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中国海警法とグレーゾーン事態など

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 石破 茂 です。
 森喜朗会長の問題とは、会長一人だけの属人的な問題なのではないのだと思っております。後任人事もこれを書いている時点では未確定ですが、情報の混乱ぶりもあわせ、何かがおかしいと思わざるを得ません。

 人情に厚く、こまやかな心遣いをされ、比類ない面倒見の良さで知られる森会長にお世話になって「足を向けては寝られない」人々は大勢いて、それは永田町・霞が関・大手町・丸の内の政財官界に限らず、テレビ・新聞・雑誌などのメディアや、学問の世界においても、広くあまねく存在し、そしてそのような人ほど諫言はしにくいものです。

 国立競技場の設計変更やエンブレムのデザイン、マラソンや競歩の開催地の変更など、面倒極まりない案件が多く発生した中で、そのたびに森会長の指導力が必要とされたことでしょう。病身を押してそれらに取り組んでこられた「功」の部分が正当に評価されなくては、衡平を失するというものです。

 時折「絶対的権力は絶対的に腐敗する」というジョン・アクトン卿の格言を思い出します(このあと「偉人はほとんど常に悪人である」と続きます)。権力とは個人に帰属するものではなく、取り巻く多くの人々の利害と思惑の集合体であるからこそ、「革命」はその外の人々の手によって正義の名のもとになされるわけです。

 そして、それは経験を経てシステム化され、わが日本においても主権者による選挙がその役割を果たすことになっています。

 「絶対的に腐敗する」権力がそうならないためのシステムの構築は極めて困難なのですが、議員の定年制や、同一選挙区からの一定期数以上の立候補制限などは、幾多のマイナスを差し引いても政治全体のためには一考に値するように思われます。

 「余人を持って代えがたい」とはよく言われる言葉で、昨年の東京高検検事長問題の時もそのようなことが言われましたが、「代えがたい」のではなく「潰してきた」という面が仮にあったとすれば、それはもはや公のための組織とは言いえないでしょう。

 自らの至らなさを十分に承知の上でそのように思います。

 今月1日からの中国の海警法施行について、自民党内で議論がなされています。

 中国の持つ国際法の感覚は我が国のみならず世界のそれと大きく異なっていますし、今回海警もその組織の一部となった人民解放軍は「国民の軍隊」ではなく「中国共産党の軍隊」であることも我々はよく認識せねばなりません。中国に対して強い遺憾の意を表したり、厳重に抗議するのは当然ですが、それによって中国の態度が変わるなどという期待を持つべきではありません。

 「バイデン大統領は尖閣が日米安保条約第5条の適用の対象であることを明言した」とあたかも大ニュースのように報じるメディアがありますが、「どのような事態に適用になるのか」が問題なのであり、これによって日本人の多くが「尖閣もアメリカが守ってくれる」と誤解してしまうことの方がよほど恐ろしい、というのは以前から申し上げている通りです。

 「中国海警が尖閣諸島周辺の日本領海で日本漁船とトラブルになり、海保と銃撃戦となった」というような事態はあくまで日本国が対処すべきものであって、このような事態で米軍が出てくるはずはありません。

 自衛権の行使としての実力行使は「我が国に対する」「国または国に準ずる組織による」「急迫不正の武力攻撃があり」「他に取るべき手段がないとき」にのみ認められる、というのが従来から一貫した日本政府の立場ですが、「急迫不正の武力攻撃」の認定が難しいケースが、いわゆるグレーゾーンの問題です。

 一定の要件をあらかじめ設定して防衛出動で対応する、という解もありえますが、治安出動すら一度も発動したことの無い我が国において、このハードルがどれほどに高いか。法律の理屈だけをどんなに精緻に構築しても、実際に機能しないのであれば意味はありません。

 「我が国の国家主権たるわが国領域が、他の国家主権を体現する主体によって侵害された時は、国際法および確立した国際慣習に基づき、自衛権で対応する」というのが本来あるべき姿であり、国家主権の侵害に警察権で対応することを原則とすべきではないと考えます。

 このリスクマネジメントはもちろん相当に困難なものですが、それを成し遂げてこそはじめて国家の名に値するのではないでしょうか。海保や海自の現場に大きな負担をかけ、逡巡を強いて、時間を空費することによって生ずる大きな国家的損失を明確に認識すべきです。

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