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笹子トンネル天井板崩落事故に思う 日本の国力低下の象徴

2012年12月2日に発生した中央自動車道の笹子トンネル天井板崩落事故は非常にショッキングな事故でした。
このような事故は人災なのですが、安全に対するコストを削減し続けた結果です。しかも、これが中央自動車道という幹線道路で起きたことも象徴的です。

かつて、北海道でも1996年2月に豊浜トンネル崩落事故がありました。幹線とはいえない道路が見捨てられていた感がありましたが、中央自動車道までもが事故の危険があるということになると、多くの人にとって事故が間近にあったということでもあり、誰もが遭遇する可能性があるということを示しましたのが、今回の笹子トンネル天井板崩落事故です。

経済成長に伴い、日本国土は開発が進められ、急激に道路などのインフラ整備が進みました。
便利である反面、当然に維持費が掛かるはずです。一旦、作ってしまえば、それで半永久的に使用できるというものではなく、必ず寿命が来るという現実をどこまで認識してきたのか、カネのかかるようなことを先送りして来なかったのかなど、検証すべきことはたくさんあります。

このようなインフラ整備での問題は、他にもあります。
ガス管、水道管などは、敷設されて、何十年もたてば管自体が劣化していきますから、ある時期が来たら一斉に交換しなければなりません。

北海道北見市で2007年1月に起きた、都市ガスの大規模なガス漏れ事故は、老朽化したガス管が原因でしたが、身近なところで、生命に対する危険が潜んでいるという事故でした。
JR北海道でも、鉄路や列車の老朽化が進んでいます。車両の不具合での列車の遅れなどが目立つようになりました。

そればかりでなく、検査体制そのものが危うくなっています。
JR北海道車両検査28%で基準守られず…検査院指摘」(読売新聞2012年11月5日)と安全が脅かされかねない状況ですが、JR北海道自体に経済的なゆとりはないことが原因であり、末期的です。

先人たちは、日本国内に多くのインフラを整備してくれました。そのお陰で今日の豊かさがあります。
しかし、それを維持していくためには、やはり、先人たちと同じような努力をする必要があります。

私たちが安心で生活ができるようになるためには、安全対策は極めて重要です。
そして、その安全のためのコストもかかるということです。

安全軽視の典型が原発です。
原発は、安全を軽視し、想定される危険すらも黙殺し、目先の利益ばかりが追求されてきた結果が福島第一原発の事故を招いたわけですが、もともと安全を視野におけば高コストとなる原発などは、選択肢には入り得ないような代物なのです。

老朽化した航空機を用い、あるいは定年退職後のパイロットを雇用することによって格安料金が実現したとしても、安全が置き去りにされていないでしょうか。

私たちの身近には、生命、身体への危険は多く、誰が事故にあっても不思議ではない状況にあります。
その人に起きる事故は偶然かもしれませんが、社会全体からみれば、その人に起きた事故は必然といえます。
管理責任を問うというだけの発想では、起きてしまった事故に対する責任にはなり得ないのですから、やはり社会全体でコストを負担していくことが求められます。

その意味では、日本国内にはすべき仕事はたくさんあります。
穴を掘っては埋めるような、あるいは造ることだけが自己目的化しているようなダム建設などしている余裕などあろうはずがないのです。
危険が現実化しなければ対策は先送りするようなことでは、いつまた同じような悲劇が起きるかわかりません。

このような老朽化したものに取り囲まれている状況の中で、これに対処しうる国力がなくなってしまったのであれば、あとは衰退していくだけです。
全体の豊かさを享受しうる時代は終わったということになります。

しかし、本当にそれでよいのでしょうか。これらは、マネー経済がもたらした歪みでしょう。
当時は、外国人労働者に頼っていたわけではなく、日本人が働き、インフラ整備を支えてきたのです。
土建国家として借金を増やしてきたということはありますが、それ自体は、土建屋と時の政権与党(自民党)が私腹を肥やしてきたからに過ぎません。
「借金」で造られようが、インフラ整備は、日本人が成し遂げたことです。
かつて、できたことができなくなった、ここに日本の国力の明らかな低下があります。

ここまで国力が低下した原因はどこにあるのかを曖昧にし(財界や自民党政治の責任)、さらにグローバル化という名の下に、国民に犠牲を押し付け、安全を置き去りにしようとする、財界さえ儲かればいい、そのような構造改革路線こそ終焉させなければ、私たちの命が脅かされることになります。
笹子トンネル天井板崩落事故のように。

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