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政治家受領の「ヤミ献金」は不処罰、「ザル法」の“大穴”を塞ぐための方策

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平成から令和に時代が変わっても、政治家、とりわけ国会議員の「政治とカネ」の問題は後を絶たない。

「桜を見る会問題」では、安倍首相側の地元有権者を集めた前夜祭の費用補填問題で、安倍氏の公設第一秘書が政治資金規正法違反で略式命令を受けた。河井克行前法務大臣とその妻の河井案里参議院議員が、同議員の参議院議員選挙での、多額の現金買収で逮捕・起訴されたが、その多くは、広島県内の首長・地方議員等の政治家に渡されたものだった。

そして、その事件に関連して、鶏卵業界のドンと言われるアキタフーズ会長から、いわゆる農水族の国会議員が多額の現金を受領した事件が表面化、吉川貴盛元農水大臣は、大臣在職中に、大臣室等で500万円の現金を受領していた事件で在宅起訴された。

これらの「政治とカネ」をめぐる問題の多くで、「政治資金規正法違反」が、マスコミで取り上げられるが、実際に、法違反が処罰につながる例は少なく、そのことへの違和感が、国民の政治に対する不信が高めることにつながってきた。

私自身も、現職検事だった時代に、「政治とカネ」の問題に関する捜査に積極的に取り組んできた。1990年代末には、広島地検特別刑事部長として、県政界の政治家をめぐる事件の捜査に取り組んだ。2001年から2003年にかけての長崎地検次席検事時代も、公共工事をめぐる政治資金の流れに関する事件の捜査に取り組んだ。

その際、捜査の武器として政治資金規正法を積極的に活用してきた。しかし、この法律は、法律上の概念が曖昧である上に、法の性格や違反行為の要件が世の中に正しく理解されておらず、また、法による義務付けの内容と政治家の政治資金処理の実情とに大きな乖離があることなど、罰則適用に関して、様々な問題があった。そのような構造的な問題は、世の中に正しく理解されているとは到底言えない。

私自身の検察の現場での経験に基づき、「政治とカネ」問題の背景となっている政治資金規正法の構造的な問題を指摘し、抜本的な改革案を提示することとしたい。

「ザル法」の真ん中に空いた“大穴”

「政治とカネ」の重大問題が発生する度に、政治家が世の中の批判を受け、政治家や政党自身が「その場凌ぎ」的に、議員立法で改正を繰り返してきたのが政治資金規正法だ。そのため、罰則は相当重い(最大で「禁錮5年以下」)が、実際に政治家に同法の罰則を適用して処罰することは容易ではない。それが「ザル法」と言われてきた所以である。

しかし、実は、政治資金規正法は、単に「ザル法」だというだけでなく、ザルの真ん中に「大穴」が空いているというのが現実だ。

「政治とカネ」の典型例が、政治家が、業者等から直接「ヤミ献金」を受け取る事例である。それは「水戸黄門」ドラマで、悪代官が悪徳商人から、「越後屋、おぬしも悪よのう」などと言いながら「小判」の入った菓子折りを受け取るシーンを連想させるものであり、まさに政治家の腐敗の象徴である。

しかし、国会議員の政治家の場合、「ヤミ献金」を贈収賄罪に問うのは容易ではない。そこでは、国会議員の職務権限との関係が問題となる。国会議員の法律上の権限は、国会での質問・評決、国政調査権の行使等に限られている。与党議員の場合、いわゆる族議員としての「政治的権力」を背景に、各省庁や自治体等に何らかの「口利き」をすることが多いが、その場合、「ヤミ献金」のやり取りがあっても、職務権限に関連しているとは言えず、贈収賄罪の適用は困難だ。

だからこそ政治資金規正法という法律があり、政治家が業者から直接現金で受領する「ヤミ献金」こそ、政治資金規正法の罰則で重く処罰されるのが当然と思われるであろう。しかし、実際には、そういう「ヤミ献金」の殆どは、政治資金規正法の罰則の適用対象とはならない。「ザル法」と言われる政治資金規正法の真ん中に「大穴」が空いているのである。

政治資金規正法は、政治団体や政党の会計責任者等に、政治資金収支報告書への記載等の政治資金の処理・公開に関する義務を課すことを中心としている。ヤミ献金の授受が行われた場合も、その「授受」そのものが犯罪なのではない。献金を受領しながら政治資金収支報告書に記載しないこと、つまり、そのヤミ献金受領の事実を記載しない収支報告書を作成・提出する行為が不記載罪・虚偽記入罪等の犯罪とされ、処罰の対象とされているのである。

