道重・久住、コーラスが光井、ジュンジュン、リンリンといったイメージ。

 歌割が極端に偏っていたので賛否両論もあったが、私は全員が役割を全うする職人的な感じが好きだった。

 特に印象に残っているのが、ほぼ前に出ること無く、ソロパートもかなり少なかった、ジュンジュン、リンリン、光井愛佳。シングルのパフォーマンスでは、端に彼女たちがいる安定感というか、「グループ」を強く理解している人が放つ独特の華があった。

 アルバムではソロ曲やユニット曲があり、モー娘。9枚目のオリジナルアルバム「プラチナ9DISC」(2009年)に収録されている光井のソロ「私の魅力に気付かない鈍感な人」は特に名曲。後列を全うした光井自身の在り方、地上波でなかなかアピールできなかったプラチナ期、さらにはグループの人数がどんどん増えていった平成アイドルたちの声を、そのまま恋心に置き換えたような、エモーショナルな一曲である。

「気まぐれプリンセス」の光井愛佳ソロバージョンは、ものすごく良かった。帽子と細い眉毛が似合い、カメラに向かってバシリバシリと鋭い眼光を決める彼女は、スタイリッシュ! 歌割関係なく魅せる心意気といおうか、光井の高いモチベーションに唸った動画の一つである。現在彼女は芸能活動をされていないようだが、個人的に大好きなルックスと佇まいだった。

アイドル全盛期での「もがきと達観」

 プラチナ期の放つ湿気と上質な重みは、時代背景も大きくリンクしている。高橋愛がリーダーに就任した2007年にYouTube日本版がサービス開始。2008年にFacebook、Twitter日本語版がサービス開始。さらにアイドル業界では、AKB48が「RIVER」で認知度を一気に高めたのが2009年。ももいろクローバーが「行くぜっ!怪盗少女」でメジャーデビューを果たしたのが2010年。

 ネットサービスの大変動、アイドルグループ大流行のWパンチにぶち当たったプラチナ期のパフォーマンスには、もがきと達観の両極端がまぜこぜに見え、だからこそ、ボディブローのようにジワジワ感動してしまうのである。

 それから約10年が経った今、「風の時代」に突入。誰もが宣伝隊長となり、SNSで好きだと思ったものを拡散しブームにできる。しかもそれを自宅で楽しめる! 特別な広告宣伝媒体に頼らずとも、カッコいいものが残る時代だ。プラチナ期はこれからも新たなファンを生み続けるだろう。

 が、だからこそ個人的に、「土の時代」の楽しみ方に未練もある。

「もっと早く知ってほしかったな」

 ライブ会場で汗をかきながらサイリウムを振り、横の人と肩をぶつけ、大声でコールをし、握手会に並び、ファミレスでファン仲間と密になり興奮を語る――。

「とりあえず家で楽しんで、いつか参戦しよう」。その「いつか」がここまで難しくなる日が来るとは思わなかった。 

 新垣里沙も自身のYouTubeチャンネル「RisanTube」の「プラチナ期の事について...みんなありがとう!」にて、穏やかな笑顔で当時をこう語っている。

「正直、もっと早く知ってほしかったな、あの頃の私たちを」。

 ああ、溢るる感情、抑えちゃならんかったのさ……。当時の私の背後にタイムマシンを止め、後頭部を張り倒したい。行きたいなら、なんだかんだモジモジせず行けよ現場に、と! 

 映画「あの頃。」は楽しみだが、鑑賞後、センチメンタル気分に陥る可能性大。羨ましさと切なさと後悔で心がパンパンになりそうだ。

 モーニング娘。'21は3月31日に、グループにとって約3年4カ月ぶりとなるニューアルバム「16th~That's J-POP~」をリリースする。とにかくまずはこれを聴き「これから。」に備えよう。早く、大声でコールできる日が来ますように。

(田中 稲)

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