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終わりの見えない入場制限…これからのスポーツに求められる“3つの価値”とは 『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』より #2 - 葦原 一正

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混沌とする東京五輪運営…日本のスポーツビジネスに足りない “発想”とは? から続く

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 2020年、突如世界を襲った新型コロナウイルス。その影響はあらゆる分野へと波及した。スポーツ界も例に漏れず、各団体は未知なるウイルスへの対応が迫られ続けた1年だったといえる。問題はいまだ解決に至っておらず、ほとんどすべてのスポーツで入場制限が行われている状況だ。これからスポーツビジネスはどのような変化を求められ、社会の中でどのような立ち位置を担っていくことになるのだろうか。

 ここでは、さまざまなスポーツ団体の運営に携わり、現在は日本ハンドボール協会の代表理事を務める葦原一正氏による著書『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』(光文社)を引用。ウィズ・コロナ、アフター・コロナの時代における、日本、そして世界のスポーツビジネスの現状・展望を考える。(全2回の2回目/前編を読む)

◇◇◇

シーズン佳境での決断

 突如として出現した未知なる強敵に、スポーツはどうやって立ち向かうべきなのか。

 2020年2月26日、Bリーグは2日後の28日から3月11日にかけて開催を予定していたB1リーグ戦、B2リーグ戦の開催延期を発表した。計99試合が対象だった。新型コロナウイルス感染拡大への対策だった。

 Bリーグが延期を発表する2日前、Jリーグが3月15日までの試合延期を明らかにしている。新型コロナウイルスの感染対策に関する国の専門家委員会が、「今後1~2週間が瀬戸際」との見解を示したからだった。

 3月9日にはJリーグとNPBによる「新型コロナウイルス対策連絡会議」が立ち上げられ、NPBはその日の午後に3月20日開幕予定のプロ野球開幕を延期すると発表した。

 JリーグとNPBが協調したことは、広く支持を得た。とくにJリーグの素早い判断は、その後のスポーツ界の指針となっていった。

 この時点でのスポーツイベントの開催については、2つの判断があった。

 延期か、無観客で開催するのか、である。

 JリーグはJ1、J2が開幕節を終えたばかりで、J3はまだスタートしていなかった。延期となればスケジュールを組み直したり、販売済みのチケットの扱いを検討したりと、事務的な作業に追われる。ただ、新しいシーズンは動き出したばかりで、スケジュールにはまだ余裕がある。そのぶんだけ、延期という判断を下しやすかった。

 NPBは開幕前だった。2020年シーズンのカレンダーは1枚もめくられていないから、こちらも延期したうえで対策を練る時間を持つことができていた。


©iStock.com

 それに対してBリーグは、シーズンの佳境に差しかかっていた。

 延期に伴う最重要課題は、アリーナの確保だった。市民体育館などは文字どおり市民のための公共施設だ。平日の夜にママさんバレーを楽しむみなさんに、「Bリーグが延期になったので使わせてください」とは言えない。延期したらなかなか試合会場を見つけられない、というクラブが出てくるのは必至だった。

 全クラブがすぐにアリーナの再確保を見通せない以上、レギュラーシーズンの残り試合を消化し、B1の優勝を決めるチャンピオンシップ、B1・B2入れ替え戦などのポストシーズンの試合を終えるという選択肢を、簡単にあきらめることはできなかった。

 そこで、3月14日以降の試合を、無観客で実施することにした。

 しかし、14日に予定されていたB1の川崎ブレイブサンダースとレバンガ北海道の試合が、直前で中止された。北海道の3選手に発熱が見られたためだった。

 翌15日もB1の1試合が中止となった。会場到着時に定めている検温で、審判員の1人から37・5度の発熱が確認されたからだった。

残り試合とポストシーズンの中止を段階的に決定

 翌16日からBリーグ、選手会、各クラブで改めて議論を進めた。プレーする選手、観戦に訪れるファンの安心・安全、さらには世間の感染対策との足並みを考えると、延期でも無観客でもない決断をするしかなかった。Bリーグはレギュラーシーズンの残り試合とポストシーズンの中止を、段階的に決定していった。この当時、私は基本的にリーグではなく協会の仕事をしていたのですべての流れを把握していたわけではないが、協会から見ていても概ね致しかたない流れととらえていた。

