
森喜朗さん、オリパラ組織委員会の会長の座を退いたね。いったん居座りそうだったけど、やっぱり無理だったな。森さんの女性蔑視発言はオリンピック・パラリンピックの平等精神にそぐわない、時代遅れの考えで、それが世界に露呈しちゃったからね。とてもボヤでは消せない大火事、森の山火事だな(苦笑)
IOCも大手スポンサーも、森さんの火の粉をかぶって延焼するのはご勘弁って話で、世論に合わせて一気に批難に回ったもんな。森さんのこと老害、老害って言う声が多かったけど、その通りだよ。森さんはさ、引退して余生で小説でも書いたらいいよ。ペンネームは「森ロウガイ」。女性に対する発言でマイッちゃった話で「マイ姫」ってのはどうだい?(笑)
森さんは昭和12年生まれの83歳だから、オレのひとつ年下。まあ同世代だな。森さんとは毎年開催してる「ゆうもあ大賞」の会場で何度か会ったことあるよ。オレは1999年にこの賞を受賞して、森さんはそこで会長やら顧問やらをしてたから。
「ゆうもあ大賞」なんてしてるのもあるだろうけど、森さんって人を笑わせるのが好きなタイプなんだよ。先日の女性蔑視の失言も、JOC(日本オリンピック委員会)の会合で40分ぐらい喋ってる中で言って、その場では笑いを取ったんだろ。
思うんだけど、政治家も役人も「笑い」に対する理解がちょっと雑なんじゃないかな。笑いって、ただ笑わせればいいってもんじゃないよ。気をつけないと諸刃の剣だって、わかってないとね。
大勢を笑わせようって時に、誰も不快にせず、みんなが和む「ユーモア」で笑いが取れたら大したもんだよ。だけど、人の揚げ足を取ったり、相手をバカしたりすることで、誰かが不快になるような笑いは、時と場を見極めてないと後から自分に返ってくる。政治家や役人が安易に使っちゃダメなんだよ。
オレの場合、長年の芸風で「ジジイ、ババア」とか「くたばりぞこない」とかキツイことを言いもするけど、政治家や役人とは立場も違うし、オレの場合は1対1で面と向かって、まず、言われた相手が不快にならないか相手の顔を見て話してる。だから言われたほうが真っ先に笑ってくれるんだ。
そもそも、政治家や役人は公の場で「笑い」を取らなくていいんだよ。信念であったり政策であったりを、相手にわかりやすく伝えてくれれば充分なんだよ。そういう仕事なんだから。
今さらだけど同世代の年寄りとして、森さんが言ったことをオレならこう言うよ。「女性は話が長い。女性が多いと会議も長い。化粧も長い。トイレも長い。だけど女性のほうが人生も長い。寿命が長い。うらやましい」ってね(笑)。日本人は女性のほうが男性より6歳も平均寿命が長いからね。これならマイルドになるだろ? まあ、五輪組織委員会の会長という立場だったら口にする話でもないけどね。
そうそう、ずいぶん前に柳沢さんって厚労大臣が「女性は子どもを産む機械」って失言で辞任したことがあったよね。あれは・・・2007年だったか。あれも言い方がひどかったな。あれもオレだったら、「女性は子どもを産むキカイ(機会)・・・が多い」って言うけどな。
男中心の価値観を変えられない全員の問題
森さんの印象を言うなら、「少年」なんだよな。好きなラグビーの話になると熱くなるし、たしか童話も書いてるよ(編集部註 共著:『あひるのアレックス』 刊行:フレーベル館)。まるで昭和のガキ大将のまま年寄りになった人だよ。あとね、うちのカミさんがかつて三越に勤めてて、そういう関係から入ってくる話だと、森さんは三越でよく買い物しててデパート好きで知られてたって。
まあ、森さんのガキ大将な人柄ってのもわからなくはないけど、元総理で、五輪組織委員会の会長で、そういう公人の立場でありながら、新しい時代に向き合わず、自分の古い価値観のまま、ガキ大将のまま振る舞ってたってことなんだろうな。
森さんもオレも昭和初期に生まれて育った。日本じゅう、どの家庭も男中心が当たり前、社会全体が男中心。だって日本は卑弥呼の時代の後からは、飛鳥、奈良、平安、鎌倉、南北朝、室町、安土桃山、江戸、明治、大正、昭和・・・って、ずっと男中心なんだから。その価値観がとことん染みついてる。
