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日本型デフレ、終わりの始まり

前回のエントリーではセンタンス氏による欧米経済に於ける”低成長・高インフレのニューノーマル”論を紹介したが、日本はどうなるだろうか?

結論から言えば、筆者は日本は”低成長・プラスインフレのニューノーマル”へと突入していくのではないかと考えている。

“プラスインフレ”になるということはデフレが終わることを意味している訳だが、これは別に安部総裁が首相になれば日銀がどうこうというような話とは関係なく、これまでの金融政策を維持していれば自然とそうなる(そうなってしまう)だろうという予測である。 まずこれについて以下ざっと説明を加えてみる。

一つ目はセンタンス氏も指摘していた、中国製を初めとする輸入品の低価格化に限界が見えてきたことである。これについては既に前回紹介したので繰り返さないが、一点付け加えるなら中国、韓国の為替操作による輸出価格の抑制にも限界が見えてきたこともこの傾向を後押しする可能性がある。もちろん世界には中国よりも人件費が安い国もあるが、量的な点から考えると当面は中国の生産コストがガイドラインになり続けると考えられ、これまでのように安価な輸入品がインフレを抑制して購買力を底上げし続けるるような状況には戻らないだろう。

又、これもセンタンス氏が指摘していたことであるが、資源やコモデティ価格も短期的には乱高下もあるかもしれないが長期トレンドとしては上昇し続ける可能性が高い。これもインフレの底上げ要因となる。

上の2点は世界的なトレンドであり、今に始まったことでもない。その様な状況下であるにも関わらず日本でデフレ・低インフレが継続してきたのは、それらの輸入品の価格上昇を打ち消す円高トレンドが存在したからであるが、その趨勢的な円高トレンドにも終わりが見えてきたように見える。

為替が(一部の人々が声高に主張するように)両国間の通貨量に反応するのではなく、金利差に反応していることは各所で指摘されている。そして円の長期金利は長年にわたってほぼゼロに張り付いてきたのに対し、欧米諸国はまだプラス金利で利下げ余地があった為、その金利差は趨勢的な円高圧力となりつづけてきた。しかしながら幸か不幸か現在では多くの先進諸国は実質的に利下げ余力を殆ど使い尽くしており、金利差からくる円高圧力は大きく減じたと考えられる。

加えて世界的な資源・コモデティの価格高騰のあおりも受け、日本の経常収支の黒字幅が減ってきており、これも円安を予測させるものとなっている(これは異論のある所かもしれないが、)。

又、短期的なところで言えば、リーマンショック以降円は避難通貨となってきたが、中長期的にはこの状態は解消されるはずである。よって世界経済(特に欧州経済)が落ち着けば資源・コモデティをはじめとする輸入品の価格が上昇することが予想されるが、日本の場合はそれが円安と重なり影響が増幅される可能性がある。

ついでに少し違う視点から見てみると、日本のインフレ率は長期にわたり欧米のインフレ率より1-2%低い水準であり続けてきた。このトレンドが維持されれば他の先進諸国が高インフレとなれば日本はデフレから抜け出すことになる。

で、一部の人々にとって待望のインフレが日本にもやってくるわけだが、それで日本経済は彼らの期待通りに復活するだろうか?

残念ながら筆者にはそうは思えない。確かにデフレであること自体による経済へのマイナス面は存在してきたのだろうが、実際の所それが決定的なものであったという証拠は殆ど無い。バブルに踊っていた国・期間を除けば、一人当たりの実質GDP成長率はデフレであった日本もその他の先進諸国も大きな違いはなく、失業率もデフレ下の2007年頃にはほぼ自然失業率近辺まで改善していた。今後欧米をはじめとした他の先進諸国が”低成長・高インフレ”の経済となる中、日本がプラスインフレになるだけで高成長を謳歌できるようになると期待できる要素があるとは思えない。

又、欧米経済におけるインフレも日本に訪れるであろうインフレも輸入インフレをベースとしたいわゆるコストプッシュインフレであり、それ自体が直接的に国内経済に好影響を与えるわけでは無い。

プラス面を見れば輸出業界の一部は世界経済の回復と円安が同時に来ることによって利益を得るだろうが、過去の実績を考えるとトリクルダウンによる効果がコストプッシュインフレによる弊害を打ち消すほどになるかは疑問である。

筆者の理解では今、日本型デフレは終わりの始まりを迎えている。もちろんこれはすぐに日本がデフレ・低インフレから高インフレへとなることを意味するわけでは無く、当面は神経質な展開が続く可能性は高い。しかし世界経済が新たな”ノーマル”に移行する中で日本だけが低インフレであり続けることはないだろう。そして、それは誰もが好景気を実感できるような時代が来ることを意味している訳では無い。日本は少子高齢化に伴う社会福祉負担の増大や膨大な累積債務問題に直面しており、新たなノーマルではこの真の問題がより喫緊の課題として顕在化するだろう。

日本のニューノーマルが”低成長・低インフレ”ですむのか”ゼロ成長・低インフレ”になるのか、或いは事態が悪化し”ゼロ成長・高インフレ”になるのかは次の政権の舵取り(+アメリカの舵取り)に掛かっている(手遅れで無ければ、だが)訳であるが、各党の選挙公約を見る限りどの党も余り期待できそうにないのが気がかりな所である。

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