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「コロナワクチン接種率98.4%」ハーバード大学の日本人医師が、日本人に伝えたいこと

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治験による副反応のデータ

通常、体内で免疫反応が起こると、局所の疼痛、腫脹から、発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛などの全身症状が出る。これはワクチン接種がうまくいっている証拠でもある。これらの反応はワクチン接種日を1日目とするとファイザー社もモデルナ社のワクチンも通常3日以内に軽減する。

治験では、ファイザー社のワクチンの最も多い副反応は局所の痛みで、16~55歳の被験者では1回目には83%に上っており、痛み止めなどを飲んだ人は28%程度。また、頭痛、倦怠感、筋肉痛といった症状もそれぞれ42%、47%、21%であり、38度以上の発熱も4%と報告されている。

インフルエンザワクチンのフルブロックの接種で局所痛、頭痛、倦怠感、筋肉痛がそれぞれ32%、17%、13%、11%。発熱は1%以下であることを考えると比較的高い。

55歳以上ではこれが減少傾向にあるので、若い人ほど反応が強いことが考えられる。モデルナのmRNAワクチンや、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのウイルスベクターを使用したワクチンでも若年層の副反応は大きく、接種量を減らすなどする必要があると言われている。安全性も考慮しモデルナ社は現在、低用量のワクチンでの12~17歳での治験を進めている。

情報が蓄積され、広くシェアされる仕組み

接種2回目には、1回目の接種後に形成された獲得免疫も加わり反応が強くなる。そのため、副反応はどのコロナワクチンでも2回目以降に大きくなる。

ファイザー社のワクチンの治験では、16~55歳で局所の痛みは1回目より若干減少し78%であるが、頭痛や倦怠感、筋肉痛といった症状は52、59、37%と圧倒的に高い。痛み止めや解熱剤を飲んだ人は45%にのぼる。

特記すべきは38度以上の発熱で、16%と高い頻度で観察された。発熱は小児で熱性けいれんなどを起こすことがあり、ワクチン接種では敬遠される副反応であり、今後の課題となるであろう。

MGHでも、副反応の追跡調査を公開しており、大体治験と同様の結果が出ている。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、ファイザーワクチンによるアナフィラキシーの頻度は12月の時点で100万接種に11.1程度だった。インフルエンザの1.31程度に比べると高めではあるが、非常にまれであり、死亡者も出ていない。MGHでも2万6000人余りの接種者にアナフィラキシーは起きていないと報告されている。

アメリカでは緊急使用許可後、ワクチンの安全性をモニターするシステムが多数確立されている。FDA/CDCのVAERS、CDCのV-SAFE、NHSN、VSDなど、FDAのBESTなど合計9つ、軍関係のものも含めると11存在する。

接種が進むに従って情報が蓄積され、広くシェアされるようになっており、接種後これらへの登録も促された。特にVAERSは医療機関を通さず、患者本人が入力して報告することもできるシステムであるためアクセスがよく、多くのリポートが入力される。

長期的な安全性は今後の検討課題

長期的な安全性であるが、接種による免疫異常が原因として考えられているギラン・バレー症候群、急性散在性脳脊髄炎などは6週間以内の発症がほとんどであるが、ファイザーやモデルナ社のワクチンでは今のところこれらの疾患は報告されていない。

アストラゼネカのウイルスベクターワクチンでは、横断性脊髄炎が発生し、治験が一時中断されているものの因果関係ははっきりしていない。ウイルスベクターワクチンに関しては、ベクターそのものに対する免疫応答も誘導するため、これがワクチンの再投与や同様の手法を使った遺伝子治療にどのような影響を与えるのかなどは今後の検討事項といえるであろう。

mRNAやウイルスベクターワクチンの痕跡は、接種後数週間後にはいずれも検出できなくなっており、宿主に組み込まれるなど遺伝的な影響は今のところ最小と考えられている。今までと同じ技術を使った後発のノヴァヴァックス社またはサノフィ社の不活化ワクチンを待つとしても、新規Matrix-Mまたはあまり一般的でないAS03というアジュバントが使われていることがあり、安全性の検討の余地は残る。

通常、筋肉注射のワクチンでは上気道粘膜面の免疫応答は誘導されにくいため、ワクチンを接種して感染自体を防げるかはまだ疑問が残っている。ワクチン効果は100%ではないこと、効果の持続期間はまだ確立されていないため、ワクチン接種が終わっても感染対策は今まで通りに行うことが重要である。

現在MGHではマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保など厳しい感染対策が敷かれているが、副反応の一部はコロナウイルス感染の症状と一致しているため、副反応が3日以上続く場合や副反応には見られないコロナ感染の症状が見られた場合には即座にPCRでの検査を受けるように詳細に対応が決められている。