 アメリカのMLSは、再開後のリーグ戦をフロリダ州で集中開催した。全26チームを一ヵ所に集め、移動を減らすことで感染リスクを抑えた。

 2019年のラグビーワールドカップで、台風による試合の中断があった。大会組織委員会は中止になったチケット代を払い戻ししたが、その支えとなったのが興行中止保険だった。

 Bリーグも同種の保険には加入しているが、適用範囲は自然災害などによる中止だ。新型コロナウイルスの感染拡大は、保険の適応範囲に含まれていない。中止によってリーグもクラブも大きな痛手を負うことになったが、選手は心理的不安を抱えているだろうし、それではいつものプレーはできない。プロスポーツの興行たる要件を、満たせないことになる。

分断と結束

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ意味で、中止という選択肢は許容されるものだったと思う。自分が感染しない、周りの人を感染させない、という姿勢は、貫かれていくべきものだ。

 正直に明かせば、私自身は当初「プロスポーツの興行はできる限りやったほうがいい」という意見にも揺さぶられた。自分たちが感染しない、周りの人を感染させない、という基本姿勢を否定するつもりはないが、「スポーツを観たい」という人はいたと思う。4月に入って緊急事態宣言が発令され、自粛ムードが一気に高まっていくと、「こんな時だからこそ、スポーツがあったらな」という声を聞くようになった。できる限りの感染防止対策を講じたうえで興行をしていくのも、スポーツに課せられた役割の1つではないだろうか、といった自問自答は続いた。

 そんなことを考えていた時に、Jリーグの村井満チェアマンをテレビで観た。Jリーグは6月27日にJ2、J3を無観客でスタートさせ、それを受けて29日にニュース番組に出演していた。

 村井チェアマンは「新型コロナウイルスは分断を仕掛けてくる存在ととらえていた。相手が分断を仕掛けてくるのなら、徹底的に結束しようという考えで臨んだ」と話した。

 実に的確な表現だと感じた。

「スポーツ」はこれからどうなっていくのか

 スポーツの起源を紐解くと、生活のための狩猟からはじまり、身体訓練や軍事訓練の意味合いを経てゲーム性が加味されていったと言われている。そこからエンターテインメントの1つとして発展していったが、1984年のロサンゼルスオリンピック以降はビジネスとしての価値を生み出すものととらえられてきた。

 ウィズ・コロナ、アフター・コロナの時代の、スポーツの位置づけとは?

 私は、社会をつなぐもの、と考える。社会連携のための極めて重要なツールとしてだ。

 自分の生活圏でスポーツを楽しむ、スポーツで身体を鍛える、といった世界観から、今後は社会をつなぎ合わせていくツールとしての価値を増大させていくと思う。

 不特定多数の人が集まる懇親会などで、初対面の人にどんどん話しかける日本人がどれぐらいいるだろうか。外国人に比べると少ないというのが、多くの人にとっての実感に違いない。「中締め」という習慣も、途中で退席したい人への配慮から生まれたものだ。

人と人とをつなぐツール

 ところが、ボールが1つあると異なる現象が起こる。まったくの初対面でも、言葉が通じなくても、パスを交換すれば笑顔が広がる。身振り手振りを使って、コミュニケーションをはかるようにもなる。

 観戦しているファンも同じだ。隣に座っている人が同じチームを応援していたら、誰だって悪い気はしないものだ。「きっかけさえあれば話してもいいな」と思っているはずで、試合が始まって応援に熱がこもってくると、シュートが決まった瞬間にハイタッチをしたりする。だから私は、データをうまく活用して属性の同じファンを近くに座らせたいと考えたのだ。

 人と人をつなぐツールとして、スポーツが持つポテンシャルは我々が考える以上に大きい。人と人がつながることでスタジアムやアリーナに一体感が広がり、もっと言えば世の中が豊かになっていく。

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