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経営者が交代すれば風通しが良くなる-曙ブレーキ検査不正事件の公表

2月16日、自動車部品大手の曙ブレーキ工業は、国内工場で製造するブレーキとその部品に関して、検査データの改ざんなど約11万4000件の不正行為があったと発表しました。不正検査があった部品のうち、自動車メーカーと取り決めた基準値に達しなかったものは約5000件あったそうです(曙ブレーキ工業2021年2月16日付け「当社国内生産子会社が製造する一部製品の定期検査報告における不適切な行為について」参照)。

なお、弁護士4名で構成された特別調査委員会報告書は開示されておらず、報告書の内容が会社名で紹介されています。また、最終報告書は昨年9月に会社が受領していたのですが、発覚した不正の内容の開示が5か月後というタイミングになっています。会計不正事件は別として、神戸製鋼、日立金属と同様、最近のグローバル企業における製品偽装事件の調査報告書はそのまま開示されないケースが増えたような気がしますね(やはり弁護士秘匿特権との関係でしょうか?-たとえば拙ブログ2018年3月27日付け「報告書の全文公表と弁護士秘匿特権の放棄」参照)。

また、再発防止策の決定や顧客への検査不正の影響調査などに時間を要したとして開示が遅くなったことについて、同社社長は「安全性の問題は発生していなかったため、緊急性を判断していなかった。安全の確認を最優先し、すべて終わった時点で報告したいと考えていた」と釈明されています(2月16日日経ニュースより)。なお、この点はとても重要なポイントですが、私なりの考えを、追って別エントリーにて述べたいと思います。

ところで、曙ブレーキ工業で2001年頃から20年来続いていた検査不正がなぜ今になって発覚したのか、という点(私が最も関心を寄せる点)ですが、こちらのニュースが詳しく報じています。一部引用しますと、

同社(注-曙ブレーキ)は事業再生ADRを申請、成立して2019年10月に新しい経営体制に移行した。同年11月に品質保証部門から社長に対して、子会社の曙ブレーキ山形製造が、ブレーキパッドの一部について、顧客に提出する定期検査報告書の数値を改ざんしていたとの報告があった。これを受けて社内調査を開始したところ、一部納入先から、曙ブレーキ岩槻が製造するディスクブレーキの定期検査報告書に不審なデータが記載されているとの指摘を受けた。

上記公表文書では明らかにされていませんが、社長会見では、2018年6月時点で社内の品質保証部門からデータ改ざんなどの不正行為について旧経営陣に報告があったものの、生産手法を変えるなどの作業を進めただけで「安全性には問題なし」として不正行為を放置していたことが明らかにされています(2月16日毎日新聞朝刊記事より)。その後、日経ニュースによると、2019年11月に品質保証部門から社内通報があった、とのこと。

曙ブレーキ工業といえば、創業一族ではない方が長期にわたり経営を支配しておられたそうですが、米国事業の不振から資金繰りが悪化し、事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)の申請に至ったことはご承知のとおりです。2018年には前会長氏らが経営不振の責任を取って辞任し、上記ADRにおける金融機関からの承認が得られた2019年10月、日本電産で常務執行役員を務めた方が現社長として就任しています。

自動車ブレーキの世界的名門企業として、役職員にも安全品質には誇りがあったのでしょうね。上記公表文書にもありますが、たとえ取引先から要求されていた品質検査を省略したり、検査結果を偽造していたとしても、「社内検査が厳格なのだから安全性に支障が出ることはない」「要求されている検査は、ウチでやっている検査と重複感があるから、省略しても大丈夫」という気持ち、そして「お客様のために欠品を出さないことこそ部品メーカーの『正義』である」といった誇りが品質偽装を容認する「正当化理由」になってしまったと思います。

メーカーさんの製品偽装、検査偽装事件が明るみに出るたびに「コンプライアンス意識の欠如」が指摘されます。しかし、それは原因究明においての「思考停止」です。この規模の会社の社員の皆様は、決してコンプライアンス意識が低い、というわけではありません。たとえば曙ブレーキ工業の例でいえば「検査に重複感がある、過剰な品質を求められる、ということであれば、なぜトヨタや日産に契約変更を要請しなかったのですか?」「品質検査で問題が出たからジャストインタイムのシステムを止める、ということがなぜトヨタに言えないのですか?」---本当の理由はそこにあるのではないでしょうか。

そこが解消できないために、やがて「誇りは驕りに」「自信は過信に」と変わっていく組織風土の中で、品質保証部門の地位も失われていく、というのが本当の原因ではないかと考えます。つまり、(トヨタやホンダのようなティア1は別として)不正は簡単にはなくならない、不正と共存共栄で業務を継続していくしかない、ただし企業の存続に影響を及ぼす不正だけは回避する、ということです。

しかし上記のとおり、経営者が変わると「品質保証部門の叫び」が社内で通ることになります。現場の情報提供は、経営者の経営姿勢が変わらなければ活かされない、という典型事例ではないかと。皆様方の会社の社長さんはいかがでしょうか?

「過去に不正をやっていたが、今はもうやってないんだから調査も公表も必要ない」と考えるのか「今はやっていなくても、過去に不正をやっていたのなら、たとえ安全性に問題がないとしても公表するのがあたりまえ」と考えるのか。この問題は、(決してきれいごとではなく)取締役会で議論すべき重要な課題だと思います。

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