(左)接種終了後、3日間毎日副反応をチェックするメールが来て、アプリで返答するようになっている。/(右)接種が終わっても、感染対策を怠らないように指導がある
(左)接種終了後、3日間毎日副反応をチェックするメールが来て、アプリで返答するようになっている。/(右)接種が終わっても、感染対策を怠らないように指導がある - 図版=筆者提供

大規模な接種プログラムの課題

接種プログラムに問題が全くなかったわけではない。2021年1月28日付のニューヨークタイムスなどで「ニューヨークやボストンのエリート医学施設では優先されるべきでない若い研究職員までワクチンを接種している」と批判にさらされた。

だが病院は医師や看護師だけで成り立っているわけではなく、警備やカフェテリアの従業員などもいないと正常に機能しない。研究職もコロナウイルスの研究に携わっているという直接的なものから、職員の臨時配置換えで患者や職員にマスクを配布したり、集中治療室の医療行為でない部分をサポートするなど予備労働力として貢献していたため接種の対象としている。

実際に3月には感染の波がどの程度大きくなるか予想がついておらず、外国の医師免許をもつ職員に臨時で医療行為をさせる可能性なども真剣に議論されており、実際に日本の医師免許を持つ私の所にも可能性を告げる打診のメールが来ていた。

また、ワクチン接種への関心の高さから、開始後1日で予約アプリに5万件を超えるアクセスがあった結果、システム障害が生じ、12月17日に院長が謝罪に追い込まれている。順番に不満があったからか、内部からも「統制が取れていない」という告発があり、現役の看護師がCNNなどでシステムの不備を訴えた。

しかし、病院のコミュニティ全体を接種するというMGHの対応は一貫してぶれることはなかった。その後特に大きな混乱なく、接種が計画通り順調に進んだ。接種数や副反応などの情報が透明に伝えられていたことから不満は全く聞かれなくなった。

2月3日の時点で、1回目を終了した職員は98.4%、2回目を受けた人も36%に達し、今後数週間で職員の接種はほぼ完了する。

ワクチン接種の効果を左右する「スピード感」

条件設定にもよるが、このパンデミックを収束させるには50~75%程度の人が免疫を持たなければならず、この集団免疫をワクチンで達成するためには効果の高いワクチンをもってしても75~90%程度を接種する必要があると考えられている。

コロラド大のサイエンス誌のシミュレーションでも示されているように、高齢者を優先した接種で最も高い効果が得られるというコンセンサスから、マサチューセッツ州全体では医療従事者に次いで2月1日より75歳以上の高齢者の接種が開始された。

2021年2月6日時点でアメリカ全体でも1日130万人ほどが接種されている。果たしてこの速度は十分であろうか。

バイデン政権で新たにCDC長官に就任したロッシェル・ウォレンスキー先生のグループによるHealth Affairs誌の論文によれば、現在の人口の0.2~0.3%というペースではどんなに接種率を増やしても感染は10%ほどしか減少させることはできない。

通常のインフルエンザワクチンの0.5%程度の速さになると、50%以上の人が接種を完了すると初めて35%ほど感染が抑えられるとの試算である。つまり、いくら効果が高いワクチンができても、一部の人しか接種していないか、または接種のスピードがゆっくりでは効果が全く期待できないことになる。

ワクチンの生産や接種の遅れ、またワクチン忌避はワクチンの効果を顕著に阻害する。感染が収束しないと、変異株の出現などで感染が断ち切れないため、パンデミックは収束しない。つまり、ワクチン接種は全世界で一斉に取り組まないと解決しない問題である。ちなみに私は3年前までMGHの感染症科に所属していたが、その時の主任を務めていたのがウォレンスキー先生で、私もキャリア形成などで直接お世話になっていた。

徹底した情報公開と便乗効果

ワクチン接種を推奨するのにもっとも効果的な方法はどんなものであろうか?

ペンシルバニア大学の論文(Hershey et al., Organ Behav Hum Decis Process, 1994)によると、人々のワクチン接種を決める最も重要な要素は、Bandwagoning(バンドワゴン効果)、つまり周りの人がそうしているなら私も受けようという便乗心理である。

これを踏まえて、アメリカではワクチンの啓蒙活動が盛んであり、なるべく多くの人に接種を呼びかけることでさらに接種の輪を広げる努力がされている。

2021年2月5日の院内メール。コロナ陽性入院患者数、職員接種進歩状況、接種した人のインタビューなどが載せられている。
2021年2月5日の院内メール。コロナ陽性入院患者数、職員接種進歩状況、接種した人のインタビューなどが載せられている。

10~11月ごろには私の周囲でも、肩書や専門分野、人種や文化的背景を問わずかなり多かったワクチン懐疑論であるが、1月に入り接種者が増えてきた段階でワクチン懐疑論は急速に消え失せていった。

頻回のメールや対話集会の開催、電話やメールにての質問への徹底した対応を通して情報がシェアされ、周囲の同僚が接種の経験を語り始めた結果、私の同僚の接種率も1月末にはほぼ100%になった。

