なぜアマゾンと楽天は便利なのか。ECコンサルタントの望月智之氏は「アマゾンと楽天は信頼性のあるレビューを表示することで、初めての買い物でも失敗しにくい仕組みが整っている。この仕組みによって消費者は“ほぼ外れない”買い物ができる」という——。
※本稿は、望月智之『買い物ゼロ秒時代の未来地図 2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

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自動化される「目的系」の買い物
ここでは、デジタル時代の買い物を「商品の探し方」という観点で考えてみよう。
私たちは、どんな商品を買っているのか。
買い物を「商品の探し方・見つけ方」から見た場合の分類は2パターンとなる。ひとつは「目的系」、そしてもうひとつは「発見系」だ。これらはデジタル化によって、今後、目的系と発見系の両極化がさらに進んでいくイメージだ(図表1)。

出所=『買い物ゼロ秒時代の未来地図 2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』
①目的系
目的系の商品とは、普段の買い物で購入する商品だ。洗剤やティッシュペーパーのような日用品から、牛乳・豆腐などの食品も、「いつものと同じ」であればこちらに含まれる。最初から買い物の目的が決まっているので、「目的系」の商品というわけだ。
こうした商品を買うのは、生活者にとって「面倒くさい」ので、店舗に行くことや決済などの買い物プロセスの自動化が進んでいる。
SNSで広がる「発見系」の買い物
②発見系
発見系の商品は、生活者がその商品を発見して初めて買う商品だ。たとえばSNSで「話題の○○を使ってみた」「仕事の便利グッズ紹介」などといった投稿から、その商品を“発見”するという買い物である。バーゲンセールなどで、特に買うものが決まっているわけでもないのに、「何かないかな?」と探すのも発見系といえる。
発見系の買い物においては、多くの商品に「コンセプト」がある。顧客に見つけてもらう必要があるからだ。魅力的なコンセプトがある商品ほど、顧客に発見されやすいといえる。
目的系と発見系、このような違いがあるが、買い物の量としてそれぞれが肩を並べているのかというと、まだそういうわけではない。
世の中のほとんどの買い物は、目的系商品の買い物に含まれる。目的系の買い物は毎日あっても、発見系の買い物はたまにある程度なのだ。ただ、発見系の買い物は、多くの人に情報が伝わって、ヒット商品につながる可能性がある。SNSの隆盛により、そういった商品が数多く誕生しているのも事実だ。
目的系は習慣化し、発見系は一度で終わる
図表2をご覧いただきたい。この図は、代表的なECサイトがそれぞれどんなポジションにいるかをざっくり示したものだ。上に行くほど発見系の買い物、下に行くほど目的系の買い物が多くなる。

出所=『買い物ゼロ秒時代の未来地図 2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉』
ここで特徴的なのは、「習慣化の度合い」を示した横軸だ。左端は1回目の買い物。2回目、3回目と同じものを買っていくほど右側に移動する。つまり習慣化する。
こうして見ると、目的系の買い物は習慣化しやすく、発見系は1回で終わってしまうことがほとんどだということがわかる。考えてみれば当然だが、たとえばSNSで職人が特別な製法でつくった味噌を見つけ、「おいしそうだ!」と思ってリンク先のECサイトで買ったとする。
商品が気に入った2回目以降は、その味噌を買う目的があって同じサイトに行くことから、発見系の商品はその時点で目的系に変わっていることにもなる。基本的には発見系商品のまま習慣化していくことはないが、今後、これまでの概念を覆して、2回目にも3回目にも発見のある商品が登場するかもしれない。
店舗に行く前からなにを買うかは決まっている
ここまでが、デジタル時代の2つの「商品の探し方」の話だ。
本書では、人や企業の具体的な動き・現象・流れを中心に解説するため、理論的な話はこのくらいにしておきたい。ただ、生活者目線でいえば、私たちの買い物のほとんどは、「買い物の仕方」と「商品の探し方」で分類することで説明がつく。
たとえば、誰かからおすすめされた本をネットで注文したのであれば、「発見系商品」を「レコメンドショッピング(他者のおすすめをもとに購入)」したことになる。雑誌を定期購読しているのであれば、「目的系商品」を「ストップウォッチショッピング(時間をかけずに済むよう定期購入や購入履歴からの再購入)」していることになる。皆さんも今日買い物したものを分類してみると、買い物という行動を客観的に知ることができるだろう。

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日用品ではあまりないかもしれないが、たまに買うものや少し高価なものを購入する場合、今や店舗で商品を買う人の大半は、事前にネット上で商品に関する情報を調べた上で購入の意思を固めている。つまり、買う(商品を受け取る)場所が店というだけで、買うかどうかの意思決定を店でしているわけではない。
皆さんも思い当たる節があるだろう。たとえば数万円するような電化製品を買う場合は、ネットで調べてから店に足を運ぶこと、あるいはネットでそのまま注文することが多くなっている。
店舗に行って実物を見てみたいと思うことはあるかもしれないが、店員の説明を受けて心変わりするようなことはほとんどない。
ある商品を深追いしているうちに、店員よりも自分のほうが詳しくなっていることだってある。特にこうした商品の場合、買うものを決めずに店舗に行き、その場で購入の決断をするという買い物は、今や主流の買い物プロセスではないのだ。
あらゆる情報には「売る側の思惑」が含まれている
それでも店舗側は、客の目を引くような販促物をつくったり、陳列を工夫したりと、来店した客を何とかして振り向かせようとしている。しかし、それはなかなかうまくいかない。買うものが決まっている客は、一直線に売り場に向かうだけだからだ。
そうなると、売る側がどれだけ広告や宣伝に投資をしても、昔ほどの効果は期待できないだろう。客によってはそんなものは雑音に過ぎない。テレビCMで人気芸能人を起用しても、生活者はイケてないものは買わない。
結局はネットのレビューや、SNSの口コミのほうが、購入する際の重要な判断材料となっているのである。
「客が店に来る前に、すでに何を買うかは決まっている」というこの考え方は、グーグルが提唱しているマーケティング理論で、ZMOT(=Zero Moment Of Truth)という。「客が店に来る」というファーストアクションの前、「ゼロ」の段階で買うものが決まっていることから、こう呼ばれている。
では、売る側にとって勝負の場はどこにあるか。
それこそが、私たちが提唱しているデジタルシェルフ(=デジタルの棚。たとえばショッピングサイトの商品一覧など)だ。デジタルシェルフの「いい場所」に商品があることが大前提で、商品に気づいてくれた生活者に対して、商品の魅力をどれだけ伝えられるか。そこで勝負が決まるといえる。
「検索したら上位に出てくる」「レビューの評価が高い」「ほかのユーザーによく買われている」「インフルエンサーが紹介している」といったそうしたデジタルシェルフ上での優位性を確保しておかないと、ZMOT時代には勝てないのだ。
これを生活者目線で考えれば、私たちが触れるあらゆる情報には、「売る側の思惑」が入り込んできているということは押さえておきたいところだ。