国会議員の場合、個人の資金管理団体のほかに、代表を務める政党支部があり、そのほかにも後援会など複数の政治団体があるのが一般的だ。このような政治家が、企業側から直接、現金で政治献金を受け取ったのに、領収書も渡さず、政治資金収支報告書にもまったく記載しなかったという場合に、政治資金規正法の罰則を適用するためには、どの政治団体・政党支部宛ての献金かが特定されないと、どの「政治資金収支報告書」に記載すべきなのかがわからない。

もし、その献金が政治家「個人」に宛てた「寄附」だとすれば、「公職の候補者」本人に対する寄附は政治資金規正法で禁止されているので(21条の2)、その規定に違反して寄附をした側も、寄附を受け取った政治家本人も処罰の対象となる。しかし、国会議員たる政治家の場合、資金管理団体・政党支部等の複数の「政治資金の財布」がある。その献金がそれらに宛てた寄附だとすれば、その団体や政党支部の政治資金収支報告書に記載しないことが犯罪となる。いずれにせよ、ヤミ献金を政治資金規正法違反に問うためには、その「宛先」を特定することが不可欠なのである。

しかし、政治家が直接現金で受け取る「ヤミ献金」というのは、「裏金」でやり取りされ、領収書も交わさないものだからこそ「ヤミ献金」なのであり、受け取った側が、「・・・宛の政治資金として受け取りました」と自白しない限り、「宛先」が特定できない。「ヤミ献金」というのは、それを「表」に出すことなく、裏金として使うために受け取るのであるから、政治家個人宛のお金か、どの団体宛かなどということは、通常、考えていない。結局、どれだけ多額の現金を受け取っていても、それが「ヤミ献金」である限り、政治資金規正法違反の犯罪事実が特定できず、刑事責任が問えないことになるのだ。

「金丸5億円ヤミ献金問題」での「上申書決着」

平成に入って間もない90年代初頭、検察に対する世の中の不満が爆発したのが、1992年の東京佐川急便事件だった。この事件では、東京佐川急便から多数の政治家に巨額の金が流れたことが報道され、同社の社長が特別背任罪で逮捕されたことで大規模な疑獄事件に発展するものとの期待が高まった。しかし、いくら巨額の資金が政治家に流れていても、国会議員の職務権限に関連する金銭の授受は明らかにならず、結局、政治家の贈収賄事件の摘発は全くなかった。

そして、佐川側から5億円のヤミ献金を受領したことが報道され、衆議院議員辞職に追い込まれた自民党経世会会長の金丸信氏が政治資金規正法違反に問われたが、東京地検特捜部は、その容疑に関して金丸氏に上申書を提出させ、事情聴取すらせずに罰金20万円の略式命令で決着させた。

検察庁合同庁舎前で背広姿の中年の男が、突然、「検察庁に正義はあるのか」などと叫んで、ペンキの入った小瓶を建物に投げ、検察庁の表札が黄色く染まるという事件があったが、それは多くの国民の声を代表するものだった。東京佐川急便事件における金丸氏の事件の決着は、国民から多くの批判を浴び、「検察の危機」と言われる事態にまで発展した。

しかし、政治家本人が巨額の「ヤミ献金」を受領したという金丸氏の事件も、政治資金規正法の罰則を適用して重く処罰すること自体が、もともと困難だった。

当時は、政治家本人に対する政治資金の寄附自体が禁止されているのではなく、政治家個人への寄附の量的制限が設けられているだけだった。しかも、その法定刑は「罰金20万円以下」という極めて低いものであった。しかも、そのヤミ献金が「政治家本人に対する寄附」であることを、本人が認めないと、その罰金20万円以下の罰則すら適用できない。そのような微罪で政治家を逮捕することは到底無理であり、任意で呼び出しても出頭を拒否されたら打つ手がない。そこで、弁護人と話をつけて、金丸氏本人に、自分個人への寄附であることを認める上申書を提出させて、略式命令で法定刑の上限の罰金20万円という処分に持ち込んだのであった。

検察の行ったことは何も間違ってはいなかった。政治資金収支報告書の作成の義務がない政治家本人への献金の問題について極めて軽い罰則しか定められていなかった以上、検察が当時、法律上行えることは、その程度のものでしかなかった。しかも、それを行うことについて、本人の上申書が不可欠だったのである。

金丸ヤミ献金事件の後、政治資金規正法が改正されて、「政治家本人への寄附」が禁止され、「一年以下の禁錮」の罰則の対象となった。しかし、政治家本人が直接受領したヤミ献金については、違法な個人あての献金か、あるいは団体・政党支部宛ての献金かが特定できないと、政治資金規正法違反としての犯罪事実も特定できず、適用する罰則も特定できないという、「政治資金規正法の大穴」は解消されておらず、その後も、政治家個人が「ヤミ献金」で処罰された例はない。