でも、近代になって女性に対する不平等を見直していく長い長い歩みや苦労があって、現代は男女の枠だけに留まらずジェンダーフリーを目指しましょうって、世界じゅうで価値観の見直しが進む時代になったんだ。
なのに、森さんは日の丸を背負って世界と関わる公人でありながら、新しい世界の流れを理解してなかった。もはや、みんなが森さんの言うことを聴く時代ではなく、森さんがみんなの言うことに耳を傾ける時代だよ、ってことだ。
これは、森さんだけの問題じゃないよ。古い価値観のままでいる人全員の問題だよな。オレだって、ああ、こういう時代なんだって学びながら生きてるからね。年寄りだから古い考えのままでいい、なんて時代じゃないよ。
尊敬する聖路加国際病院の故・日野原重明先生に言われたよ。「まむしさん、年を取れば取るほど素直に柔軟性のある年寄りになることですよ」って。それが、愛される年寄りになる極意だって。年を取れば取るほど「首(こうべ)を垂れる稲穂かな」・・・なんだよ。
年を取るとさ、下の世代がやることに対して、自分の考えと少しでも違うと、つい口を出したり、こうでなきゃダメだって意見を押し付けがち。相手のやり方を否定することで自分が上に立とうっていうのは、愛されない年寄りの道まっしぐらだよ(笑)。
森さんの失言に対して、その対極にいたのが作詞家で作家のなかにし礼さんだと思ったな。礼さん、昨年暮れに82歳で亡くなられたけど、実にいい男だった。ダンディで色気があって女性に対する愛情も理解もとても深かった。年下だったけど憧れたね。オレもこういう男になれたらなって思わせる、素敵な方だったよ。
ラジオの現場で助けられた女性ディレクターの目線

男女平等って言われて久しいけど、ちょっと編集部、そういう法律が出来たのいつだった?
編集部)――はい、元は「勤労婦人福祉法」として1972年に施行され、1985年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」として改正され、これが女性差別撤廃への基本法になってます――。
そうか、そうすると男女平等を国が掲げるようになって、かれこれ40年から50年になるってことだよな。でも現実を見てみると、日本はまだまだ女性の社会進出が少ないし、女性が働きにくい社会だよな。
目標は掲げているけど現実は遅々としている。コロナになって世界各国の政府の様子を見る機会が増えたけど、日本の政府の顔ぶれは旧態依然としてオッサンばかりだよな。女性の割合がホントに少ない。
もちろん単に男女の数を合わせればいいって話ではないよ。そこにふさわしい資質が伴わないと。そのためにも、女性が働きやすく、能力を発揮しやすく、活躍しやすく、出世やポストも均等な環境にシフトしていかないといけない。そういう土壌がまだまだ足りてないんだな。
成人して社会に出る女性にとって、「働きたい」「生みたい」「育てたい」など、当たり前の希望をごく普通に支える土壌がもっと広がってほしい。その柱として育休への保護、託児所や保育園の充実は必須だよ。そうして、社会を動かす多くの仕事に女性の姿が増えていってほしいよ。
オレさ、ラジオの現場に女性ディレクターが就いた時にとても良かったのが、やはり女性ならではの目線だった。男のオレには気づかないことや、女性ならではの日常のさりげない情報が番組の幅を広げてくれたよ。だから、いかにして男女の特長を活かしあうか、男女に限らず多様な特長を活かしあうかってことなんだろうな。
前にも言ったけど、世界のコロナを考えれば、安全と安心を確保できない状態でオリンピックを開催することは愚の骨頂だと思う。東京五輪は中止すべき。その代わり、先々に日本でまた五輪を開催する際の「優先権」をIOCから得る。2024年がパリ、2028年がロサンゼルスで決まってるなら、2032年でいいよ。そうして今は、日本はコロナ対策と経済対策に専念する。それでいい。 その2032年の五輪組織委員会の会長は・・・、まあそうだな、もう80代のジジイではないだろうな。誰だろう、やっぱり小池百合子さんかな? えっ、2032年には小池さんも80歳だって!?
(取材構成:松田健次)