※本記事は難民支援協会「活動レポート」からの転載です。
2021年2月19日、政府は「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」とする)を閣議決定した。
本法案は第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」による報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(2020年6月)を受けて作成されたもので、一部改善点はあるものの、日本に逃れた難民の保護や処遇の悪化につながる内容が多く含まれている。
20年以上にわたり難民支援を行ってきた経験から、本法案の問題点のうち、日本の難民保護に特に影響を与えると考えられる、①難民申請者の送還、②補完的保護、③仮滞在制度、④監理措置の4点について、以下の通り意見を述べる。
《要約》日本の難民認定制度には、国連などから何度も改善を求められるほど多くの課題がある。送還を促進する前に難民認定制度自体の改善が必須であるが、2014年に第6次出入国管理政策懇談会「難民認定制度に関する専門部会」が発表した「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」のうち、難民保護に資する提言の多くが実施されないまま、本法案が決定されたことを強く懸念する。
これらの指摘に応えず送還を促進すれば、難民が迫害や重大な危害を受けるおそれのある出身国に送還される可能性がさらに高まる。本法案では「補完的保護」が新たに創設されているが、国際的な保護を必要とする者を保護するという目的を果たす内容となっていない。また、収容の長期化についても、収容期間の上限や収容の要件を設け司法審査を行うといった、収容を「最後の手段」とするための措置がとられておらず、抜本的な改善は見通せない内容となっている。
1.難民申請者の送還について:難民保護の理念に反する形で、送還停止効に一定の例外を設けることは許されない
本法案では、3回以上にわたり難民申請を行っている者などを対象に、難民申請中の送還を停止する規定(送還停止効)の例外を設けているが(第61条の2の9第4項)、難民や難民申請者を送還することは、国際法上の原則(ノン・ルフールマン原則。難民条約第33条)によって禁止されており送還停止効に例外を設けるべきではない。
本来、難民と認められるべき人の多くが認定されていない日本の難民認定制度において、このような規定を設けることは、迫害を受けるおそれがある出身国に難民が送還される可能性を高めるものとして許されない。
日本の難民認定制度には、難民認定の基準が厳しいなど、国連などから何度も改善を求められるほど多くの課題がある(※1)。2014年に第6次出入国管理政策懇談会「難民認定制度に関する専門部会」が発表した「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」のうち、難民保護に資する提言の多くが実施されないまま(※2)、本法案が決定されている。2020年6月の当会の意見書で述べた通り、最優先すべきは、送還の促進ではなく、難民認定制度の改善である。
また、難民申請中であっても、新たに設けられる退去の命令(第55条の2)の対象となるとされているが、庇護を求める難民申請者に対して日本からの退去を命令することは、難民保護の要であるノン・ルフールマン原則の理念に反しており、仮に一旦その効力が停止されるとしても、難民申請者を退去の命令の対象とするべきではない。
送還停止効の例外について、本法案では「認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した者」は対象としないとしているが(第61条の2の9第4項)、その判断を行うための手続は定められておらず、不服申立てに関する規定も存在しない。
送還停止効の例外に該当する場合の本人への通知や裁判を受ける権利の保障も明文化されておらず、適正手続保障の懸念がある。
2. 補完的保護について:国際的な保護を必要とする者を保護するという目的を果たせる定義と手続きに修正すべき
本法案では、現行の「人道配慮による在留許可」に代わる制度として、「補完的保護」が新たに創設されている(第61条の2第2項、第3項)。
しかし、本法案における補完的保護の定義は非常に限定的で、難民には該当しないが国際的な保護を必要とする者を保護するという補完的保護の目的を果たせない内容となっているため、より広い定義に修正すべきである。
補完的保護の意義は、日本も締約国である拷問等禁止条約や自由権規約といった国際人権法が禁止する、拷問や非人道的な取扱いなど重大な危害を受けるおそれがある者を保護する枠組みを提供することにあり、国際社会において一般的に行われている。「難民認定制度に関する専門部会」でも、そのような枠組みを設けることが提言されていた(※3)。
しかし、本法案では、補完的保護を「難民以外の者であって、難民条約の適用を受ける難民の要件のうち迫害を受けるおそれがある理由が難民条約第1条A(2)に規定する理由であること以外の要件を満たすもの」(第2条3号の2)と非常に限定的に定義しており、国際的な規範により保護が義務付けられている者を保護することはできないことが危惧される。
また、手続きにおいて、従来の難民認定制度が抱えている問題が補完的保護にも起きると考えられる。
本法案では、審査請求において、難民審査参与員が補完的保護対象者の認定に関する意見も提出することが規定された(第61条の2の12)が、審査請求による認定は、2017年1名、2018年4名、2019年1名と低迷を続けており(※4)、口頭意見陳述の実施率が10%以下に留まるなど(※5)、制度自体の改善が求められる状況にある中、補完的保護の認定が適切に行われることは期待しがたい。
さらに、難民認定手続きと同様に、補完的保護手続きが行政手続法の適用除外となることも問題である(同法第3条10号)。難民認定制度においては、一次審査のインタビューでの代理人同席が認められない、録音・録画が行われていないなど、適正手続きの観点での課題が多く指摘されており(※6)、行政手続法の対象とすることが求められるが、補完的保護においても同様である。
加えて、難民不認定となった者に対する在留特別許可に関する規定(現行法第61条の2の2第2項)が本法案では削除されているが、現行の「人道配慮」が対象としているような当事者が適切に保護されるよう、必要な修正が行われなければならない。