バイデン米大統領は去る10日、主要国では最後となる習近平中国国家主席と2時間に及ぶ電話首脳会談を行った。そこから浮かび上がった対中戦略はトランプ前政権とは好対照をなしている。

バイデン新政権の対中アプローチについては、わが国はじめ内外の事前予想では、オバマ元民主党政権時代の経緯を引き合いに、融和姿勢により中国の対外攻勢を加速させかねないとの見方が支配的だった。
だが、大統領選当選後および正式就任後の発言、そして今回の首脳会談を見る限り、こうした半可通の指摘はどうやら的外れに終わったようだ。
実際にフタを開けてみると、トランプ前大統領が就任直後にフロリダの自分のゴルフ・リゾートに招いて行った米中首脳会談で「偉大な指導者」と同主席に秋波を送り、その後も、中国の人権抑圧、不公正な貿易慣行、南シナ海への軍事進出などにはさしたる関心を示さなかったのとは似てもつかない厳しいトーンが目立つ。
まだ詳細な詰めにまでは至っていないものの、現段階で浮かび上がってきたバイデン対中戦略の骨格は以下のようなものだ:
一貫性ある長期戦略
中国を「最も深刻な競争相手 most serious competitor」と明確に位置付け、前政権のような付け焼き刃的な対処ではなく、長期的な視点に立ち、2035年にもアメリカを追い越し世界第1位のGDP大国となると予想される中国と真剣に立ち向かうことの重要性を強調。
そのために、外交のみならず国内的にも、道路、河川、港湾、空港、学校、公立病院など老朽化したインフラへの大規模投資に乗り出すほか、国内的分断要因の除去と結束により、アメリカン・パワーの強化をめざす。
この点に関し、ホワイトハウス高官はバイデンー習会談に先立つ事前ブリーフィングで、「トランプは過去4年の執政でアメリカの力の源泉を枯渇させ、政治システムと経済を不安定化させることで弱い立場に追い込み、中国を優位に立たせた」と厳しく批判、人種問題の克服、貧困対策などによって国内的力の回復が長期的に見て対中競争に打ち勝つ上でも重要との見方を示している。
これは明らかに、派手な首脳会談と大統領選再選目当ての保護貿易主義を前面に押し出す一方、内政面では社会分断を煽り立てたトランプ政権の対中アプローチと一線を画している。
また、バイデン政権は、トランプ時代の首尾一貫性を欠く〝気まぐれ外交〟が対中交渉における自国の立場を弱体化させたとして、総合的判断と予測性の高い政策を推進することで優位性を確保するとしている。
同盟諸国との共同対処
対中競争を勝ち抜くためにはまず第一に、アメリカ単独ではなく、同盟・友好諸国と一体化したアプローチが不可欠との判断を前面に押し出した。
そこでバイデン氏はより具体的にこの姿勢を内外に印象付けるため、就任直後から、隣国のカナダ、メキシコの両国に続き、英仏独、そして日本、オーストラリア、韓国、インドのアジア主要国首脳の順で相次いで電話による首脳会談を行い、自由主義諸国の結束の重要性を強調した。
この一体性を再確認した上で、就任式から3週間遅れで主要国の中では最後となる中国の習近平主席との会談に臨んだが、これは周到な打算に基づくものであり、周囲にアメリカ同様の同盟諸国を持たない中国側からみれば、それだけハンディキャップを背負うことになる。
この点に関連し、ホワイトハウス高官はとくに、中国を包囲するアジア同盟・友好諸国との連携の重要性に言及「日本、韓国、オーストラリアなどのアジア諸国は、中国が挑発的対外攻勢を強めている現状にかんがみ、一致してアメリカにより思い切った地域協力を進めることを期待している。大統領が就任後ただちにこれらの諸国首脳と電話会談したことはその先駆けにほかならない」と説明している。
また、日本との関係では、菅首相が大統領選直後の昨年11月12日、バイデン次期大統領と電話会談を行った際、バイデン氏は近年の南シナ海における中国の軍事プレゼンス拡大を念頭に置き「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携の重要性に触れた上で、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットすることを明確にした。
さらにこれに続く先月28日の両首脳電話会談の場でも、バイデン大統領は「尖閣諸島がアメリカによる防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象である」と改めて明言した。
これとは対照的にトランプ大統領は在任中、この日米安保第5条適用については一度も自ら触れたことはなかったばかりか、安倍首相との首脳会談では、在日米軍駐留費について日本側にこれまで以上の4倍もの負担を求めるなど、かえって同盟関係にも亀裂を生じさせる結果を招いた。