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アリも「ソーシャルディスタンシング」を知っているー太古の昔から生き残る生物たちが取ってきた戦略

「ソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)」が感染拡大を抑える上で大切なのは常識となりつつあるが、「コロナ慣れ」しがちな昨今でもある。疾病生態学の研究者ダナ・ホーリーとジュリア・バックが、動物たちが取る「ソーシャルディスタンシング」の有効性について紹介してくれた。

marian anbu juwanによるPixabayからの画像

動物の中には、同じ集団に病気にかかった個体がいればそれを検知して避ける習性がある。それは人間に近いサルだけでなく、鳥類、ロブスター、昆虫などさまざまな種類に見られる。多くの動物がこのような高度な行動を取るようになったのは、ソーシャルディスタンシングが生存の秘訣だからに他ならない。

進化の観点から見ると、感染拡大時に実質上のソーシャルディスタンシングを行った動物は、健康に生き長らえ、多くの子孫を残す可能性が高い。そしてその子孫もまた、病気の際にソーシャルディスタンシングを行うようになっている。

疾病生態学では、動物が感染を避けるときに取る行動、その重要性について幅広い研究を行っている。感染を抑えるさまざまな行動を進化させてきた動物たちの中でも、とりわけ感染リスクの高い「集団生活を行う種」がこの戦略を好んで採用、生き延びてきたことが分かる。

ソーシャルディスタンシングについて、私たちが動物から学べることはあるだろうか?
人間が今取っている行動と違いはあるのだろうか?

隔離の有効性をわきまえつつ社会性を維持する絶妙なバランス

自然界でソーシャルディスタンシングを最も愚直に実践しているのが社会性昆虫*1である。例えば、アリの多くの種類は、自分と近い種の数百〜数千匹の仲間と狭いスペースにぎっしり集まってコロニーを形成して暮らしている。人間界の高齢者施設や学生寮と同じで、ひとたび伝染病が持ち込まれると、瞬く間に感染拡大しやすい環境だ。

*1 アリ、ハチ、シロアリなど同種の個体が集団をなし、分業や個体間の協力によって生活している昆虫。

この大きなリスクに対して、アリはソーシャルディスタンシング能力を進化させてきた。アリ社会が伝染病に襲われると、病気のアリ、健康なアリの両方ともが急速に行動を変容させ、感染拡大を遅らせようとするのだ。病気のアリは自己隔離し、健康なアリは他のアリとの交わりを減らす。また、健康なアリ同士で一致団結し、コロニー内で狙われやすい存在ーー女王アリと養育係のアリーーを守ろうと、外から病原体を持ち込みそうなエサ調達係のアリたちから引き離す。感染拡大を抑えて仲間たちを生き長らえさせるには、非常に効果的な対策だ。

トビイロケアリ(左上)幼虫(左)タマゴ(中央)繭(右)Pan weterynarz/Wikipedia, CC BY-SA

アリ以外にも、距離を取るべき相手、我が身を危険にさらしてでも守るべき相手を正確に選り分けている動物は多い。例えば、マンドリル(サルの一種)は、家族が病気になった場合は世話をし続けるが、血縁関係のない個体が病気になった場合は積極的に距離を取ろうとする。自らの遺伝子を子孫に引き継げるようにするための選択だろう。

赤道アフリカの熱帯雨林に大規模集団で生活するマンドリルは、仲間内でグルーミングし合うが、親しい家族以外の仲間が病気にかかると接触を避ける。Eric Kilby/Wikipedia, CC BY-SA

病気になった際に、必要不可欠な交わりは維持しつつ、重要性の低い交わりは控える動物もいる。例えば、吸血コウモリは病気の仲間への食料提供は続けるが、グルーミング(毛繕い)はしなくなる。感染リスクを抑えながらも、大切な仲間の命を守ろうとしているのだろう。このようにソーシャルディスタンシングを加減しながら実践することで、群生生活のメリットを維持しながら、病気の代償を極力抑えてきたのだ。

カリブ海に生息するイセエビは集団生活を送っているが、仲間が致死性ウイルスに感染すると接触を避ける。Humberto Ramirez/Getty Images

家族以外をも助けようとする人間

病気に対する人間の行動にも進化の跡が見られ、われわれの祖先もまた、現在のコロナ禍のような圧力に何度もぶつかってきたことが分かる。社会性の高いアリのように高齢者ならびに基礎疾患がある人たちを感染の可能性が高い人たちから遠ざけ、サルやコウモリのように不要不急の人との接触は控えながら病気の家族の世話は続けるという、ソーシャルディスタンシングを実践している。

動物とは大きく違う点、それは自身の感染リスクが高まるにもかかわらず、友人や隣人など家族以外の人たちの世話をすることだ。医療従事者ともなると、多くの人が接触を避けたがる人たちを積極的に探し出して看護している。

人間界の特徴は、このような利他主義的な行動だけではない。他の動物はほんの小さな手がかりから仲間が病気になったと判断するが、人間には最先端の技術をもって病原体を素早く検出し、病人を隔離して治療を行える。また、病気の恐ろしさを世界中に瞬時に伝えられるため、先回りして適切な行動を取れる。これらは、人間が進化の過程で獲得してきた大きな優位性だ。

さらに、各種オンラインサービスの発展により、対面でなくとも社会的つながりを維持できるようになった。ソーシャルディスタンシングではなくフィジカルディスタンシング(物理的距離の確保)が可能で、病気の危険性をできるだけ抑えながら、集団生活のメリットも享受できている。

ある程度の混乱は、受け入れる価値がある

感染を抑える上でソーシャルディスタンシングは有効だと、自然界がはっきり示している。他のどんな対策よりも迅速に、ほぼ誰でも実施できる。ワクチンや医薬品のような開発や治験は必要ないのだから。

ただし、ソーシャルディスタンシングには、ときに耐えられないほど大きな代償を招くことがある。シママングースなど社会性の高い動物の中には、集団内に見るからに病気の仲間がいても接触を避けようとしないものもいる。仲間と距離を取ることは進化的に代償が大きすぎるのかもしれない。

コロナ禍で目にしているように、ソーシャルディスタンシングは人間社会にもさまざまなかたちで大きな代償を課している。その負担を被るのは大抵、介護やケアが必要な社会的に弱い立場にある人々だ。

大きな犠牲がありながらも、なぜ多くの動物がソーシャルディスタンシングを採用しているのか。それは結局、病気から身を守る行動は(制限があるように見えても)、社会生活を満喫するための早道だからだ。必要に応じてソーシャルディスタンシングを行うことで、人間も動物も長期的に社会生活のメリットを享受し、命にかかわる病気が発生してもその犠牲をできるだけ抑えられる。

われわれの社会を混乱させもするソーシャルディスタンシングだが、病気のまん延防止には意義がある、とアリが教えてくれている。

著者
Dana Hawley
Professor of Biological Sciences, Virginia Tech

Julia Buck
Assistant Professor of Biology, University of North Carolina Wilmington

※ 本記事は『The Conversation』掲載記事(2020年4月3日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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