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刑事弁護保護策が求められる現実

 依頼者市民の話を聞くと、弁護士の得意不得意として、ます刑事・民事の区分があるという認識が一般的であることに気が付きます。選ぶ弁護士に少しでも有利な材料を見つけようとする側からすれば、オールマイティよりも、むしろより「専門」ということに目がいくことも、理解できることですが、その最初の区別がここになります。

 また、一方で、弁護士にとって、刑事弁護というものが、おカネにならず、民事弁護ほど経済的な妙味がないという認識も、一般的になっているようには思います。ただ、では刑事弁護が何によって支えられているのか、ということになると、そこはもはや多くの人の関心の外になるような感じがあります。そして、その部分の理解の仕方として、弁護士の意識的有志的なもの、例えば正義とか人権といったものを被せる見方よりも、民事弁護の経済的妙味が支える、つまり、弁護士という仕事はそもそもが儲かる仕事だから、おカネにならない仕事もできる、さらにやってもいいんだ、というところで、思考停止する見方がもともと存在し、その傾向は強くなっているように思います。

 弁護士の中で、刑事弁護の経済的な妙味をいう人は、ほとんどいませんし、多くの弁護士が民事を指向し、刑事はほとんどやらないという人が多いのは、もちろんこのこととによります。一部、刑事弁護も、私選に実は妙味ありという意見もありますが、国選との比較においてはいえたとしても、民事と比べた場合、依頼件数との関係でも疑問があります。

 ただ、国選を含めて、弁護士がそこにそれなりの妙味を見つける、つまりはこれは弁護士の経済的なハードルの問題で、それを下げれば、いいだけという見方もあり、そこを激増政策と、その先の競争・淘汰と結び付けた効用としてつなげる意見があります。要するに、弁護士が追い詰められ、採算性のハードルを下げることで、刑事弁護もカバーできるはず、とみるわけで、結果的に前記「やれる」という見解を補強する形になっています。

 ところが、現実はやはり、民事事件に弁護士が経済的活路を見つける傾向が変わるわけではありません。弁護士という仕事は依然書いたように、一般的に薄利多売的な処理を前提できない業務であり、また、事案によっては、そうした処理は依頼者市民にとってマイナスになる仕事です(「弁護士『薄利多売』化の無理と危険」)。弁護士を経済的に追い詰めることで、刑事分野がよりカバーされるということは、一部にあったとしても、前提にはとてもできない話なのです。

 むしろ、採算ベースにのらなくてもやるのではく、のるならやるという話はあります。過払い案件で成長した新興事務所が、そうした発想で、刑事(私選)に進出してきているという傾向です。労働案件でも、労働審判を中心に、そうした事務所が、既存の労働系事務所の分野に進出していますが、発想はいずれも、前記した採算性をこれまで以上に意識していますから、むしろ費用は「高い」という評判を聞きます。

 つまり、これは激増政策と競争の向こうに生まれてきた弁護士の発想転換ではありますが、期待されているような低額化のベクトルではありません。むしろ、無償性の高い分野について、前記したような有志的な意識に支えられてきたものに対し、別の発想で臨むという方向です。ここがひとつの勝負の分かれ目になるという弁護士のブロクがありました。市場がどう受け入れるのか。彼らの経済効率的前提に立つ新発想か、それとも日弁連・弁護士会が推進してきた弁護士の負担を前提とした無償性対応路線か、それとも共倒れか――( 「福岡の家電弁護士 なにわ電気商会」)。

 無償性対応路線には、弁護士会としての対応だけでなく、個々の弁護士事務所が前記意識として支えてきたものが並べられます。また、この新発想は弁護士側の事業として成り立ったとしても、この国の大衆に相当な経済的なゆとりと、意識改革がもたらされない以上、ある層が救済されても切り捨てられる層が存在することが前提です。

 つまり、ここには追い詰められた弁護士がハードルを下げればなんとかなるという選択肢は実はないということです。競争と淘汰の過程では、市場の反応によって、新発想は不採算部門そのものからの撤退・縮小を余儀なくされますし、そもそも無理を重ねている無償性対応路線は、弁護士会レベルにおいても個々の弁護士事務所においても、立ち行かなくなる。結局、どこにしわ寄せがくるのか、社会のなかのどこの部分のニーズが落っこちてしまう話なのかは、はっきりしているというべきです。

 最近の前記弁護士フログの別のエントリーでは、刑事弁護に関する学習機会が失われていることから、刑事弁護ができない弁護士が増加するということも懸念されています。そもそもの経済的な妙味と現実的な生き残りの必要性という意識傾向からの刑事弁護離れ、学習軽視傾向に加え、そうした現実的な環境変化によって、まさしく刑事弁護の弱体化が現実のものとなってきています。

 無償性に対応する経済的な基盤においても、能力的な担保においても、刑事弁護保護策が検討されなければならないところにきているように思います。

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