カイザー・ファミリー財団の調査では9月の時点でワクチン接種を望むアメリカ人は63%ほどであったが、12月の時点で71%を超え、現在はこれがさらに上昇していると言われている。

コロナウイルスのパンデミックで世界の全ての人の生活は多かれ少なかれ影響を受けているが、特にアメリカの損害は大きい。移動、集合の不自由、スポーツイベントのキャンセル、バーの閉鎖など1年にわたる規制に非常に疲れており、一刻も早くこの状況から脱却したいという願いも強い。

病院内の感染対策やPPEの供給は比較的充実しており、医療従事者自体の感染は非常に少なかったものの、患者のケアを直接担当する医療従事者は感染の現実に触れ、恐怖心があったのも間違いないであろう。が、「もう何人接種した」というメッセージは、接種しないという人がマイノリティになればなるほど効果があったように思う。

2020年の3月よりボストン市のバーは閉鎖されたまま。熱狂的なボストンレッドソックスファンであったマクグレービー氏による1894年開店の「三塁サロン」を起源に持つ「アメリカ最古のスポーツバーMcGreevy's」も閉店を余儀なくされている。
2020年の3月よりボストン市のバーは閉鎖されたまま。熱狂的なボストンレッドソックスファンであったマクグレービー氏による1894年開店の「三塁サロン」を起源に持つ「アメリカ最古のスポーツバーMcGreevy's」も閉店を余儀なくされている。 - 筆者撮影

正しい情報を基にリスクを理解する

また、医療従事者や研究者のなかで、ワクチン忌避に結びつくいわゆる「誤った情報」「デマ」が流れにくかったのは大きい。科学的に不正確な情報を発しないというだけでなく、間違った情報を間違ったと判定できない時点で科学者としての能力を疑われるであろう。

ニューヨーク州立大学のグループによる11月下旬~12月上旬における調査では(Shaw et al., Clin Infect Dis, 2021)、医師や研究者のワクチン接種を希望した率は80%と非常に高い。科学的な背景を十分理解し、リスクとベネフィットを天秤にかけることができたからであろう。

パンデミック対応には速度が重要という観点から、学術的情報の共有が速まり、論文の無料アクセス、プレプリントサーバーの活用、オンラインのミーティングでの未発表データのシェアなどが広く進んだほか、モデルナやジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの開発や治験に直接関わっていたハーバード大学関連の研究者を交えた活発な情報交換が春先から行われていたことなども理解を促進したと考えられる。

私は接種を希望したが、個人的にはリスクとベネフィットを天秤にかけたにすぎない。

コロナウイルス感染症は肺炎が起こり、重症の急性呼吸不全を起こすだけではなく、体内のさまざまな細胞に感染し、PCRが陰性になった後も呼吸困難感など呼吸器系の症状が持続する。

このほか、うつなどの中枢神経系障害、熱がないのに持続する全身倦怠感、脱毛などの皮膚疾患、心筋炎などの循環器系への多様な長期的影響があることが知られてきている。

実際に感染した職員がこのような症状に苦しんでいるという話も伝え聞く。ワクチンのまれな副反応よりコロナに感染することを避けたいという一言に尽きる。

トップダウンの強力なオペレーション

コロナワクチン接種は、各自治体や国だけでなく、世界全体で足並みをそろえないと効果が上がらない。ワクチンの接種管理は連邦政府から分配後各州に委ねられるが、2月6日現在、先行している州が11%ほどの接種率なのに対し、7%台の州もあり格差が見られる。

ワクチン接種は超低温保存など新規薬剤取り扱いの難しさもあるので、州に適切なガイドラインを示し、資金や人材、PPEなどのリソースを提供することが必須である。トランプ前政権はワクチンの戦略的生産、配分などを通じて各州に必要なリソースを与えるリーダーシップに欠け、CDCなどにいる連邦政府の有能な公衆衛生の専門家が有効に活用できておらず失策があった。

時間やリソースが限られている中、ハーバード大学関連病院で行われたトップダウンの強固なオペレーションは1つのモデルと言えるかもしれない。

コロナウイルスワクチンは今後毎年接種になるかもしれないとの予想もあり、システムづくりに注力することは今後への投資にもなるであろう。私は、ワクチン接種推進派でも反対派でもないが、以上、これからワクチン接種をされる皆様の参考になれば幸いである。

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柏木 哲 ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院講師
ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院放射線科Assistant Professorとして基礎医学研究室を主宰。慶應義塾大学医学部卒業後、産婦人科医として勤務したのち慶應義塾大学大学院医学研究科修了(博士、医学)。2003年よりハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院にて研究員として基礎医学の研究のため渡米後、市民権を取得しアメリカ合衆国に帰化。長野県小諸市に生まれ育つ。マサチューセッツ州ボストン市在住。
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(ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院講師 柏木 哲)

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