2009年3月、民主党小沢一郎代表の公設第一秘書が、収支報告書に記載された「表」の献金に関する政治資金規正法違反(他人名義の寄附)の容疑で東京地検特捜部に逮捕された際に、西松建設の社長が、自民党の二階俊博議員側に「ヤミ献金」をしていたこと、そのうちの一部は二階氏に直接手渡されていたという「年間500万円の裏金供与疑惑」が報じられた。しかし、刑事事件としての立件には至らなかった。

また、吉川元農水大臣の事件でも、アキタフーズ会長から、農水大臣在任中に500万円を受領したほかに、大臣在任中以外の期間にも合計1300万円の現金を受領していた事実が報じられている。これも、政治家本人が直接受領した「ヤミ献金」のはずだが、刑事事件として立件され、起訴されたのは、大臣在任中の500万円だけであり、それ以外は刑事立件すらされていない。

それは、政治家側に直接裏金による政治献金が渡った場合に、政治資金規正法違反で立件・処罰することができないという、「政治資金規正法の大穴」によるものなのである。

「ヤミ献金」が刑事事件化された事例

一方、ヤミ献金が刑事事件として立件され処罰された事例がある。

その初の事例となったのが、私が長崎地検次席検事として捜査を指揮した2003年の「自民党長崎県連事件」(拙著【検察の正義】(ちくま新書)「最終章 長崎の奇跡」)である。

この事件では、自民党長崎県連の幹事長と事務局長が、ゼネコン各社から、県の公共工事の受注額に応じた金額の寄附を受け取っていた。そして、幹事長の判断で、一部の寄附については、領収書を交付して「表の献金」として収支報告書に記載して処理し、一部は「裏の献金」として、領収書を交付せず、政治資金収支報告書にも記載しなかった(この「裏の献金」が、幹事長が自由に使える「裏金」に回されていた)。

この事件では、正規に処理される「表の献金」と同じような形態で「裏の献金」が授受されていたので、「自民党長崎県連宛の寄附」として収支報告書に記載すべき寄附であるのに、その記載をしなかったことの立証が容易だった。「ヤミ献金」事件を、初めて政治資金収支報告書の虚偽記入罪(裏献金分、収入が過少記載されていた事実)で正式起訴することが可能だったのである。

2004年7月には、日本歯科医師会から平成研究会(橋本派)に対する1億円の政治献金に対して、橋本派側が幹部会で領収書を出さず収支報告書に記載しないことを決めた事実について、政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記入)の罰則を適用され、村岡兼造元官房長官と平成研の事務局長が起訴された。この事件も、平成研という政治団体に対する寄附であることが外形上明白で、それについて領収書を交付するかどうかが検討された末に、領収書を交付しないで「裏の献金」で処理することが決定されたからこそ、政治資金規正法違反の罰則適用が可能だったのである。

これらのように、「ヤミ献金」が政治資金規正法違反に問い得る事例というのは稀であり、政治家本人が直接現金を受け取るような事例には、政治資金規正法の罰則は全く歯が立たないという深刻な現実を理解する必要がある。

政治資金の逐次処理の実効性に関する問題

もう一つの問題は、政治資金についての収入・支出の透明化に関して、政治資金規正法上は、「会計帳簿の作成・備付け」と「7日以内の明細書の作成・提出」が義務付けられ、政治資金処理の迅速性が求められているが、ルールが形骸化しているということである。

政治資金規正法は、政治団体・政党等の会計責任者等に、各年分の政治資金収支報告書の作成・提出を義務付けているが、それに関して、収支報告書とほぼ同一の記載事項について、会計帳簿の作成・備付けを会計責任者等に義務付けるとともに、「政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために寄附を受け、又は支出をした者」に対して、会計責任者への明細書の提出を義務付けている。

つまり、会計責任者は年に1回、政治資金収支報告書を作成・提出するだけでなく、その記載の根拠となる会計帳簿を、政治団体・政党等の事務所に常時備え付けている。これは、記載事項となる政治資金の収支が発生する都度、会計帳簿に記載することを前提としている。そして、会計責任者が知らないところで収支が発生することがないよう、政治団体の代表者等が、寄附を受けたり、支出をしたりした場合に、7日以内に明細書を作成して会計責任者に提出することを義務付けていて、会計責任者等が、その明細書に基づいて会計帳簿への記載をすることができるようにしている。

これは、政治資金の収支を発生の都度、逐次処理することを求める規定なのであるが、実際には、このような明細書の作成・提出の期限に関するルールは形骸化し、会計帳簿の記載、明細書の作成は、収支報告書の作成の時期にまとめて行われているようである。

逐次・迅速に収支を把握して処理する政治資金規正法のルールは、その記録化についてのルールがないために、収支報告書の作成・提出と併せてまとめて会計帳簿、明細書の処理をしても、提出する収支報告書上は証拠が残らず、明細書の提出義務違反等で処罰されることもない。それが、逐次・迅速処理のルールの形骸化につながっているのである。

安倍事務所における政治資金と個人資金の混同

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