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「近所で遊ぶ子どもがうるさい」とネットに書き込む人は、ただの子ども嫌いではない

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路上で遊ぶ子どもたちのいる場所を地図に書き込むサイト「道路族マップ」が話題になっている。子どもの「騒音」に悩む人たちは、なぜその情報をネットに書き込むのか。文筆家の御田寺圭氏は「子どもが大切にされすぎた結果、騒がしくても叱ることができなくなった。書き込む人たちは、子どもの存在におびえているのだ」という――。

「道路族マップ」のサイト画面より

住宅街で遊び回る子ども=「道路族」

「道路族」

――というワードを、あなたはご存じだろうか? もちろん、この場合の「道路族」とは、田中角栄や青木幹雄といった族議員のことではない。

ここでいう「道路族」とは「住宅街における路地や付近の公道において、あたかも公園や庭のごとく我が物顔で遊びまわる子ども(と、その親たち)」のことを差す。当初はあくまで局所的なネットスラングとして流通していたにすぎないワードだった。しかしSNSが(とりわけ主婦層に)普及するにつれ「悩んでいるのは自分だけだと思っていたがそうじゃなかった。自分と同じような被害を受けていた人がこんなに大勢いたのか」と多くの人が共鳴。「道路族」というワードが徐々に市民権を得て、被害に対する不満や怒りが連鎖的に拡大していった。

着々と市民権を得た「道路族」というワードは、ついに全国紙にその名称がはっきりと示されるまでになった。朝日新聞で「道路族マップ」という「道路族」の被害を受けた人びとが、その場所や内容を地図上にシェアするウェブページが取り上げられ、大きな話題となったのである。

路上で遊ぶ子どもらがいる場所や、その地点の情報を地図に書き込むサイト「道路族マップ」への賛否がネットで飛び交いました。登録された地点は増え続け、全国で約6千件に上ります。大半は「子どもの声や遊びが迷惑」という内容で、書き込まれた場所周辺の親からは不安の声も。身近な「騒音」への対応、あなたはどう考えますか。

(中略)

サイトを作成・運営するのは、ウェブ開発業の40代男性。メールでの取材に対し、「道路族問題はご近所ハラスメントだと思う。たばこのポイ捨てや立ち小便、犬のふんの放置が許されなくなったように、時代とともになくなる一助になれば」とその目的を答えた。

男性はフリーランスで、自宅での仕事を12年ほど続けているという。以前住んでいた自宅前で道路遊びが始まり、仕事ができる状態ではなくなった。「問題が解決していない場所を共有し、引っ越すときの場所選びの材料にしたい」と、サイトを開設したという。

朝日新聞『路上で遊ぶ子はハラスメント?場所まとめたマップに賛否』(2021年1月28日)より引用

「不寛容だ」vs.「被害を受けている」

こうしたページに対して、SNSでは激しい賛否が巻き起こった。「遊ぶことは法的に禁じられていない」「不寛容だ」といった批判的な声がある一方で、「引っ越しや住宅購入の際の参考になる」「迷惑な人間がいることが示されているだけだ。それのなにが悪い?」といった声も聞かれた。

また、個人情報保護やプライバシーの観点からも懸念が生じている。たしかに、具体的に個人が特定できるような情報は書かれておらず、あくまで「被害体験を共有しているにすぎない」という建前がある以上、なんらかの権利を侵害しているとはいいがたい。また、管理者も個人からの申し立てがあった場合は削除に応じるといったリスクコントロールの対応もとっているという。

「他人の子どもを注意する」ことができない現代社会

「道路族」という概念に批判的な人びとは、「子ども」という社会的弱者とその親たちを、周囲の他人がさらに追い込む不寛容な社会の象徴であるとして「道路族」というワードを非難している。子どもたちは外で遊んで当然、うるさくて当然なのだから、周囲の人間は寛容性を持て――と。

だが、残念ながらその指摘は今日においてまったく的外れであると言わざるを得ない。

昨今のネットで「道路族」というワードが台頭し、またその被害に大きな共感が集まっているのは、「子ども」が嫌いな人が幅を利かせる不寛容社会が到来しているからではなく、「子ども」という存在が持つ権力に怯えている人が増えているからこそである。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SerbBgd

「道路族」被害を受けている人びとは、「道路族マップ」の開設者も含め、だれひとりとして自らが受けている被害を自力で解決できていなかったことは特筆に値する。これはけっして偶然ではない。彼・彼女らがそうすることができなかったのは、現代社会ではもはや「他人の子どもを注意する・叱る」という行為がしばしば、深刻な権利侵害になり、ことによれば「暴行」にすら該当してしまいかねないからである。

“権力者”となってしまった「子ども」

現代社会では、ご存じのとおり、子どもに近づいて声掛けをする人がいれば、すぐに自治体の不審者情報共有サイトに掲載される。公園のベンチに見慣れないサラリーマンがいれば、母親たちがすぐさま警察に通報する。たしかに、防犯意識の高まった、子どもが安心・安全に暮らせる社会である。実際のところ、統計的にも子どもが暴力の被害者となっている事件は年々減少している。それ自体は多くの人が歓迎していることだろう。

しかしながら、そのように「子ども」という存在がきわめて丁重かつ慎重に扱われる社会において、いったいだれが路地や公道で、近隣住民の生活も顧みずにやかましく遊んでいる子どもたちに接近して叱り飛ばせるだろうか。ましてや昔のように他人の《躾がなっていない》子どもに平手打ちやゲンコツをお見舞いするなど、想像するだに恐ろしい。普通に逮捕されてしまうだろう。

現代社会において「子ども」は、ともすればその辺の大人以上に人権的な重みづけを与えられている。たとえ路地や公道で騒音を立てても、地域社会のだれも手出しできない権力者となっている。子ども一人ひとりの尊厳が守られ、安心・安全が重視されればされるほど「子ども」は「道路族」と呼ばれるようになる。もし近所に騒がしい子どもがいたとして、ゲンコツ一発で黙らせることができるなら「道路族」などという禍々しいワードは生まれなかっただろう。

「子どもの人権」を高めていくことの重要性が喧伝され、そして実際に達成されてきた社会であること――つまり子どもを「権力を持つ弱者」としてみなすこと――と、インターネットでひそひそとその被害を共有しあう「道路族」被害者の増加は、コインの表裏の現象なのである。

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